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第71話 俺より強いのは当たり前として、ヘル姐やジー姐と比べたら、どうなんだろう?

「できれば、使いたくなかったんだが……」


 バネッサは呼吸を整え、練り上げられる最大量の奥拉オーラを練り上げる。

 膨大な奥拉を一気に体内に満たしたので、バネッサの全身が青白く輝く。


 その膨大な奥拉を、バネッサは両手から二本の剣に流し込み、纏わせた状態で、ゴーストドラゴンの首に向ける。

 二本の剣の剣身が、激しくスパークし始める。


 直後、バネッサは二本の剣から、膨大な量の青白い奥拉を、ゴーストドラゴンの首に向けて放出する。

 膨大な奥拉の奔流が、ゴーストドラゴンの首に襲い掛かり、まだ半分繋がっていた首を、完全に断ち切ってしまう。


 首を切断した奥拉の奔流は、地面を直撃し、大爆発を引き起こす。

 既に光の矢は消え失せている状態で、地面が砕け散り、足下が崩れたせいで、ゴーストドラゴンはゆっくりと転倒する。


 膨大な奥拉を放った反動で、バネッサの身体は吹っ飛ばされている。

 運動能力に優れたバネッサは、自分の攻撃による反動で、二十メートル程吹っ飛ばされ、地面の上を転がる羽目になったが、すぐに起き上がり体勢を立て直す。


 バネッサの両手に、既に二本の剣は無い。

 膨大な奥拉を練り上げ、二本の剣に纏わせ、一気に放出する射撃剣シューティングソード……ベテアルディアブロを使うと、大抵の剣は負荷に耐え切れず、砕け散ってしまうのだ。


 膨大な奥拉を費やし、おまけに武器まで失ってしまうので、バネッサとしては、できればベテアルディアブロを使いたくはなかったのである。

 ベテアルディアブロはバネッサの決め技であり、これで倒せないとなると、後がない状況に追い込まれてしまうので。


 ベテアルディアブロを使ったとしても、バネッサは戦えなくなる訳ではない。

 ただ、ベテアルディアブロで倒せない相手となると、バネッサの手は尽きたも同然なのだ。


 一応、折り畳み式の携帯用の剣……折畳剣フォールディングソードを、バネッサはリュックに入れて持ち歩いてる。

 ただ、折畳剣は強度が弱く、強力な攻撃には使用できない欠点があるので、あくまでも非常用の装備でしかないのである。


「……ま、何とか倒せたな」


 倒れて動かなくなったゴーストドラゴンの身体と、離れた所に転がっている、ゴーストドラゴンの頭部を視認したバネッサは、安堵の表情で呟く。

 ガーディアンと違い、モンスターは倒された後、黒い煙となって消え去ることはなく、残骸が残される。


「高い剣だったんだけどねぇ」


 空になった両手の指を、解すように動かしながら、バネッサは愚痴を吐く。

 ベテアルディアブロを放つと、手にもかなりの負荷がかかるので、解して調子を整えているのだ。


「ティルダ! 防御結界頼む!」


「了解!」


 バネッサに言葉を返すと、すぐさまティルダは呪文の詠唱を開始。

 ゴーストドラゴンの残骸を包み込むように、仄かな光を放つドーム状の防御結界を作り出す。


「凄いな……倒しちまった」


 戦いを見守っていた寧人は、感嘆の声を漏らす。

 殆どの冒険者達は、既に連結孔から逃げ去り終えていたのだが、寧人は好奇心に負けて居残り続け、観戦を続けていたのだ。


 その結果、モリグナが見事な手際で、ゴーストドラゴンを倒した光景を、寧人は見ることになった。

 故に、寧人は素直に、モリグナの強さに感嘆したのである。


 一人でドラゴンを倒すのを前提としている、武仙幇の震天動地とは戦い方が違う、チームプレイではあるのだが、学ぶことの多い戦いであった。

 危険を冒して、居残り続けてよかったと、寧人は思う。


 特に、接近戦を担当している、バネッサの実力の高さに、寧人は目を見張った。


「俺より強いのは当たり前として、ヘル姐やジー姐と比べたら、どうなんだろう?」


 そんな疑問が、寧人の頭に浮かぶ。

 夢琪に言わせれば、奥拉戦技は內功の劣化版であり、輕身功に相当する奥拉駆動は、同程度の氣と奥拉の出力であれば、圧倒的に輕身功の方が速いらしい。


 だが、奥拉駆動を使ったバネッサは、輕身功を使った自分より、寧人には速く見えた。

 輕身功を使ったヘルガやジーナに比べれば、遅いと言い切れたのだが、攻撃力はバネッサの方が、数段上に見えたのである。


 もっとも、寧人はヘルガやジーナの本気の攻撃や、決め技といえる技を、目にしたことがない。

 ヘルガやジーナの本当の実力を、まだ寧人は知らないのだ。


 故に、バネッサを二人の師姐と比べた場合、どちらが強いのか分からず、寧人は疑問を抱いたのである。

 シェイラとティルダの二人も、凄い実力を見せつけはしたのだが、戦闘スタイルが違い過ぎるので、比較対象にはし難かった。


「……あんだけ強ければ、俺が八卦溫泉に落ちた時、ヘル姐を呼ばなくても、余裕で俺を撃退できたんじゃないのかな?」


 そんな疑問も、寧人の頭には浮かぶ。

 実際、バネッサには余裕で撃退が可能だったのだが、近くにヘルガがいたのと、湯から出て裸を晒すのが嫌だったので、あの時はヘルガに任せていただけだった。


「高い剣だったんだぜ! 賞金はずんでくれよ!」


 第二キャンプの辺りに戻りながら、ゴーストドラゴンが倒されたことを喜んでいるバウンサー達に、バネッサが声をかけた直後、異変が起こる。

 地面が地震のように、大きく揺れ始めたのだ。


 嫌な予感に、寧人は襲われる。




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