(これって、まさか……)
寧人の予感は、正しかった。
ゴーストドラゴンが倒された辺りから、三百メートル程、寧人がいる北東側にずれた辺りの地面が、噴火でも起ったかの如く盛り上がり始め、地面に地割れが走り始めたのだ。
そして、盛り上がった辺りの地面が崩れたかと思うと、そこから灰色のゴーストドラゴンが、姿を現したのである。
「そんな……もう一体いたのか!」
誰かが上げた驚きの声が、辺りに響き渡る。
その言葉通り、もう一体……ゴーストドラゴンが、姿を現したのだ。
ゴーストドラゴンを倒し、流れ始めた安堵の空気は、あっという間に消え去り、絶望的な空気が蔓延し始める。
ゴーストドラゴンが二体も現れるという事態は、誰も想定していなかったので、そうなってしまうのも当たり前といえる。
二体目のゴーストドラゴンも、二十数メートル程の大きさがある丁龍だ。
地上を目指しているらしく、大きく息を吸い込んで、ドラゴンブレスを放つべく、ゴーストドラゴンは口を上に向ける。
そこに、巨大な火球が襲い掛かり、ゴーストドラゴンの頸部を直撃。
だが、シェイラは前回程には魔力が蓄積できず、
しかも、
バネッサが倒せなかった時に備え、ティルダは念の為に呪文を唱えていたのだが、倒せてしまったので、詠唱を止めていたのだ。
そして、バネッサに至っては、既に主力武器を失い、奥拉の殆ど使い切った状態であった。
奥拉を練れば回復はするのだが、ベテアルディアブロを放てる程に回復するのには、それなりの時間がかかってしまう。
並のガーディアンやモンスターが相手ならともかく、ゴーストドラゴン相手には、今のバネッサは戦力になれない状態だ。
まさに、手詰まりといえる状況であり、さすがのモリグナも、危機に追い込まれていた。
ゴーストドラゴンは再び大きく息を吸い込み、自分に攻撃を仕掛けてきた、シェイラがいる辺りを狙うかのように、口を向ける。
シェイラがいる第二キャンプの辺りには、ティルダやバウンサー達もいるし、バネッサも近付いてきていた。
だが、ドラゴンブレスが放たれる前に、第二キャンプとゴーストドラゴンの間に、分厚い半透明の壁のような、三重の防御障壁が出現する。
三人のバウンサーの聖術士達が、
複数の聖術士が協力して発動する、連携防御障壁により作り出される防御障壁は、強力な防御能力を誇る。
ロードガーディアン戦など、強力なガーディアンやモンスターとの戦いに参加する聖術士にとっては、必須といえる防御用の聖術なのだ。
今回は一方向からの攻撃の身を防ぐ、防御障壁型の連携防御障壁が使用された。
全方向からの攻撃を防ぐ、結界型の
連携防御障壁が完成した直後、ゴーストドラゴンが口からブレスを吐き出す。
氣を含んだ強力過ぎる息吹は、地面が砕けて発生した、大量の土砂岩石を巻き込んで、暴風となり吹き荒れる。
魔術士が集団で放つ攻撃魔術に匹敵する、ドラゴンの息吹……ドラゴンブレスは、連携防御障壁を直撃。
二枚の防御障壁を、あっさりと粉々に破壊し尽くす。
残された最後の防御障壁も、既に半壊している状態。
ドラゴンブレスの追撃を食らえば、最後の防御障壁が砕かれ、モリグナとバウンサー達が壊滅してしまうのは、確実と言える状況。
(やばい、このままじゃ……あの三人が死んじまう!)
モリグナの三人とバウンサー達の命の危機を、寧人は察する。
(……俺なら、助けられるかもしれない!)
自分が陰陽寶珠を使えば、皆を助けられる可能性があることに、寧人は気付く。
「陰陽寶珠は命の危険がある時しか、使っちゃいけないよ」
寧人は夢琪からしつこい程に、そう言い聞かされていた。
「本当に、ここで使わなければ死ぬって時だけしか、使っちゃ駄目だからね!」
夢琪に言われた言葉が、寧人の心に蘇る。
「今は……命の危険はあるし、ここで使わなければ死ぬって時だよな……俺じゃなくて、モリグナとバウンサー連中が……だけど」
寧人は自分に、そう言い聞かせる。
無論、夢琪が言っていたのは、寧人自身の命の危機といえる場面でしか、陰陽寶珠を使ってはいけないという意味なのは、寧人にも分かっている。
分かってはいるのだが、目の前で人が殺されそうになっている、しかも……その中の三人は友人である場面を、寧人は見過ごすことはできない。
故に、夢琪の命令の意味を、分かっていながら故意に捻じ曲げ、この場面で自分が陰陽寶珠を使うことを、寧人は正当化したのである。
「スーパーヒーロー目指す奴が、この場面を……黙って見過ごせる訳がないだろ!」
そう言い放ちながら、モリグナの戦いを見ながらも、いざという時に備えて、練り続け溜めていた膨大な氣を下丹田に集め、陰陽寶珠を
寧人は両手で陰陽寶珠に触れると、鋭い声を発する。
「
すると、陰陽寶珠が白い閃光を放ち、寧人の全身を包み込む。
そして、すぐに閃光は消え去り、假面武仙となった寧人が、姿を現す。