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第73話 ドラゴンブレスは一度放てば、すぐには放てない!

 洞天福地での修行において、寧人の氣の力は比較にならない程に高まっているし、變身した上での修行も行っている。

 最初にドラゴンと戦った時の、不慣れで不安だらけの時とは違い、既に寧人は變身には慣れている。


寶貝ほうばい列表れっぴょう!)


 寧人は即座に、心の中で「寶貝列表」と唱え、視界に寶貝列表……寶貝のリストを表示される。

 今は五つの寶貝が表示されているのだが、寧人は迷わず、使用する寶貝の名を口にする。


屏障仙傘へいしょうせんさん!」


 すると、ベルトの右側に装着されている、瓢箪型のカプセル……小葫蘆罐しょうころかんの一つから、小さい棒が飛び出してくる。

 棒は一瞬で、一メートル数十センチ程の長さの、黒い木製の棒……屏障仙傘に変化する。


 寧人は屏障仙傘の端を右手で持つと、もう一方の先端を、第二キャンプの方向に向ける。


かい!」


 鋭い声を寧人が発すると、第二キャンプとゴーストドラゴンの間に、開かれた状態の巨大な傘が出現する。

 直径百メートル程の、木製の骨組みに白い油紙が貼られた、古びた感じの傘……屏障仙傘が、モリグナやバウンサー達を守るように出現したのだ。


 屏障仙傘の傘の部分は、幻であるかのように半透明に見えるのだが、超強力な防御能力を持っている。

 以前と違い、氣の力が飛躍的に強まった今の寧人なら、屏障仙傘を数百メートル離れた辺りだろうが、出現させることができる。


 寧人が屏障仙傘を出現させた直後、再び息を吸い終えたゴーストドラゴンが、第二キャンプの方に向けて、ドラゴンブレスを放つ。

 前回と同様の、凄まじい勢いの息吹なのだが、今回は巨大な傘に、完全に防がれてしまう。


「何……これ? 傘?」


 レベル5以上の聖術士が三人がかりで展開した連携防御障壁ですら、ドラゴンブレスは一撃で殆どを破壊してしまった。

 そんなドラゴンブレスを、易々と防ぎ切る巨大な傘を目にして、シェイラは驚きの声を漏らす。


 驚いていたのはシェイラだけではなく、他のモリグナの二人もバウンサー達も、ドラゴンブレスが謎の傘に防がれたことに、驚いていた。

 無論、驚くのと同時に、命が救われたことに安堵もしていたのだが。


(よし、まず……みんなを守るのは成功だ!)


 ドラゴンブレスが止むタイミングを見計らい、寧人は鋭い声で叫ぶ。


「閉(へい)!」


 氣の力が高まった今、屏障仙傘を展開したままでも、寧人は動くことができる。

 だが、屏障仙傘を展開したままでは攻撃力は落ちるので、攻撃に転ずる為、屏障仙傘を閉じたのだ。


 屏障仙傘は一瞬で閉じて消え去り、寧人が手にしていた棒の部分も、小葫蘆罐の中に戻ってしまう。

 一瞬で戻ってしまうので、第二キャンプにいた人々にも、何が起こったのかは全く分からない。


(ドラゴンブレスは一度放てば、すぐには放てない!)


 殆どのドラゴンは、ドラゴンブレスを連射できないことは、夢琪やヘルガから、寧人は教わっていた。

 特に、丁龍や丙龍へいりゅうなどの、比較的小型といえる部類のドラゴンは、確実といえる程に連射はできないのである。


 一度放つと、息を吸い込み、肺の中で龍氣と混ぜ合わせなければ、ドラゴンブレスを放つことができない。

 これに短くても十数秒の時間がかかるので、ドラゴンブレスは連射が困難なのだ。


 龍氣に様々な性質を付与したりもする、より高度で強力なドラゴンブレスを放つ場合は、更に時間がかかってしまう。

 ただ、普通のゴーストドラゴンは能力が低いので、龍氣に属性を付与して、ドラゴンブレスを放つことはないのだが。


(今なら屏障仙傘を解除しても、みんなは安全な筈だし……)


 ドラゴンブレスを放つ為、大きく息を吸い込み始めたゴーストドラゴンを睨み付けながら、寧人は続ける。


(隙だらけだ!)


 寧人は輕身功を発動すると、ゴーストドラゴンに向かって駆け出す。

 三百メートル程の距離を、先程のバネッサよりも遥かに速い、まさに疾風の如き速さで駆け抜けると、あっという間にゴーストドラゴンの近くまで辿り着く。


 そして、寧人は地を蹴り、ゴーストドラゴンの首を目掛けて、矢のように素っ飛んで行く。

 震天動地の直線的な高速の跳び蹴り、飛彈踢ひだんてきを放ち、ゴーストドラゴンの首を狙ったのだ。


 鈍くて大きい衝突音を響かせながら、寧人の飛彈踢はゴーストドラゴンの首を直撃する。

 だが、装甲のように分厚い体表の一部を、僅かに傷付け、ゴーストドラゴンの体勢を崩す程度のことしか、飛彈踢にはできなかった。


 ゴーストドラゴンは平然と体勢を立て直し、奇襲攻撃を仕掛けて来た寧人の姿を探し、蹴り飛ばされた首の辺りを、前足で確認する。

 だが、ゴーストドラゴンの前足は、寧人の存在を確認できない。


 ゴーストドラゴンの首を蹴った後、寧人はそのまま宙に舞い上がっていたのだ。

 第六階層の天井に辿り着いた寧人は、洞窟の天井にぶら下がる蝙蝠のように、天井に足で立ってぶら下がっていた。




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