心地よい揺れと、人肌の温もり、聞き覚えのある人達の声と、汗臭さ……。
意識を取り戻した寧人の頭に、様々な情報が流れ込んでくる。
誰かに背負われて、運ばれているらしいのを、すぐに寧人は察する。
何故、自分が誰かに運ばれているのか、その理由もすぐに思い当たる。
(俺……ゴーストドラゴンの……骨にやられたんだ)
意識を失う直前に、自分のミスに気付いたことを、寧人は思い出す。
そのせいか、意識が戻る前、夢琪にゴーストドラゴン……鬼龍について学んだ時のことを、夢に見たような気が、寧人にはしていた。
(あれ? 俺……誰に背負われてるんだろ?)
身体の姿勢と揺れから、自分が誰かに背負われているのは、寧人には分かる。
寧人の目は開いているのだが、背負われている今、相手の身体が近過ぎるせいで、誰だか分からない。
それでも、銀色の髪に褐色の肌、青い服の一部を、寧人は何とか視認することができた。
目にした条件が揃っている人間を、寧人は記憶の中から探し出し、その名を呟く。
「……バネッサ……さん?」
寧人の声を聞いて、意識を取り戻したのに気付いたバネッサは、安堵した風な声で、言葉を返す。
「起きたか? よかった……」
聞き覚えのあるバネッサの声を聞いて、寧人は状況を理解する。
自分が意識を失った後、バネッサに背負われ運ばれているのだと。
落下防止の為に、バネッサの首に抱きつく形で、両手首が縛られているらしく、寧人は腕を動かすことができない。
寧人は頭を動かし、周囲の状況を確認する。
近くを歩いているシェイラとティルダが、安堵の表情を浮かべている姿が、寧人の目に映る。
二人の背後に見える景色は、見覚えのある砂漠。
自分が第二階層にいるらしいことが、寧人には分かった。
(どうやら、気を失った後、モリグナさん達に運ばれて、第二階層まで上がってきたみたいだな)
おおよその状況を理解した寧人に、ティルダが問いかける。
「脇腹の具合はどう? 聖術で治療しておいたから、大丈夫な筈だけど」
ティルダに問われ、寧人は左脇腹が、全く痛くないことに気付く。
一撃で気を失う程、強力な一撃を食らっていたのに。
「大丈夫です、痛みも……何もありません」
「意識回復の術もかけたんだけど、消耗が激し過ぎたみたいで、目を覚まさなかったから、私達が交代で運んできたの」
ティルダの治療が終わった後、寧人の苦痛は取り除かれたので、その顔は安らかであった。
意識回復の聖術をかけ、ティルダは寧人を目覚めさせようともしたのだが、目覚めなかった。
故に、モリグナの三人が交代で寧人を背負い、アガルタから運び出すことになったのである。
「あの……もう自分で歩けるんで、下ろして下さい」
落下防止の為、両手首を縛られているので、寧人は自分だけでは、バネッサの背から下り難いのだ。
「遠慮しないで、地上まで背負われてりゃいいのに」
冗談半分で、そんな言葉をバネッサは返しつつも、寧人の意志を尊重。
バネッサは立ち止まると、手首を縛っていたロープ代わりのタオルを解いて、寧人が下りられるようにする。
寧人はバネッサの背中から下り、身体の状態を確認する。
ほぼ問題が無い状態まで、寧人の身体は回復していた。
「
ティルダの言う奥拉経路とは、奥拉戦技における、經絡の呼び名だ。
寧人の治療を行う際、經絡の状態が悪いことに、ティルダは気付いたのだが、治療はできなかったのである。
通常の奥拉経路……經絡のトラブルであれば、ティルダは治療可能。
でも、消氣衰は通常のトラブルではないので、ティルダにも回復させられなかったのだ。
「あ、治療と回復……有難うございます!」
まだ礼を言っていなかったことに気付き、寧人は慌ててティルダに頭を下げる。
「何言ってるの、助けてもらったのは、私達の方だよ」
ティルダの言葉を、シェイラが受け継ぐ。
「さっきはさすがに、死んだと思ったもんね」
「寧人が助けてくれなければ、俺達は全滅してただろう。有難う……助けてくれて」
バネッサはストレートに礼を言った上で、ストレートに訊ねる。
「それにしても、さっきのあれ……何なんだ? 何か変な格好していたし、凄まじい
「あれは……その……」
答えていいものかどうか分からず、寧人は言い淀む。