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第78話 ひょっとしたら、他の仙女達は、崇龍共と戦いながら、世界鑰匙を探し回ってるせいで、洞天福地にいない訳?

「世界の壁を超える程の、凄まじい力を持つ世界鑰匙が、悪党共の手に渡ったら、大変なことになる。色んな悪党連中が、世界鑰匙を探し回っているんだが、その中でも一番危険なのは、矢張り崇龍共だ」


 深刻そうに、夢琪は続ける。


「崇龍共は、龍人になるという目標を叶える為、世界鑰匙を探し回っている」


 龍人になる為、崑崙がいる世界との通路を開きたい崇龍が、世界鑰匙を探し求めるのは、当たり前といえる。


「崑崙がいる世界との通路が、再び開かれたら、ろくなことにはならないだろ?」


 夢琪の問いに、寧人は頷く。


「だから、あたし達……武仙幇は、崇龍共と戦いつつ、世界鑰匙を探し回ってるんだ。無論、戦っている悪党連中は、崇龍だけという訳でもないが」


 そんな夢琪の話を聞いて、寧人は気付く。

 何故、夢琪を除いた他の仙女達が、洞天福地にいないのかを。

 弾が残した記録によれば、武仙幇には複数の仙女達がいる筈なのだ。


「ひょっとしたら、他の仙女達は、崇龍共と戦いながら、世界鑰匙を探し回ってるせいで、洞天福地にいない訳?」


「その通りだよ、察しがいいね」


 寧人の推測を、夢琪は肯定する。


「あたしも以前は、世界を回っていた時期があるんだが、幇主ほうしゅを押し付けられてからは、洞天福地にいる時の方が、多くなってしまった」


 幇主というのは、武仙幇の首領を意味する言葉だ。

 武仙幇の仙女達は、基本的には対等な関係なのだが、カンパニーとしては代表者がいる必要性があった。


 そこで、以前は仙女達が順番に幇主を勤めていたのだが、最も上手く幇主をこなせるのは、夢琪であった。

 故に、夢琪が幇主に選ばれ、そのままになっているのだ。


 元から仙女達の中では実力が最も高く、実質的にはリーダー格であった為、妥当な人選ともいえた。


「寧人のことは、他の仙女達にも手紙で知らせてあるから、当面抱えている仕事が片付けば、洞天福地に戻ってくる筈だ」


 サウダーデにおける、通信手段の主役は郵便である。

 最終戦争で使用された、様々な攻撃手段の影響により、電気的通信手段の殆どが、使用できない自然環境になってしまった結果、そうなってしまった。


「あいつらが教えた方がいい、技や術があるからね。寧人に教える為に、仕事が片付いたら戻るように伝えてあるのさ」


 武仙幇の仙女達は皆、総合力自体が高いのだが、それぞれ別々の突出した部分も持ち合わせている。

 夢琪の場合は総合的な戦力でも最強といえるのだが、仙術や寶貝の扱い、そして回復系の術や技に関しては、仙女達の中でも突出した実力を持っている。


 自分達……機天仙が持つ欠点をクリアした、屍解仙を作り出すべく、屍解泉を作り出したのも、夢琪の仙術なのである。

 モンスターとして討伐の対象となっていたレヴァナント達を、人であった時のように暮らせるようにしたのも、夢琪の仙術なのだ。


 他の仙女達も、それぞれ他の仙女には真似できない、優れた能力や技術を持っている。

 どれも寧人が強くなる為には、必要な技術なので、それらの技術を得意とする仙女達に、夢琪は指導を任せることにしたのである。


「……少し話が逸れてしまったようだね。鬼龍についての話をしていたというのに」


 夢琪は話を、鬼龍……ゴーストドラゴンに戻す。


「倒し方は、先程教えた通りだが、鬼龍は普通のモンスターと違い、倒した後でも、気を付けなければならないことがある」


「倒した後に?」


 寧人の問いに、夢琪は頷く。


「鬼龍は倒されると、体内にある瘴氣しょうきの影響により、異常な速さで腐敗が進んでね、内部にガスが溜まり、爆発する場合があるのさ」


 瘴氣とは、劣化して有害化した氣の総称である。


(鯨の死体が、爆発するみたいなもんかな?)


 浜辺に打ち上げられた鯨の死体が腐敗して、内部にガスが溜まり、爆発する事件について、寧人は日本で見聞きしたことがあった。

 鯨の死体の場合は、時間をかけて腐敗が進むが、鬼龍……ゴーストドラゴンの場合は、すぐに腐敗が進んで爆発するのだと、寧人は解釈した。


「瘴氣爆発というんだが、骨などが勢いよく飛び散ったりして危ないから、防御結界で覆っておいた方がいいんだ」


 夢琪は説明を、付け加える。


「防御手段が使える冒険者であれば、死傷するようなことはないが、骨が当たれば痛いし、冒険者でない者がいた場合は、死傷する場合もあるからね」


 瘴氣爆発に関する話を、寧人は夢琪に聞いていた。

 だが、ゴーストドラゴンはアガルタ……というより、サウダーデ近辺には滅多に現れないという話も、寧人は同時に夢琪から聞いていた。


 故に、ゴーストドラゴンの死体が。すぐにガス爆発する場合があるという話を、寧人は重要な知識としては記憶していなかった。

 そのせいで、ゴーストドラゴンを倒した後、氣膜に守られない消氣衰状態の時、近くにあったゴーストドラゴンの死体への警戒を、寧人は怠ってしまった。


 ゴーストドラゴンの死体の危険性についての話を、寧人が思い出したのは、瘴氣爆発により吹き飛ばされた骨による、手痛い一撃を食らい、意識を失う直前のことであった。



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