ただ、夢琪の話を聞いて、寧人の頭には疑問も浮かんだ。
頭に浮かんだ疑問を、寧人は夢琪にぶつけてみる。
「でも……そもそも龍人になる方法なんて、存在するの?」
「この世界に遺されている
「龍珠というのは……龍人の胸にある、赤い玉のこと?」
寧人の問いに、夢琪は頷く。
「ただ、龍珠の殆どは最終戦争で破壊されたので、殆ど残されてはいない。現状、崇龍のなかで龍人になれるのは、僅かな者達だけだ」
「じゃあ、殆どの崇龍の連中は、龍人になるって目的を、叶えられないんじゃない?」
「叶えられる方法はあると、崇龍の連中は考えている」
夢琪は続ける。
「崑崙が存在する世界との通路を開いて崑崙に行くか、もう一度……この世界に龍共を呼び込めば、崇龍の連中は多数の龍珠を手に入れて、皆が龍人になれると考えているのさ」
「崑崙の世界との通路を開く方法? そんなのが存在する訳?」
「存在するよ、
夢琪は立ち上がると、本棚の方に行き、一冊の本を取って戻ってくる。
そして、ページをめくって目的のページを探しだし、開いて見せる。
「これが世界鑰匙、クラーベムンディアルとも言われる、様々な世界に通じる扉を開く鍵だ」
(鍵というよりは、天球儀みたいな見た目だな)
リアルな絵柄で描かれた、世界鑰匙の解説図を見て、そんな印象を寧人は抱く。
天球儀とは、球体に恒星の位置を印した、球体の星図のようなものである。
寧人は日本にいた頃、博物館で昔使われていた天球儀を、目にしたことがあったので、天球儀を知っていたのだ。
「世界鑰匙を手に入れさえすれば、様々な世界に、自由に行き来することができる」
「え? じゃあ、俺のいた世界にも?」
寧人の問いに、夢琪は頷く。
「世界鑰匙は崑崙の龍共が、別世界を侵攻する為に使っていたものだ」
夢琪はページをめくり、別のページを開いて見せる。
「
「これは、フォートレス級?」
挿絵を目にして、寧人は驚きの声を上げる。
島龍と説明されているのと同じものに関する映像や画像を、寧人は日本での報道を通じ、目にしていたのだ。
ドラゴンの大きさの分類の級は、基本的には軍艦の艦種を流用しているのだが、例外がある。
その例外がフォートレス級である。
一応は龍らしき頭部や四肢……尾はあるのだが、高さ一キロ、直径二十キロ程の、巨大な黒い円盤状の浮遊物体であるフォートレス級は、他のドラゴンのように攻撃には参加せず、殆ど移動することもない。
ドラゴンが内部に出入りしていることが、衛星からの映像や画像で確認されている為、ドラゴン達の移動要塞的な存在だと認識され、フォートレス級という級名がついた。
確認されたフォートレス級は三体、欧州とアメリカ、そして中国に、それぞれ一体ずつの存在が確認されている。
殆ど移動しないとはいえ、移動する場合もあるので、移動要塞とされているのだ。
「フォートレス……この世界では要塞という意味だが、日本でも同じ意味かい?」
「はい、フォートレスは要塞って意味です」
「妥当だね、島龍は龍共の移動要塞のようなものだから。クルサードには、こいつが先遣隊としては四体……侵攻してきたんだ。最終的には、二十体の本隊が来たから、合計二十四体送り込まれてきたが」
「俺達の世界は三体だったから、先遣隊の時点では、クルサードより少なかったんだな」
「色んな異世界から流れ着いた連中から、情報を集めて分析した結果、崑崙の軍勢は、四体の島龍で構成されている場合が多いことが分かった」
寧人のいた世界からだけでなく、様々な異世界から、この世界には人が流れてきている。
クルサードでは昔から、そういった人達から情報を集め、崑崙に関する研究が行われていたのだ。
「寧人の世界では、まだ何らかの理由で、先遣隊の四体目が現れていないだけかもしれないよ」
「そうならないと、いいんだけど……」
三体でも苦戦中なのに、更に増えるとなると、人類側は更に不利になる。
寧人としては、夢琪の予測が当たらないのを、祈るばかりだ。
「最終戦争時、あたし達は全ての島龍を破壊した。その時、二十三体分の世界鑰匙は破壊したんだが、一体が積んでいた奴が、破壊を免れていたんだ」
「じゃあ、クルサードに世界鑰匙はあるの?」
「あるといえば、あるんだが……最終戦争後の世界的な大混乱の時期に、行方知れずになってしまってね、今じゃ何処にあるのか分からないのさ」
世界鑰匙があれば、何時でも日本と自由に行き来できるのではないかと、寧人は思ってしまった。
故に、世界鑰匙が行方知れずになっていると知り、寧人は少し残念に思った。