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第76話 人を超える力は、人を踏み躙る為にではなく、人を助ける為に使うべきなんだ

 アガルタイズを利用した照明が、柔らかな光で、室内を照らしている。

 かなり広めの部屋なのだが、本棚と本に埋め尽くされているので、寧人は狭苦しく感じてしまう。


 夕食の後、整理整頓が苦手な店主が経営する、古本屋に似た雰囲気の夢琪の書斎に、寧人はいた。

 夢琪から座学を学ぶ時、資料が多い書斎を使う場合が多いのだ。


 大きな机の前に、椅子を二つ並べ、勉強の出来る友人に、図書館で勉強を教わるかのように、寧人は夢琪から学んでいた。

 学んでいるのは、ゴーストドラゴン……武仙幇では、鬼龍と呼ばれている、モンスターについてである。


「……まぁ、基本的には……レヴァナント同様、滅多に出現するモンスターではないんだがね」


 鬼龍に関する、詳細でリアルな挿絵が描かれた本を、机の上に開いた状態で、夢琪は寧人に説明する。


「人であれ龍であれ、死んだ者が蘇るなんてことが、頻繁に起こってしまったら、この世のことわりが狂い過ぎてしまうからな」


 目の前にいる寧人が、その甦った一人であるのを思い出し、夢琪は短く言い足す。


「まぁ、稀にならば問題はないんだ……稀にであれば」


 夢琪に気を遣わせたのを察し、寧人は意図して、すぐに話を進めることにする。

 鬼龍、ゴーストドラゴンに関する話の中に、少し気になる点があったので、訊いてみることにしたのだ。


「基本的には……って言い方だと、基本的じゃない出現の仕方があるって言ってるようにも、受け取れるんだけど。基本的じゃない出現の仕方があったりするの?」


「……ああ、大地を流れる氣が、偶然に発生させてしまうのではなく、故意に発生させられる場合があるんだ」


「故意に? そんなことができるんですか?」


 驚きの声を上げる寧人の問いに、夢琪は頷く。


「クルサードに存在する、幾つかの術の流派が、死者をモンスター化することにより、蘇生し……制御する術を保有している」


 寧人の頭に、二人の師姐の存在が浮かぶ。

 二人の師姐は自然にレヴァナント化したのだが、その上で夢琪の術により、暴走を抑えられているという話を、本人達から聞いていたのだ。


 レヴァナントは通常、人としての意識を失い、人を襲うモンスター……妖魔である。

 そんなレヴァナントであるジーナとヘルガが、生前の記憶と意識を持ったまま、生き続けていられるのは、夢琪の仙術のお陰なのである。


 レヴァナントが蘇り生きているのか、それとも死んだまま死体として動き続けているのか、クルサードでは意見が分かれている。

 ただ、武仙幇はレヴァナントは蘇り生きている存在だと判断していて、武仙幇に判断を仰いだクルサードも、同様の立場を取っている。


「武仙幇の仙術にも、そういうのがあるんですよね?」


「ああ、死者を蘇らせ、制御する術がね……蘇らせる術の方は、屍解を除いて禁術なんだが」


 レヴァナントなどによる害を抑え込む為、蘇った死者を制御する術の方は、禁術扱いではないのだ。

 人を仙人にする術も禁術にはならないので、屍解仙を作り出す術も禁術ではない。


「うちに限らず、どこの流派も、死者を蘇らせる術の方は禁術扱いなんだが、どこかの術が流出して、馬鹿な連中に利用されているみたいなんでね……」


 深刻な面持ちで、夢琪は続ける。


「時々、死んだ龍を、故意に術で蘇らせる形で発生させられたと思われる、鬼龍が出現するのさ」


「利用って……一体、何に?」


「鬼龍を武器にする為に、術を利用するんだ。まぁ、うちとは違って術の完成度が低いのか、まともに制御をできず、暴走させて終わることが多いようだが」


「この世界を滅ぼしかけた連中を、まともに制御もできないのに、復活させて武器にしようとか……確かに馬鹿な連中ですね」


「武器にするだけの連中なんざ、馬鹿さでいえば可愛いもんさ。鬼龍を武器にした上で、もっと下らない真似をしようとしてる連中に比べれば」


 夢琪は言い足す。


「しかも、そいつらの術の完成度は、低くはないからね」


「もっと下らない真似をしようとしてる連中って?」


「龍共の軍門に下り、龍人になろうとしている連中がいるんだ」


 寧人の表情が、苦々し気に歪む。龍人に殺された過去がある寧人の中で、形容しがたい不快感が湧き上がったのだ。


「そういう連中のことを、うちでは崇龍そうりゅう、他所ではドラゴニストと呼んでいる」


「自分達の世界が、龍共に滅ぼされそうになったってのに、龍共の側に回ろうだなんて、どうかしてるな、そいつら」


「滅ぼされる側にいるより、滅ぼす側に回りたがる連中がいるんだよ」


 寧人同様に、不愉快そうな口調で、夢琪は続ける。


「龍人となれば、人を遥かに超える力と、永遠の命を得られると言われている。それに惹かれる人間も多いんだろう」


「人の命を踏みにじってまで、そんなもん欲しがるとか、ろくな連中じゃないな」


 龍人に命を踏み躙られた本人である、寧人の語気は強い。


「人を超える力は、人を踏み躙る為にではなく、人を助ける為に使うべきなんだ」


 そう言い切った寧人を見て、夢琪は驚く。

 そして嬉しそうに微笑みつつ、感慨深げに呟く。


「弾も同じようなことを言っていたよ、血筋なのかねぇ……」


 夢琪の言葉聞いて、寧人は嬉しさと恥ずかしさの両方を感じる。

 偉大なスーパーヒーローであった弾と自分に、共通点があることが、寧人は嬉しかったのだ。




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