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第81話 何で寧人が、モリグナと一緒にいるんだ?

 夕日に照らされた、アガルタの東エントランス付近は、普段より賑わっている。

 今日はアガルタが荒れていて、早目に冒険や採掘を切り上げた者達が多く、エントランスの前に冒険者達と採掘者達が、溢れ返っているせいだ。


 一時間程前には、ゴーストドラゴンの出現の報告が地上に届き、迎撃の為に四つ星以上の冒険者達と、元四つ星以上のバウンサー達が、各エントランスの前に集められていた。

 だが、二体確認されたゴーストドラゴンが、アガルタに下りていた冒険者達に倒されたという報告が届き、それが事実だと確認された為、迎撃態勢は解かれた。


 ゴーストドラゴンを倒したのは、モリグナだという情報が、地上には伝わっていた。

 二体ともモリグナが倒したという情報や、一体はモリグナが倒したが、もう一体は仮面をかぶっていた、妙な冒険者が倒したという情報も伝わっていた。


 強力なモンスターであるゴーストドラゴンが、アガルタに同時に二体も出現するのは、かなり珍しい出来事といえる。

 それ故、地上は大騒ぎといえる状態に、なっていたのである。


 屋根の上で道行く人々を見下ろす黒猫のように、五階建ての建物の屋上から、東エントランスの辺りを見下ろしていたヘルガにも、ゴーストドラゴン関連の情報は届いていた。

 屋上は飲食スペースになっていて、冒険者の客達がゴーストドラゴンに関する話題に花を咲かせているので、自然と耳に情報が飛び込んできてしまうのだ。


 屋上の飲食スペースには、テーブル席があるのだが、ヘルガは席には座っていない。

 ミルクティーの入った紙コップを手に、屋上の縁にある、落下を防ぐ為の柵に寄りかかり、ヘルガは東エントランス辺りを見下ろしていた。


 寧人がアガルタに下りて、六時間が過ぎた辺りから、ヘルガは東エントランス辺りで、寧人が出てくるのを待っていたのだ。

 別に待ち合わせをしていた訳ではなく、心配になったヘルガが、勝手に寧人を待っているだけである。


 高い所からの方が、寧人を見付け易いと思い、待つ場所には東エントランスを見下ろせる、建物の屋上の飲食スペースを選んだ。

 長々と居座るのは悪いと思い、三十分ごとに売店に向かい、何かを飲み食いしながら。


 ヘルガが寧人を待ち始めてから、そろそろ二時間半が過ぎようとしていた。


「今度はフゴメスクにでもするかな」


 そう呟いて、売店の方に向かおうとしたヘルガの耳が、エントランスの方から、賑やかな声がし始めたのを聞き取る。


「何だ?」


 気になったヘルガは、売店に向かうのを止めて、東エントランスの方に目をやる。

 すると、四番トンネルの前に、人だかりができている光景が、ヘルガの目に映る。


 レヴァナント化したことにより、人より遥かに優れた視覚を持つようになったヘルガは、人だかりの中心にいる者達が、誰なのか視認できる。

 そして、待ち侘びた寧人の姿を確認し、まずは安堵の表情を浮かべる。


 そして、寧人の周りに、モリグナの三人がいるのを目にして、ヘルガは驚く。


「何で寧人が、モリグナと一緒にいるんだ?」


 ヘルガは自問し、寧人とモリグナが一緒にいる理由について思案するのだが、情報が少な過ぎて、ヘルガは答に辿り着けない。

 思案するヘルガの目線の先で、モリグナと寧人達の周囲に、多数の人々が集まってくる。


 モリグナがゴーストドラゴンを倒したことは、地上に伝わっていた。

 元からモリグナが、割と有名な存在だったせいもあるのだが、ゴーストドラゴンを倒した者達を見物しようと、野次馬達が集まってきたのである。


 モリグナと寧人は身軽な動きで、野次馬達の間や上を通り抜けると、人込みを抜けて、路地裏に駆けこむ。

 ヘルガからすると、死角となっている路地裏に。


 ヘルガは口惜し気に、舌打ちをする。


「あの方向だと、パブリックハウスには向かわないのか?」


 四人がどこに向かっているのか、分からなかったヘルガは、紙コップをゴミ箱に捨てると、輕身功を発動。

 隣のビルの壁まで跳ぶと、地面であるかのように壁を走りながら、東側に向かって移動を始める。


 そして、建物の屋根や壁を走る、かなり非常識なコースを通り、寧人達が向かったと思う辺りに移動し、ヘルガは寧人達の姿を探す。

 だが、ヘルガは寧人達の姿を、見付けることができなかった。



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