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第33話 我は盟友なり!

「……なるほど。彼らがそんな事を」


 男は、かつてアピタとパーティを組んでいた冒険者達から聞いた話を彼女に聞かせた。


 彼らは決して、アピタが疎ましいだとか、実力不足だから追放したのではない。

 その才能を腐らせないが為に、敢えて突き放したのだ。

 いつまでも同じ街に拘らず、もっと広い世界を見てほしいと。


「本人達には、君に伝える許可を貰ってはいないがな。まあでも、話してもいいと思ってね」


 男の話を聞いて、アピタはらしくもなく神妙な顔つきとなった。

 流石に思うところがあったらしい。

 やがて俯くと、肩を震わせ始める。その様子を見て思わず駆け寄るユールー。


「アピタさん……」


 泣いているのだろうか?

 自分の事を思って行動していた元仲間達に、感謝の涙を隠しているのだろう。

 そう思ったアルフェンは、意外のもお淑やかな部分がある事に関心していた。


 しかしである。彼女はアピタ、そのような範疇に生きている女性ではない。

 彼女は顔を上げると、口角を上げ高笑いを始めたのだ。


「アッハッハッハ!! そうか! そうなのだね!! 確かにこの腕前ッ! 最早留まる所を知らない。このままではいずれ、かの邪神すら薙ぎ払えてしまうかもしれない程に!!」


「おい、何を言っているんだ急に!?」


 突然の奇行に驚くアルフェンだが、アピタは気にする事なく続ける。


「ならば仕方がない、そろそろ次のステージに進む頃合いだろう。私は教えられた、共に同じ道を進む者だけを仲間と呼ぶのではない! 道は違えど、志すら違えどッ! 互いに信じ合い、高め合える存在こそ真の仲間だと!! ああ! なんと素晴らしきかなこの気持ち! 今なら何でも出来てしまいそうだ!」


「……何だかよく分からないけど、元気が出たみたいで良かった」


 ホッとしたように呟くユールー。そしてアピタは再び立ち上がる。


「よし、決めたぞ。私はこれより、更なる研鑽の為に冒険を開始する。君達はどうする? その腕ならすぐにでも旅立つ事も出来ると思うが」


「いや、私達はこのまま街に残る。自分の腕を過信出来る程、自惚れてはいないつもりだ」


「お兄ちゃんが残るなら自動的にボクもだね。ごめんね、アピタさん。でも、すっっごく楽しかったよ!」


「そうか……。残念ではあるが、無理に引き止める事は出来ないな」


 流石に寂しそうな顔を見せるアピタに、名残惜しそうにユールーは抱き着く。


「ありがとう、アピタさん。元気でね、きっと『剣姫』として有名になれるよ」


「ああ約束しよう。さらばだ! 私の愛しき仲間よ!!」


 そうして、アピタはダンジョンを去る。その煌々とした笑顔で立ち去る様はまさしく、新たなる旅路へ踏み出す好奇心。


 ◇◇◇


「ああ、楽しかったぁ!」


 一仕事を終え、艦へと戻ってきた俺達。

 ドリンクを傾ける俺は、満面の笑みを浮かべるユールーを横目で見る。それとは対称的にアルフェンの野郎は疲れ顔だ。


「果たしてここまでやる必要はあったのか? 我々の役目はロールプレイでは無く、単なるDNAの回収だぞ」


 クソ真面目な仕事人間らしい、捻りのない感想を口にする。

 奴の腰には、怪しまれないように現地で買ったブロードソードがぶら下がっていた。

 それに関してはユールーも同じだが。


 悪態を付くアルフェンに、マキナが顔を擦り付ける。


「まあまあアルフェン君。何だかんだで楽しかったんじゃない? ぼくは悪く無かったと思うよ。それにほら、ハッピーエンドじゃない」


「そうは、言うがな。……だがやはり、ユールーを連れてくるべきではなかった。喧しくて仕方が無い」


「あ、ひっど~い!! ボクってばずっと役に立ちっぱなしだったでしょ。ボクにはお兄ちゃんがちゃんと他人とコミュニケーションを取れるように面倒を見る役目もあるんだし!」


「そんな役目は無い。余計なお世話だ」


 悪態の止まらないアルフェンの野郎。折角のマキナのフォローも無下にしやがって。



 今回の仕事については、色々と実験を兼ねていた。


 まず金銭だ。どんな世界に行っても困らないように、最近艦の近くで見つかった金鉱山から掘り出した金を持ち出した。といっても艦長から制限を掛けられたがな。

 大量に持ち込んで目立っても仕方が無いからだと。残念。


 後は、どんな世界に行くかだ。


 今までは本を読み込んだり、突発的だったりだったが、今回はある程度の条件だけで行けるかどうかの調査も兼ねていた。

 正確に狙った世界に行けるかどうかは確率でしか無い事がわかった以上、どの程度まで絞れるかの確認は重要だ。


 そこで、前々から一緒に行きたがっていたユールーにどんな世界に行きたいかを聞いた。

 俺が地球から買ってきた漫画に、最近買ってきたアニメにまでハマったせいか、かなり乗り気だった。


 とはいえあんまり突飛な世界が勘弁願いたかったので、そこの所を省いて希望を聞いた。

 ファンタジックで、それでいてカッコイイ女剣士が活躍するという、いかにも女の子らしい要望だったのは意外といえば意外だったな。


 俺は要望通りのイメージで、マキナとユールー、そしてユールーが引きずってきたアルフェンと一緒にテレポートした。


 現地調査をして、そこが冒険者としての旅立ちの街である事、凄腕ではあるものの今までに四十九回程パーティを追放された女騎士がいる事などを確認した。


 アルフェン達を街に残し、俺はあの女騎士、アピタを追放したばかりのパーティメンバーの後を付けた。


 結果としちゃ、上手くいったんじゃないの?


「で、ユールー。頼んでた物は」


「はいはい、ちゃあんと手に入れたよ。それはもう華麗にね!」


 何に影響されたのか、やたらと格好付けたポーズを決めるユールー。

 その手にはカプセルが握られていた。

 恐らくだが、別れ際のハグで気づかれないように針を打ち込んでいたんだろうな。

 中々やるじゃないの。兄貴よりも有能かもしれない。


 カプセルを受け取ろうとすると、アルフェンが横から掻っ攫っていった。

 何すんだ!?


「これは私が届けておく。前々から苦情が来ていたぞ、届けるのが遅いと。それにだ、最近碌に報告に行っていないらしいな。閣下が苦言を呈していたぞ。お前は、一体どれだけ……」


 説教モードに入りやがって、このクソ真面目な仕事人間め……。

 俺はあからさまに自分の耳を両手で塞いで見せた。


「聞け!!」


「話しを聞いて欲しかったらなあ、どうかわたくしめのせせこましいお話をお聞き下さいませとでも頼んでみるんだな」


「貴様ァ、いつもいつも……ッ!」


 煽りに乗ったアルフェンは、正しく怒髪天を衝かれたかのように顔を真っ赤にして掴みかかってきた。

 けっ、ンなもんに捕まる俺様なものかよ。


「逃げるな!」


「逃げらいでかっ」



「また喧嘩してる」


「もう、喧嘩は駄目だよ二人とも!」

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