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第34話 銀河にSpark

 その日は、新惑星から遠く離れた小惑星群にまで来ていたタライヤ。

 あれやこれやと理屈を付けてモナーガを強引に引き連れ、スペースクルーザーで調査へと向かった。

 調査の目的は、自分たちのいる星系に存在する物質の分析であった。


 遥か遠くにある故郷、惑星プレイスティアに酷似した大気成分を持つ新惑星。

 その周辺に存在する衛星等もまた、故郷の星系のものと似ているかどうかを調べる必要があったのだ。


 因みに、タライヤは単なる整備員であり、このような調査は彼女の専門ではない。今回の件は個人的な趣味によるものである。

 非戦闘員である彼女は、未知との遭遇も考慮した上で船外活動経験の厚いモナーガを道同させた。


「という事で頑張って下さい」


「何が、という事でなんだよ。俺今日非番だったんだぞ!」


「奇遇ですね、私もです。だから貴方を連れて来たんですよ」


「何がだからなんだよ。なんでお前はそんなに元気なんだ!?」


「私は今、とてもワクワクしています。こんな気持ちは久しぶりですよ。まるで子供の頃に戻ったようです」


「そうかい。そりゃ良かったな。でもな俺にはそんなワクワクは無いんだ。帰っていいか? いいよな」


「そうですか、とても寂しい方ですね。人間、心を踊らせられなくなったら老け込むそうです。あなたはもうすぐお爺さんですね。なんて可哀想な人なのでしょう」


「こ、このアマ……!」


 そんなやり取りも過ぎ、いつも通りに渋々スーツを着込んで小惑星へと取り付いたモナーガ。

 サーチ機能で詳細を探りつつ、目視による調査を始めたその時である。


「ん? 何でしょうか?」


 スペースクルーザーの操縦席でコーヒーを飲んでいたタライヤ。

 しかし突如として、レーダーが反応を示した事に気づく。

 そして、モニターに映し出された光景を見て思わず絶句してしまった。


「モナーガさん、聞こえますか? とても不味い事が起きたようです」


「ああ、一体何があったって?」


 モニターに移されていたものは、高速で移動する高エネルギー体であった。

 それも大変な事に……。


「このエネルギー体、どうにもエネルギー総量は恒星一つ分に匹敵するみたいです」


「は、はあああ!!? ど、ど、ど、どういうことだそりゃっ!!!??」


 モナーガの叫び声が木霊した。ような鬼気迫る雰囲気である。

 当然、真空の宇宙に声は響かない。通信相手に届くのみだ。


「このままでは我々の新惑星に直撃は免れません。影響が出始めるのも後二時間と掛からないでしょう」


「うっそだろおい……ッ!!」


 タライヤの報告にモナーガは慌てふためく。

 だが、事態は既に一刻を争う状況となっていた。

 このままでは、折角入植したばかりのフロンティアを失ってしまう。

 しかし、現実に取れる手段は彼らには無かった。


(ど、どうする!? どうすりゃいい!? こんなの俺にどうこう出来る問題じゃねえぞ!! でもこのままじゃっ……! ああああ!! どうすりゃいいってんだ!!? 俺にはホントにどうにも出来ッ、……ん? そ、そうだ! この手がッ! 俺がどうにかする必要は無いんだ!!!)


 モナーガは必至に頭を回転させた。普段使わない部分まで捏ねくり回し、そうしてある結論へとたどり着く事が出来たのだ。


「お、おいタライヤ! ちょ、ちょ、ちょっと待ってろよ!! 上手くいけば、上手くいくかもしれねえ!!」


「え? 急にどうしたんですか? 何をするつもりなんです?」


 タライヤはモナーガの言葉に思わず声を上げた。

 無理もない。いきなり大声で意味不明な事を言われれば誰だってそうなる。


「いいから待っとけよ!」


 それだけ言うと彼はテレポートを使い、瞬間、この宇宙から居なくなった。


「モナーガさん……、まさか逃げたので?」


 最早誰に届く事も無くなった声は、虚しく船内に響き渡った。


 ―


 ―――


 ―――――


 それからどれ位時間が経っただろうか?


 時間を確認するタライヤであったが、実のところまだ三十分程しか過ぎてはいない。

 だが、エネルギー体は待ってはくれない。


 その速さ、衰える事なくこちらに向かってきているのだ。

 最早万事休す、そう思った直後の事である。


「待たせたな!!」


「モナーガさん、逃げたんじゃ無かったんですね。私はもうすっかり見切りを付けて、私達の事なんか吐き捨てたものとばかり。あの世での恨み言を考えていたところでした」


「ばっかおめぇっ! 俺がそんな薄情な男に見えるかよ !?」


「はい、見えるどころか見えっぱなしです」


「んだと? だが、今回はお前の暴言も許してやる。なんたって心強い助っ人をお連れ出来たからなあ!!」


 助っ人? その言葉に首を傾げる。

 モニターには何も映っていないのだから。とうとう頭がおかしくなってしまったのか?


 そんな事を考えていた時である。

 突然眩い光が、視界を覆ったと思いきや、なんと人が現れたのである。


 いや、それは人というには巨大過ぎる。

 目視で測っても四十メートルは超えていた。


 それは、銀の体に赤いライン。光の具現化とも呼ぶべき姿であった。

 そして何より特徴的なのが、胸に輝く、美しい青い宝石のようなマーク。

 そう、彼こそが呼んだ助っ人であった。


「これは……、一体?」


 タライヤは余りにも唐突な出来事に目を白黒させた。

 目の前で起きている事は一体何なのか? 理解出来ない事だらけであった。

 しかしモナーガは、それに構うこと無く、その光の巨人に頼み込む。


「では、お願いします! やっちゃって下さい!!」


―――ジュアッ!!


 聞こえないはずのその声で頼み込まれた巨人は、まるでこれこそが自分の仕事だと言わんばかりに、力強く返事を返した。


 巨人は飛ぶ、迫り来る絶望の塊に向かって。

 そしてそのまま両手を胸でクロスすると、急激に回り始めたのだ。


 遠くからモニターで監視するタライヤは、まるで意味が分からなかった。

 だが、巨人はなおも回転を続ける。

 すると巨人の周りに幾重もの光の輪が発生した。巨人が生み出したのだ。


 その光輪は巨人の周りからエネルギー体へと飛んでいき、包み込むようにして回転する。

 やがて、光輪は徐々にエネルギー体を締め付けるように縮んでいき、ついには完全に拘束してしまったのだった。


 これにはタライヤも驚きの声を上げる。

 あんなものは見たことも聞いたこともないからだ。


 だが、モナーガは違うようだ。仮面の下で嬉しそうな表情を浮かべて、まるで幼い頃から憧れたヒーローでも見ているかのよう。


 光輪が眩い光を放ち始め、粒子が辺り飛び散っていく。するとエネルギー体の体積が見る見る内に減っていくのが分かる。


 吸い取ったエネルギーを、粒子として霧散させているのだ。

 その光景にタライヤは息を飲む。これが、モナーガの言う助っ人の力なのだと。


(凄い……、なんていうか、圧倒されます……。この方が居ればきっと何とかなる)


 新惑星の破壊を目論んでいたか、そうでないか。

 それはともかく、間違い無く言えるのは、未曾有の危機は完全に消え去ろうとしていたという事。




「ふぅ~……、これで一件落着だな」


「えぇ……。本当にありがとうございました、巨人さん」


 跡形も無く消え去った。

 あの悲劇の具象は新惑星と接近する事無く、無事にこの宇宙からいなくなったのだ。


 モナーガは、高揚した気分も落ち着いた為か、今更ながらにテレポートの疲れに襲われていた。

 しかし、悪い気分では決して無い。何故なら本物のヒーローと出会えたのだから。


 タライヤは感謝の気持ちで心が埋め尽くされていた。

 これ程、誰かに助けてもらった経験など今まで無かったから。


 巨人は、そんな未来ある若者達の姿に何を思うのか? それは誰にも分からない。

 だが、彼はこう思ったに違いないだろう。「これから先、彼等はどんな物語を紡いでいくのだろうか?」と。


 問題を取り除いた巨人の体が光に包まれる。別れの時が来たのだ。


「この度はどうも、こんなよく分からない宇宙人の急な頼みを聞いて下さって、全く感謝しかありません。心からありがとうと言わせて下さい」


 感謝の言葉を口にするモナーガ。そして、それにタライヤが続く。


「貴方のお陰で私達の星は救われました。本当に、本当に、心の底からお礼を言いたい。何と言っていいのかも分かりません、言葉が見付からない。けれど、これだけは言わせてください。本当に、ありがとうございました!」


 純粋に感謝の気持ちを口にするのは、タライヤの人生に於いて殆ど経験の無い出来事であった。

 だからこそ、その言葉には嘘偽りは無い。純粋な気持ちから出たものだと言えた。


 真空の宇宙、聞こえないはずの言葉達。

 しかし、その想いは確かに巨人に伝わったようである。


 巨人はゆっくりと腕を上げ、サムズアップのポーズを取る。

 それは、まるで笑顔を見せるかのような仕草であった。


 巨人は光の玉となり、その姿を消す。自分の住む宇宙へと帰っていったのだろう。

 この出来事を彼らが忘れる事は決して無い。


「それで、モナーガさん。彼は結局どなた何です? もの凄い方でしたけど……」


「あぁ、それはな。――俺の永遠のヒーローさ」


 そう、彼こそが宇宙の平和を守るヒーロー。少年の心を忘れない者達の永遠の憧れ。

 人々の心の光をひたすらに信じ抜く、偉大なる巨人達の一員。



 そう、その名は―――。

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