「なるほど、つまり、このヴァルトバングルは、荷物も仕舞えて、離れていても話ができるし、一瞬で荷物や手紙を送ることができる上、自分のステータスを見れる。そして、緊急時には結界も張れるし、安全な場所に自動的に転移できると……」
国王シェードは、一呼吸置いて、カッと目を見開く。
「この腕輪は、革命だ!」
どこかで聞いた台詞だ。
やはり、夫婦は似るものなのだろう。
「……」
シェードのノリにアーロンは付いて行けなかった。付いて行く気もなかったが。
「こほん、アーロン君。この腕輪を王妃と二人の息子と娘、それから王の影に渡したいのだが」
「いいですよ、どれくらいいります?」
「……とりあえず、100は欲しいな」
「今送りますね、……はい、陛下の腕輪に送りました」
シェードは自身の腕輪の収納に『ヴァルトバングル×100』という表示がされていることを確認すると、頷いた。
「ありがとう。代金を支払おう。いくらだい?」
「んー、今まで渡す時にお金を貰っていないので、……いくらにしましょう?」
「ふむ、因みに、素材は何を使っているんだい?」
「オリハルコンと魔石ですね」
シェードは笑顔のまま固まった。
「陛下?」
暫くして復活したシェードの笑みは引き攣っていた。
「オリハルコンといえば、あの、伝説の鉱物かい?……6年前にアダマンタイトがオークションで出たという話は聞いたことはあるが、まさか」
「陛下、その腕輪はオリハルコンで間違いありません」
「……そうか」
鑑定持ちの王家の影の言葉に、シェードは頷いた。
「ふむ、オリハルコンの腕輪百個に少ない金額かもしれないが、大金貨千枚でどうだろう」
「構いませんよ」
「アーロン君、足りない分は金銭以外のもので補いたい。なにか欲しいもの、叶えたい望みはあるかな?」
「……特には、ないですね」
「うーむ、それは困ったな」
ぽくぽくぽく、ちーん。
「そうだ。王家の宝物庫から一つ、好きな物を持って行けるよう手配しよう」
「おお」
「それから、王族しか入れない書庫をアーロン君も入れるようにしよう」
「おお!」
アーロンは、本が好きで、見たことのない本を見ると購入してしまう
だからこそ、王族しか入れない書庫に入れる権利というのは、アーロンにとっては嬉しい贈り物だった。
「書庫の方がいいのかい?結構な本好きだねぇ」
「はい、本という存在も、活字も好きです」
「うん、良いことだ。でも、宝物庫の存在忘れそうになるだろうから、先に宝物庫に行ってね」
「……はい、分かりました」
アーロンは控えていた騎士に連れられて、宝物庫に向かうこととなった。
王城の地下の更に地下が王家の宝物庫になっている。
宝物庫は魔導具の灯りで、明るかった。
(ガイド、何かおすすめはある?)
アーロンはガイドに尋ねた。
[おすすめは特にありません。全て一般的な美術品などです。気に入ったものを選ぶのが良いと思われます]
ありがとう、とアーロンはガイドに念話でお礼を言いつつ、宝物庫内を歩き始めた。
宝物庫の奥の方に焦げ茶色の机が置いてあり、その上に一冊の古びた本が置かれていた。
それは、絵本だった。
(【勇者の冒険】、ありがちな物語かな、でも、見たことがない本だし、これにしよう)
アーロンは【勇者の冒険】という絵本を手にし、入口に立つ騎士の元に戻った。
「選びました」
「かしこまりました。……王家の書庫には行かれますか?」
「はい」
「では、こちらへどうぞ」
騎士は地下通路を歩いて、ある部屋にアーロンを案内した。
「王家の書庫は宝物庫の近くにあるんです」
「そうなんですか、地下だと、あまり王族の方も来れないのでは?」
「ええ、皆さま王城にある普通の書庫の方に行かれるので、あまり、地下には来られません」
「では、思う存分、読み漁れるということですね」
「ええ」
騎士は微笑みを浮かべた。
「では、私は入口におりますので、御用があれば呼んでください」
「ありがとうございます、あ、そうだ」
アーロンはヴァルトバングルから暖かい紅茶の入ったマグカップを出した。
「ヴァルトで採れた茶葉で作った紅茶です。良ければ飲んでお待ちください」
「有難くいただきますね」
騎士はそう言って、入口に戻っていった。
アーロンは近くにあるソファーに座って、【勇者の冒険】の絵本を開いた。
「まずは、この絵本から読もう」
どんな物語かな、とアーロンは楽しみに思いつつ、絵本を手に取った。