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「アーロン君!模擬戦殺し合いをしようじゃないか」


 爽やかな笑顔でそうのたまった七賢者第一位のアルフレッドをアーロンはジト目で見た。


「副音声が物騒なんですが」

「まあまあ、気にしない気にしない。ほら、早く訓練場に行こう」


 アルフレッドに連れられて、アーロンは訓練場にやってきた。

 訓練場には誰もいないが、訓練場の周囲には人が溢れかえっていた。

 周囲の人々は予め知らされていたらしいことを感じたアーロンは不満そうな表情で、訓練場に入り、左腕を前に出した。


「起きて、【黒き静謐】」


 左手の中指に嵌めている指輪が淡い光に包まれ、剣の形になる。

 光が弾けると、真っ黒な美しい剣が現れた。

 剣は大人用のサイズで、子供のアーロンにとっては大剣のような大きさだが、魔力操作の応用で身体強化をしているアーロンからすると軽いくらいだ。


「ほう、『唯一武器ユニークウエポン』か」

「はい」


 唯一武器ユニークウエポンというのは、ダンジョンの宝箱などから稀に出現する武器で、性能はそれぞれ違うが、どれもステータス補正が高く、強い武器だ。

 唯一という文言の通り、一人一つまでしか装備できず、しかも、武器が人を選ぶので、装備者は唯一武器ユニークウエポンを選ぶことはできない。


 アーロンがこの武器と出会ったのは、迷宮都市セルペンテだ。

 セルペンテのダンジョンは、都市の真ん中にある大きな穴の奈落で、その周りにある階層は100層以上にも及ぶ。

 実際は300層で、アーロンが一番最初に攻略した。

 どうやって攻略したかといえば、まず、アーロンは、夜中に浮遊を付与した石の椅子で奈落を一直線に降りた。

 最下層までショートカットし、ダンジョンボスである【影よりいづる者】原初の吸血鬼オリジンヴァンパイアを巨大な太陽石という太陽と同じような光を発光する石をつくって、弱らせ、雷属性の超級魔法【雷の審判】で貫いて倒した。

 そのとき現れた宝箱から【黒き静謐】が現れたのだ。

 勿論、その後、セルペンテのダンジョンはアーロンのものとなり、ダンジョンコアは、奈落という意味のアビスという名が与えられた。

 ただ、ダンジョンは改造することなく、そのままだ。

 都市の中央にあるダンジョンがいきなり変質したら、パニックになるからだ。


「俺も剣が好きでね、唯一武器ユニークウエポンは持っていないが、こいつで勝負だ」


 アルフレッドはアイテムポーチから白銀の大剣を取り出した。

 この大剣、とあるドワーフの有名な鍛冶師の力作で、アルフレッドはオークションで競り落とした逸品だ。

 今はそのドワーフはヴァルト男爵領にいるのは余談だが。

 因みに、普通のアイテムポーチは結構高いが、高給取りの冒険者や金持ちは買えるくらいの値段で売られている。

 性能によってはとんでもない値段が付いているアイテムポーチやアイテムバッグがあるが。


「剣と魔法を駆使して戦おうじゃないか」

「はい、アルフレッドさん」


 審判は第二位のトールだ。


「両者、準備はいいか?」

「勿論」

「はい!」

「よし、始め!」


 どんっ、という音を響かせてアーロンがアルフレッドの懐に入って剣で突くが、アルフレッドの剣に阻まれた。

 アルフレッドは、詠唱しようと口を開いたが、声が出せなかったので、戸惑った。


「【黒き静謐】の領域で、貴方は詠唱できませんよ」


 より魔力を込めて身体強化した腕でアーロンは剣を押し込もうとした。

 アルフレッドは、飛び退く。あのままでは、本当に貫かれてしまうからだ。

 飛び退いて着地する隙を狙って、アーロンが水属性の中級魔法【水槍】で攻撃する。

 大剣で防御するにも限界がある。アルフレッドは奥の手を使った。

 アルフレッドの周りには光の盾が浮かんでいた。


「無詠唱ですか、まあ、それでこそ第一位ですね!」


 アーロンはで光の巨剣をアルフレッドの頭上に出現させた。

 光属性の超級魔法【光の審判】だ。


「っ!?」


 アルフレッドは身体強化でギリギリのところで避けた。


(こいつも無詠唱……しかも超級魔法を無詠唱だと!? 俺でも上級魔法の無詠唱がやっとなのに)


 アーロンは攻撃の手を緩めない。

 火属性の上級魔法【火炎弾】でアルフレッドを攻撃する。

 アルフレッドは動揺していたところを火炎弾に襲われ、被弾してしまった。

 爆発によって吹き飛ばされたアルフレッドは、飛ばされながら思った。


(普通の火炎弾は、爆発しないからな、こんちくしょう)


 壁にぶつかってアルフレッドは気絶した。





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