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 魔法の名家であるブリズ伯爵家の三男であるアルフレッド・フォン・アラバスターは、物凄い方向音痴だ。

 少年の頃、家を抜け出して街を見に行くつもりが、盗賊の住処に辿り着いて、光属性魔法で壊滅させたことがあったり。

 学生の頃、課外授業で王城に行く筈が、スラム街にあるヤバい組織の本拠地に辿り着いて、光属性魔法で壊滅させたことがあったり。

 まだ20代の頃、賢者になったばかりの初任務で、とある地域の魔物討伐をする筈が、迷子になって街から出られず、領主館で不正の証拠を見つけたり、地下室で酷い扱いを受けていた人々を助けたりした後、領主を懲らしめ、国に報告したアルフレッド。

 後で領主と同じように悪いことをしていた一族たちは諸共、国王の命により打首になった。

 そして、35歳の現在。

 アルフレッドは7年にも渡る迷子になっていた。

 きっかけは漁師たちの嘆願からだった。

 ある海域に物凄く強い魔物がいる為、漁ができないという。

 そして、アルフレッドが派遣されたのだが、魔物との戦いで船が難波し、乗組員と共に別大陸に流されたが、別大陸で乗組員とも逸れてしまったのだ。

 しかも、アルフレッドは別大陸に自分がいるとは露知らず、歩いていればエレツ王国に辿り着くだろうと、別大陸を歩いて旅していた。

 ある時はSランク冒険者と腕試しして友誼を結び、ある時は盗賊を懲らしめ、ある時は神秘的な森で幻獣フェンリルと邂逅し、ある時は獣人の王と腕試しし、ある時は神秘的な洞窟で古龍と邂逅し、ある時は竜人の王と腕試しして友誼を結んだ。

 そんなアルフレッドは、懐かしい魔力を感知した。

 風を我が身のように繰り、飛んできた一人の灰色の髪に灰色の瞳の女性。

 アルフレッドが最後に見た時はまだ少女だった彼女は、怒っていた。


「フレディ兄の馬鹿ーー!!」


 彼女は飛びながら風属性の上級魔法【風の鉄槌】をアルフレッドに向かって撃ち込んできた。

 アルフレッドは条件反射で飛び退き、避けた。

 そのアルフレッドに向かって、彼女は飛び込んで来た。


「ウェンディ」


 危うげなくアルフレッドは彼女──七賢者第六位、【疾風】の称号を持つ、ウェンディ・フォスターを受け止めた。


「心配、した」


 ウェンディは泣いた。号泣だ。普段、あまり表情を出さない彼女にしては珍しいことだった。

 それだけアルフレッドのことを心配したのだろう。

 ウェンディの後を追ってきたらしい、懐かしい顔ぶれが身体強化を用いて走ってくるのを見たアルフレッドは、涙腺が緩んだ。


(7年は、長かったな)


 やっと帰れるのか、という呟きは、ウェンディの泣き声で掻き消された。




「ふむ、ということは、俺を見つけられたのは、そのアーロンという坊やのお陰ってことか」

「まあね」


 近くにあった街の酒場の個室で、七賢者が勢揃いして話していた。

 第一位のアルフレッド。

 第二位、【雷鳴】の称号を持つ、明るい茶髪に茶目の美青年であるトール。

 第三位のメリア。

 第四位、【清水】の称号を持つ、ホワイトブロンドに水色の瞳の美女であるセシリア・フォン・ベイリー。(ノルド公爵の妹)

 第五位のオズワルド・フィールド。

 第六位のウェンディ・フォスター。

 第七位の茶髪に緑の瞳のフツメン、ロドニー・アボット。

 錚々《そうそう》たる面々なのだが、別大陸なので騒がれることはない。

 因みに、アルフレッドの外見は金髪に金色の瞳の美形だ。


「推薦するのは、戦ってから決める」

「やっぱり、そう来るのね……」


 メリアは溜息をつく。


「アルフレッドさんは戦闘狂ですものねぇ」


 おっとり美女セシリアは、上品に微笑んだ。


「まあ、すぐに実力は分かるじゃろう」


 アーロンの魔物討伐に何度か付き合わされているオズワルドは、遠い目をした。


「フレディ兄は、痛い目に遭うのが良いと思う」


 ウェンディはそう言ってオレンジジュースをぐいっと飲んだ。


「あはは、」


 ロドニーは何とも言えず、乾いた笑いを零した。


「まあ、アーロンには勝てないだろうな」


 トールはそう言って、エールを煽った。


「そうか、そう言われると俄然やる気が出るな」


 アルフレッドはそう言って、トールと同じようにエールを煽った。

 その後も、七賢者たちの談話は続いた。七賢者のいる個室には、明るい笑い声が響いていた。





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