約1ヶ月後の風月(7月のこと)1日。
王城の謁見の間にて、アーロンは跪いていた。
玉座から立ち上がったシェードが述べる。
「アーロン・フォン・シュタイン。貴殿は魔導列車という新たな移動及び輸送手段を我々と我が国民に与えた。その功績を称え、陽光勲章および伯爵位とヴェーテ領改め、オルジュ領と報奨金として大金貨一万枚を与える。伯爵位は、ヴァルト男爵位と両立できるものとする」
ヴェーテ領改めオルジュ領は、中央に近い領だ。
不正があり、王族が一時管理していた土地だが、とても豊かな穀倉地帯だ。
アーロンをなるべく王都に近い場所に置いておきたい王族と重鎮の思惑が反映されているようだ。
爵位や領地、報奨金について書かれた羊皮紙の巻物を3つと勲章、大金貨の入ったいくつかの革袋を受け取ったアーロン。
重かったので、アーロンはこっそり身体強化した。
「有難き幸せ。王国に栄光あれ」
叙爵や昇爵などしたときに、よく使われる決まり文句を噛まないように述べたアーロンは、ほっと一息した。
「王国と共にあれ」
シェードがそう言うと、横にいる宰相が口を開いた。
「オルジュ伯爵。下がって良いぞ」
「はっ」
アーロンは立ち上がって一礼すると、部屋を出るため扉に向かった。
騎士たちによって開かれた扉から出ると、アーロンは肩の力を抜いた。
(僕、まだ10歳なのに、伯爵になってしまった……)
遠い目をしたアーロン。
羊皮紙の巻物などをヴァルトバングルに入れて、ヴァルト領に戻るために王家の庭にやってきた。
「アーロン様」
「あ、マグノリア殿下」
庭を散歩していたらしいマグノリアと出会ったアーロン。
最近は、言い寄られることなく、自然に話すようになっていたので、前のように苦手意識はないようだ。
「伯爵位に叙爵されたとのこと、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
マグノリアは何か決意したような目でアーロンを見上げた。
「アーロン様。わたくし、アーロン様の隣に立てるような強い淑女になりますわ」
「え?」
「待っていて下さいませ」
そう言って、マグノリアは去っていった。
(うーん、僕も目を逸らさずに、向き合っていかなきゃいけないな)
アーロンは、マグノリアと四大公爵のご令嬢四人の姿を思い浮かべた。
(みんな、良い娘だからなぁ……ハーレムなんて柄じゃないんだけどさ)
アーロンは苦笑しつつ、転移門を
「あら、アーロンじゃないの」
赤いドレスを纏ったボンキュッボンの茶髪美女がいた。
金色の瞳を輝かせ、アーロンをひょいと抱き上げてしまう。
「メリア師匠、来てたんですね」
動揺することなく、アーロンは声を掛けた。
彼女──メリアは七賢者の第三位、焔炎の称号を持つ賢者だ。
オズワルドに勧誘されて、アーロンに火魔法を教えたアーロンの師匠の一人だ。
「アーロンはあたしの癒しだからね、暇があれば、来るわ」
「あはは」
「そういえば、聞いたわよ、アーロン。貴方、伯爵になるのね?」
「あ、もう伯爵位は頂きました」
「なんか、陛下に先を越された感じだわ。もう、第二位でも良いからアーロンを賢者にして貰おうかしら」
「それは、ちょっと。それに、第七位のロドニー師匠に申し訳ないような」
第七位は【大樹】のロドニー・アボット。
もし、アーロンが七賢者に推薦されてしまったら、一番に蹴落とされてしまう位置にいる可哀想な賢者だ。
「ロドニーは気配薄いし、いてもいなくても変わらない気がするわ」
「それ、ロドニー師匠が聞いたら泣いちゃいますからね」
「ロドニーはああ見えて図太いから大丈夫よ」
「そう、ですか?」
「そうよ。それより、第一位のあいつは何処で何をしているのかしら、あいつさえいれば、
全員。そう全員だ。
アーロンは第一位以外の全て賢者と会っていて、全員に第一位になるべきだと言われていたが、第一位が見付からず、推薦に漕ぎ着けられていない状況だ。
「えっと、僕は別に、賢者って凄い人がなるものだし……」
「アーロンは十分以上にとんでもない実力があるから、賢者にならないと駄目よ。……はあ、あいつ、相当にやばい方向音痴だから、どっかで迷子になってるわよね」
「あ、そういえば、第一位の賢者様って名前はなんていうんですか?」
「ん?名前なんて聞いてどうするの?」
「ヴァルトバングルと僕のスキルがあれば見つかるんじゃないかな、と思って」
メリアは目を丸くした。
「見つけられるの?」
「今、思い付いたので、できるかは分かりませんが……」
「七賢者第一位、称号は光明。あいつの名前は、アルフレッド・フォン・アラバスターよ」
アーロンはガイドに語りかけた。
(ガイド、ヴァルトバングルのマップを使ってアルフレッドさんを探して)
ホログラムウインドウが浮かび上がった。
[アルフレッド・フォン・アラバスターは我々がいる大陸の西にある大陸にいます]
マップの西にある大陸に緑の丸が表示された。
「メリアさん、アルフレッドさんは僕たちのいる大陸の西にある大陸にいるって」
メリアは口元を引き攣らせた。
「道理で、見つからない訳だ」
メリアはアーロンを降ろすと、すくっと立ち上がった。
「アーロン。あたしは他の賢者と一緒にあの方向音痴を引っ張って来るわ」
じゃあね、と言ってメリアは転移門の方に走っていった。
メリアや七賢者は転移門を自由に使えるように、アーロンが登録しておいたのだ。何かあったときに七賢者がすぐに各地へ行ければ、問題解決が早いだろうと。
(まあ、7年も迷子は問題だよね)
と思いつつ、アーロンは新領主館に入った。