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 ズズ、という擦るような音と共に台座の上の一部分がズレて、中から古びた本を載せた台座が上がってきた。

 読んでくれと言わんばかりの本をアーロンは手にした。


「父上、この本……」

「それはお前に読んでもらう為の本だろう。持っていきなさい」


 ロベルトは不安そうな顔をしたアーロンの頭を撫でた。


(父上はあの映像の日本語は分からなかっただろうな、僕が未知の言語を知っていることは可笑しいことなのに、変わらずにいてくれる)


 ロベルトの温かな微笑みを見上げ、アーロンは涙が込み上げてきたので、慌ててうつむいた。


「ありがとう、父上」


 アーロンはロベルトと共に一階に戻った。


「父上、聞きたいことがあるのだけど」

「なんだ?」

「ご先祖様は勇者なの知ってたの?」

「ああ、知っていた」

「なんで、ヴァルトの初代様はこの土地を与えられたんだろう。勇者の末裔なら、他に良い土地があったと思うな」

「……エレツ王国の初代国王様は勇者関連の本を焚書したとヴァルトの歴代当主の手記に記載されている。初代国王様とヴァルトの初代様は親友だったらしいが、歴代当主たちは追放されたのではないかと手記に記載している人が多かったな」

「そう、なんだ」

「まあ、お前にしか分からないこともあるだろう。この部屋で少し読んで行くか?」

「うんと、全部ヴァルトバングルに収納しても良い?」


 アーロンはいつでも取り出せるようにしたいようだ。


「ああ、構わない。ヴァルトバングルの方が安全だろう」


 アーロンは頷き、本棚ごと本を収納した。


[この部屋にはまだ隠されたものがあります]


 ホログラムウインドウが浮かぶ。

 ガイドだ。

 アーロンはその内容に目を見張りつつ、ガイドの案内に従い、本棚があった壁をノックするように叩く。

 軽い音が鳴った場所を見つけたアーロンは、指を引っ掛けるような穴を見つけた。

 穴に指を引っ掛け、蓋を開くように開けた。

 中には一通の手紙と二冊の本が置いてあった。

 アーロンは手紙と本を取り出した。


「隠してあったのか」


 ロベルトは驚きつつ、アーロンに声を掛けた。


「うん、そうみたい。とりあえず、これもヴァルトバングルに入れておくよ」


 アーロンは手紙と本をヴァルトバングルに入れた。


「よし、行くか」


 ロベルトとアーロンは何も無くなった隠し部屋から出て、旧領主館を後にした。


「父上」

「ん?」

「旧領主館は取り壊すの?」

「ああ、役目を終えたからな」

「やっぱり、残すことはできないんだよね」

「残したいのか?」

「その、先祖代々受け継がれた建物を取り壊すのは申し訳ないな、と思って」

「……アーロン、私たちがこの建物を受け継いできたのは資格ある者、つまりお前の為だ。この旧領主館は役目を終えたんだよ」

「うん……。分かった」


 新領主館に戻ってきた2人はソフィアに迎え入れられた。

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