光が収まると、水晶から天井に向かって光の筋が伸び、ホログラムで人の姿が浮かび上がった。
そこに写った人物は、どちらかといえばあっさりした薄味っぽい童顔の男だ。アーロンの前世の日本によくいる日本人のような顔だ。
(どこかで会ったような……)
アーロンは日本人っぽい男の顔をどこかで見たような気がしていた。
『これが見えてるってことは、君には
懐かしい
『初めまして、僕の末裔。そして、同郷の者よ。僕は日本からこの世界に転移した日本人だ』
やはり、とアーロンは思った。懐かしいこの言葉は間違いなく日本語だから。
『名前はケータ・ヤマダ・ジパング。日本にいた頃はやまだけいた……やまだは普通の山田で、けいたは啓蒙の啓に、太いの太。山田啓太だ』
アーロンはその名前に聞き覚えがあった。
遠い昔、前世でまだ自分が幼い頃に。
(もしかして、叔父さん?)
アーロンは、前世で幼い頃、行方不明になった叔父である山田啓太を思い出した。
『二神が教えてくれたが、君は僕に近しい人物らしい。誰かまでは教えてくれなかった。僕の名を聞いて、僕のことを思い出してくれると嬉しい。恐らく、僕が呼ばれてから君が転生するまでは千年の時が流れているだろうから』
やはり、自分の叔父だ、とアーロンは確信を持ったが、千年経っているという啓太の言葉に疑問を持った。
『僕の言葉に君は疑問を抱いただろう。その疑問に応える前に、この世界の昔話から始めよう』
啓太はゆっくり語り始めた。
始めに二柱の神がいました。
全ての力の源なる女神アルヒと、創造と破壊の神デミウルゲインです。
アルヒとデミウルゲインは協力して世界を創造しました。
空と星々、太陽と月、海と大地、ありとあらゆる環境を整えました。
アルヒとデミウルゲインは最初に全ての万物の頂点である龍を創りました。
そして、万物を管理する十柱の精霊王と精霊たちを創りました。
そして、神獣・幻獣・ありとあらゆる動物、竜人・エルフ・ドワーフ・ハーフリング・獣人・人族など、様々な種族を創造しました。
美しく、平和な世界が続きました。
ある日、最初に創られた龍──全ての龍の王が二神を裏切り、世界を我が物とすべく、支配を広げていきました。
世界が全て支配される前、二神は半分の力を使って異世界から勇者を召喚しました。
勇者は仲間と共に、龍──魔王を大きな岩に封印しました。
昔、読んだ絵本の内容と少し違う内容にアーロンは少し驚いていた。
『二神はもう半分の力で何をしたと思う?』
啓太は微笑みを浮かべた。
『その半分の力は僕を召喚する前に既に使われていたらしい。君が産まれる前、胎児だった君に』
アーロンは目を丸くした。
『二神は君の魂を気に入ったらしいね。胎児に宿っていた君の魂に二神は半分の力を込めた。暫くして近くにいたらしい僕に目を付けてもう半分の力を与えた。そして、僕をこの世界に召喚して、勇者にした』
啓太は上を見上げる。
『最初は異世界転移だって喜んだけど、すぐにホームシックになってね、でも、悲惨な状態になったこの世界を見たら放っておけなくてさ。色々頑張っている内に大事な人もできて、いつの間にか、この世界が大切になってたんだ』
啓太は正面を向いた。
ただの映像の筈なのに、アーロンは啓太と目が合ったような気がした。
『話を戻そうか。僕は君と似た石の力を貰った。けど、成長した魂は力をちゃんと受け入れることができなかったらしい。僕は魔王を封印するしかできなかった』
啓太は苦笑した。
『魔王を倒すことができるのは、まっさらな頃に力を受けた君しかいない』
啓太はお辞儀した。
『どうか、この世界を救って下さい』
アーロンはお辞儀されることはよくあるが、未だに慣れていない為、あわあわしそうになった。
暫くして啓太は頭を上げた。
『頼まれて大変なのは君だと思う。けど、この世界のことを少しでも大切に感じるのであれば、どうか、僕たちの意思を繋いで欲しい。ごめんね……君の人生に幸多からんことを』
映像はそこで終わった。
水晶は光の粒となって消えた。