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受け継がれる意志

56




 いつもより早くに起きたアーロンは、窓を開き、バルコニーに出た。

 太陽がまだ顔を覗かせていないが、ヴァルト山脈の向こうは薄っすらと明るい色に染まっている。

 夜明け前の静寂を味わいつつ、アーロンは太陽を待った。

 暫くして、ヴァルト山脈から太陽が現れ、眩い光をアーロンに届ける。

 目を細めて、アーロンは夜明けを迎えた。

 エレツ王国歴330年神月11日、アーロンは13歳になって初めての朝を堪能していた。




「成人おめでとう、アーロン」

「おめでとう」

「おめでとうございます、兄上」


 食堂にやってきたアーロンは待っていたであろう父母とルーカスから祝いの言葉を貰った。


「ありがとうございます、父上、母上、ルーカス」


 アーロンは笑顔を浮かべた。


「アーロン、あとで渡したいものがあるから、食事が終わったら一緒に来て欲しい」

「分かった」

「さあ、食事にしよう」


 アーロンたちは、ヴァルトの超絶美味しい食材を腕の良い料理人が料理した朝食を堪能した。

 食事の後、アーロンはロベルトと共に新領主館を出て、旧領主館に向かった。


「旧領主館?ここに渡したいものがあるの?」

「ああ、こっちだ」


 ロベルトは旧領主館の一階にある執務室にアーロンを案内した。


「ちょっと、待っててくれ」


 ロベルトは執務椅子の後ろにある壁に手を当て、何かを探すようにコツコツとノックするように叩く。


(なんだろう、念の為、闇属性魔法を使おう)


 アーロンはこっそり【闇の幻惑】を天影に使った。

 やがて、軽い音がしたところに手を置いて、押し込んだ。

 ゴゴゴ、という音が重く響く。

 右側にある本棚が音と共にゆっくりと左へズレていった。

 本棚があった場所にはただ、壁がある。

 ロベルトが壁を押すと、壁が動き、扉のように開いた。


「アーロン、行こう」

「う、うん」


 アーロンは旧領主館にこのような仕掛けがあることを知らなかった為、戸惑いつつもロベルトの後ろを付いていった。

 壁の向こうには、部屋がある。


「この部屋は歴代当主たちの手記が置いてある部屋だ。ここも自由にしていいが、もう1つ、お前に贈る部屋がある」


 ロベルトはそう言うと、ラグを持ち上げ、端っこに丸めて置くと、ラグが敷いてあった場所にしゃがみ込んだ。

 床を探すようにロベルトはキョロキョロする。

 やがて、を見つけたロベルトはポケットから取り出した鍵を鍵穴に差し込んで、開けた。

 ゴゴゴという重く響く音と共に床が開いていく。

 現れたのは階段だ。

 ロベルトは迷いなく階段を降りていく。

 驚いて暫し固まっていたアーロンはロベルトに続いて降りていった。


「ここが、私たちが守ってきた場所だ」


 地下に広がる広々とした空間は、まるで神殿のような造りをしている。

 中央には、台座の上に鎮座する水晶のようなものがあった。


「この水晶は私たちの先祖が遺したもので、が触れることで起動するそうだ。アーロン、触ってみなさい」

「えっと、うん」


 アーロンはそろそろキャパシティをオーバーしそうな心情であったが、水晶に触れた。

 水晶の中心に光が宿り、やがて、眩い光となった。


「!?」


 見ていられない程に水晶が輝き、アーロンは思わず目を閉じた。


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