目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第7話 やはり油断ならないな

 丘陵で日暮れを迎えた楽毅がくき達は、付近に民家も何も無い寂寥せきりょうとした木々の狭間はざまに野営を設ける事となった。


 食事をった一行はすぐに天幕テントを張り眠りに就く。

 炬火きょかはすべて落としており、そらの星明かりも木々によってほとんどさえぎられている。そんな暗澹あんたんと静寂が支配する空間に、彼女達は身を置いていた。

 本来であれば獣を除ける為に火は焚いたままにしておくべきなのだが、獣よりも恐ろしい野盗をおびき寄せてしまう可能性があるのだ。


 馬を繋いでいる木の根元に、ツェイが一人背中を丸めてうずくまっている。

 彼女はまだ眠っておらず、側で気持ち良さそうに眠っている馬の頭を優しく撫でていた。


 その刹那、前方から近づく何者かの足音を察知し、立ち上がると同時に懐から匕首ナイフを抜き出し身構える。


「私だよ、ツェイどの」


 大きな黒い影と共に現れたのは楽乗がくじょうだった。

 その姿を確認したツェイはフッと鼻から息を吐き出し、無言のまま匕首ナイフを懐に戻した。


「ずっと見張りをしていたみたいだな。後は私が代わるから、アナタは眠っておいた方がいい」


 そう言って楽乗がくじょうは先程までツェイが座っていた場所にどっかと腰を降ろし、ツェイと同じ様に馬の頭をなでる。


「……私が眠っている方が安心、というワケですか、楽乗がくじょうどの?」

「そうかもしれないな」


 わずか一歩程の両者の間に、剣呑けんのんとした空気が糸の様にピンと張りつめる。


「……では、お言葉に甘えさせていただきます」


 その緊張を振りほどくように、ツェイ拱手こうしゅを残し、歩き出す。


 しかし、すぐにその歩みを止めると、


「……アナタの楽毅がくきどのに対する献身は忠誠? それとも愛?」


 背中越しに問う。


「なっ⁉︎」


 不意に取り乱し、立ち上がる楽乗がくじょう

 しかし、すでにツェイの姿は闇の中へと消え失せていた。


「……あの娘、やはり油断ならないな」


 楽乗がくじょうは口惜しそうなつぶやきを闇に向け、再び腰を降ろすのだった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?