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第二十二話「あなたのことを守る」

「すいませんっっしたぁ!!!!」


 私は土下座した。

 額を床に擦り付けた。


「ちょ……いきなりどうしたんだ!?」

「みみみ……未成年とは知らずこんなことを」


 私は少年を愛でたいと言う欲求をほんの少し、ちょっぴりだけ持ってるけど触りたいなどと思っていない。いや、思ってはいけない!!


「因みに彼は肉体年齢的には16歳よ」

「ああああああああ!!!!」


 麗香さんがくすくす笑いながら追い討ちをかけてきた。


 ちょっと待って!!

 私と8歳くらいの差がある!?

 私が中学1年生の時、平沢さ……平沢くんは幼稚園生!?

 ……幼稚園通って無いかもしれないけど、年齢差としてはそんなイメージだよね……?


「ん? どしたの美琴?」

「うわぁあああああん昴ぅうううう!! 私の事逮捕して!!! 未成年に手を出しちゃったぁああああ!!」

「ほい」


 ガチャリ。


 私の両手首に手錠がされた。


「このまま連れてっていいの?」

「うわぁあああああん! 連れてってぇええええ!!」

「ちょっと……ちょっと皆落ち着きなさい!」


 真理お嬢様が慌てて止めに来た。


「……知ってしまったのね」

「この子も仲間でしょ? なら知っていたほうがいいじゃない」

「それはそうだけど……」


 麗香さんは思ったことをスパスパ言う……。

 仲間と言ってくれて嬉しかったけど、物事には順番が……。いきなり衝撃の事実を突きつけられても……。


「ごめん……俺が年下で、失望した?」

「興奮した」

「……え?」

「ち、違うのおおおお!!! やっぱ昴! 留置所連れてって!!!!!」

「痴女(ちじょ)だけにりゅう(ちじょ)だって! あははははは!!!」

「やめてぇええええ!!!」


 手錠で拘束された私の手をブンブン振りながら涙を流して笑っている昴。

 私も涙と鼻水で顔がぐぢゃぐちゃになっている。


 確かに、思い起こせば彼が未成年であるフシはあった。

 お酒を一滴も飲まなかったし、恋愛の機微も全く知らないし……日常生活のことに関しては疎すぎると思っていた。

 そりゃあ高校1年生くらいの年齢、しかも特殊な環境なら……。


 ――姉貴分と似てる。


 マジでそういう感じじゃないか……。


 ◆◆◆


「ああ……どうしよう。どうしよう」


 ――現在、朝の日差しを浴びながらスマートシティの中一人で歩いてる。



 平沢さ……もう、なんて呼べばいいか分かんない。

 気晴らしのためにこうしてスマートシティ内をブラブラ歩いているけれど、動揺したこの心を落ち着ける事が出来ない。


「疲れた」


 公園のベンチに腰をかけた。

 目の前で子供達がボールを蹴って遊んでる。


 ――平沢さんもこんな平和な時間を過ごした事があるのだろうか?


 胸がキュッと締め付けられる思いがした。


 私が心を乱している理由は沢山あって複雑。

 もちろん自分がこれまでしてきた行動について罪悪感を感じているけど、それだけじゃない。こんな未成年が日本を背負っている戦ってるということ。


 誰にも知られずに、命をかけて。


 私も含めて、自分が暮らしている国が危機に晒されているなんて知らなかった。

 皆当たり前のように平和を享受している。


 ――怒りが湧いてくる。


 この感情をぶつける先も分からない。

 自分自身にも腹が立ってくる。

 周りの大人も、何も知らない人達も、罪なき人々の生活を脅かそうとしている人達に対しても。


「あれ? もしかして……リーダー?」

「え!? ティア!?」


 俯いてる私の頭上に声をかけてきたのは、かつての後輩アイドルのティア。


「やっぱリーダーだ!!」

「ちょっと、やめなさい! って今のリーダーはナナミさんでしょ」


 私に抱きついてくるティア。


「お休みのところすみませんね」

「いえいえ。ナナミさんこそ大変でしょう」

「ふふふ。まあ」


 他のパレットプログラムのメンバーと一緒だったらしい。


「ミコトさんもお仕事でここへ?」

「まぁ……そうそんな感じ?」

「ミコトさんがここに居るって何だか心強いです」

「皆さんもこの国でお仕事ですか」

「ええ、スマートシティの式典に参加するんです」

「なるほど」


 ティアが私の胸に顔を埋めて頭をグリグリしている。


「ちょっと……痛い痛い」

「リーダーお昼食べた? 食べてないなら一緒に食べようよ!」

「わかった、わかったから離れて!」


 ティアを引き剥がして立ち上がった。


 ――久しぶりに日常を満喫するか。


 今日はアイドル時代を思い出しながら過ごしてみよう。


 ◆◆◆


「あー遊んだ遊んだ! 最後に『ドローン花火』を見てみません?」

「見てみようか」


 夕日が沈み、空が紺色になっている。

 私達は夕食も一緒に食べて、今日の締めくくりをどう過ごすか相談していた所だ。


 それにしても、久しぶりに思いっきり遊んだ。

 ティアやナナミさん以外のメンバーとも沢山お話した。

 なんか、久しぶりに「楽しい」って感情を得たかもしれない。ここ最近の私の娯楽って、平沢さんにちょっかい出して遊んでただけだし……しかも未成年。


 アアア……思い出してしまった……。


「すごい沢山人が集まってる!」

「私達も気合い入れないとね。ここに居る人達……いや、もっと多くの人達の前でパフォーマンスをするのだから」


 ――さすがリーダー。


 この人数でも物怖じせず、逆に熱くなってる。

 少し胸がチクッとした。 


「わあ、綺麗……! 綺麗ですねリーダー!」

「ええ、そうね」


 上空を大量のドローンがライトによって絵を描いていく。その姿は龍の形となり、ドラゴンの火を花火によって表現している。


 これまで見たこともないような幻想的な世界が夜空に描き出されていく。


 ティアが私の手を握ってきた。

 私と可愛い後輩は目を合わせ、ニコッと微笑み合った。


 ――こういう時間を幸せと呼ぶのだと思う。


 そう思ってしまった。

 少しだけ……少しだけここ最近の私の生活が、何だか非現実的なものだと思ってしまった。

 幻のようで、悪夢のようで、映画のような時間。


「えーもう終わっちゃうのか……でも、良い思い出になりましたね!」

「ええ、そうね」


 イベントが終わり、皆と帰ろうと振り返った瞬間、平沢さんが立っていた。


「あ、迎えに来てくらたの?」

「ああ」

「じゃあ帰ろっか」


 動揺はもう無い。

 ティア達と過ごした楽しい時間が、私の心を冷静に戻すことができた。


「むー。リーダーを取られた」

「もう、そんなんじゃないから」


 私達はパレット・プログラムの皆と別れた。


 ◆◆◆


「迎えに来てくれてありがとう」

「うん……でも、もう大丈夫なのか?」

「大丈夫よ。平沢さん」

「……そっか」


 私は今まで通りの態度で接することにした。

 もちろん、距離感近いスキンシップは控えるけど。


 ――でも、新たに決めたことはある。


「改めて、今まで守ってくれてありがとう。私をこの道に導いて、自分に自信を持つきっかけをくれた。それもとても感謝してる」

「いきなりどうしたの?」


 キョトンとした表情で頭上に疑問符を浮かべる平沢さん。

 その姿を見て、胸の奥がとても熱くなった。


「私も……私も平沢さんのこと守るから」

「……うん」


 平沢さんが、何故か少し悲しい顔をした。

 その答えが判明するのは、そう遠くない未来だった。


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