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幕間1「二条ティア」

「うう……あああああ!!」

「リーダー……」


 リーダーがわたしの腕の中で悲嘆に暮れている。

 まさか、わたしの尊敬するリーダーが、こんなに子供みたいに泣きじゃくるなんて……。


 いつも皆の精神的支えになって、皆を笑顔にさせて、力になってくれた。

 わたしの知る限り、リーダーが泣いてる姿なんて見たことがない。


 ――リーダーを泣かすなんて……許せない!


 でも、なんだか深い事情がありそう。

 リーダーがステージに乱入した日、アーティストっぽい見た目をした私服警察官がリーダーのことを「協力者」と言っていたケド……。


 頭が良く、常に皆のことを考えてたリーダーのことだから、わたしには想像できないような凄い役割を持っているかもしれない。


 ――そうだ。そういえば……思い出した。


 リーダーが泣いてる所を見たことがある。

 それは、他のグループのメンバーが両親とうまくいっていない現状を知ったときだ。


 急に想い出が溢れてきた。


 リーダーはいつも誰かのために泣いていた。

 だから、きっとこの涙は自分の境遇じゃなく、一緒に居た「平沢さん」っていう男の人のために泣いて居るのかもしれない。


「そういう所が好きなんですよ」

「うう……ひっく……ひっく……」


 私の言葉も聞こえないくらい泣いちゃってますね。


 リーダーの背中を撫でながら想い出に浸った。


 ◆◆◆


 ――はじめ、わたしはリーダーのことをダサいと思って見下していた。


 化粧が下手で、自分の魅力を殺していた。

 リーダーのすっぴんの顔はかなり整っていて、可愛さと美しさの両方を併せ持っている奇跡的な見た目だ。

 それなのに、自分の魅力を殺すような方法で、地味な仕上がりになるように化粧をしていた。


 ステージ上での歌もダンスも平均的。

 でも、自主練している時はアイドル界トップクラスの歌とダンスを鏡の前の自分だけに披露していた。


 わたしは全く理解ができなかった。

 なぜ自分の魅力を殺すようなことばかりやっているのか?


 ――しかし、ある日わたしは思い知らされた。


 あるイベントで他のアイドルグループ達と合同ライブを行った時のこと。

 ライブの締めくくりでグループ同士のコラボステージが企画されたけど、各グループから数名ずつ参加することとなった。


 わたし達のグループ以外は格上。

 実力に差があることを自覚せざるをえない環境。

 そんな中コラボに参加したら恥をかくことになるのは見え見えだった。

 わたし以外のグループの皆は物怖じして誰も立候補しなかった。


 ――リーダー以外は。


 わたしは自分に自信を持っていた。

 ビジュアル、歌、ダンス全てにおいてグループ内で1番実力があると思ってたし、このコラボでもギリギリ戦えるかと思っていた。だから、いつものステージ上でのリーダーならば、わたしの足を引っ張ると思っていた。


 ――結果は真逆だった。


 足を引っ張るどころか皆を纏め上げ、パフォーマンスも格上相手にバチバチでやり合っていた。

 わたしと一緒にクローズアップされる展開の時は、わたしがやりやすい様にリードしてくれた。


 そこでわたしは理解した。


 ――リーダーは、全体に合わせていたのだと。


 パフォーマンスする側なのにも関わらず、映画監督のような視点で全体がどう映っているのかを考えて調整を行っていた。

 私達グループは、完全にリーダーによってプロデュースされていた。


 ――わたしは、はじめて敗北を知った。


 地下アイドルをやる女の子は皆難しい。プライドが高かったり、わがままだったり、感情のコントロールができなかったり。

 そんな子達をリーダーはうまく宥めたりお世話をした。病んで自己肯定感がマイナスになった子を逆に自己肯定感MAX状態にしてしまい、全力以上のパフォーマンスを行えるよう支える場面もあった。


 でも、現実は残酷なもので……いくらリーダーとわたしが凄くても、全体のレベルが上がらなければ意味がなかった。

 やがてグループの人気が上がらなくなり、解散することとなった。


 グループ解散後は皆それぞれの道を歩んだけど、リーダーは就職の道を選んだ。

 わたしは必死に止めて一緒にアイドルになろうと誘ったけど、リーダーは自分に自信を持つことができずに、アイドルをやめてしまった。


 誰よりもアイドルとしての才能があると思っている相手が、自分の才能に絶望してしまうなんて悔しくて溜まらなかった。

 だから、わたしは頑張って実力のあるアイドルグループに加入して、いつかまたリーダーをステージの上に引っ張り上げたいと思っていた。


 だけど、実力はアイドルグループの壁は高かった。

 皆の力量に圧倒されて、うまく自分を表現することができなかった。

 挫折を味わい、毎日暗中模索する日々だった。


 ――だけど、リーダーは私のために再びステージに上がって励ましてくれた。


 あの出来事がきっかけでわたしは自分の強みを発揮することができるようになり、わたし自身のファンも増えた。

 全てがうまく回り出した。


 ――わたしにとって先輩は欠かせない、大切な存在なんだ。


 ◆◆◆


「うう……ひっく……」

「ほら、リーダー。ここでいつまでも泣いているのもアレなので……カフェにでも行きましょうよ。話聞きますよ」

「……うん。ありがとう」


 再びリーダーをステージの上に立たせて、こんな涙止めてやる。

 あの時就職するリーダーを引き留めることができなかったけど、リーダーが涙を流さなきゃならない環境に身を置かなきゃならないなんて許せない。


 今度は、わたしがリーダーの手を引くんだ。


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