「さて、話を戻すけど……俺は元々別班特殊部隊に所属していたんだ。雪乃姉さんとスサノオとは違う部隊だったんだ」
「裾野事件の時も、進士達の部隊と別班特殊部隊3課がスマートシティの警備に当たっていたということ?」
進士は当時の裾野事件の話から始めた。
それに対して、私なりに得た情報と推測したことをぶつけてみる。
「いや……正確には、俺達は裾野のスマートシティの企業エリア内で生活をしていたんだ」
「それは……伊邪那能力開発局の施設ってこと?」
「……美琴はどこまで知っているんだ?」
「沢山あなたのために頑張ってきたってことよ」
「……ありがとう」
進士は少し俯き、腕目を拭った。
「俺のために頑張ってくれる人は少ない。だから……本当に嬉しい」
「それで……伊邪那能力開発局がスマートシティ内にあったというのは、出先拠点みたいな感じ?」
「あ、ああ。そうなんだ」
周囲の皆は私達のやり取りを見てニヤニヤした。
恐らく、照れ隠しで私が話を変えたのだと思ったんだろう。
――罪悪感。
そういう気持ちもあったかもしれない。
だけど、彼の言葉を聞いて胸がチクリと痛んだから、彼の言葉を避けてしまった。
「スマートシティ内の研究施設所内で俺達は生活していた。雪乃姉さん――空港で日本刀で襲い掛かってきた女性は、俺達スサノオのクローン実験体の中で最も優れた存在だった。だから、彼女だけ先に別班特殊部隊3課に配属され、スサノオと行動を共にするようになったんだ」
「その……別班というのは、最近ドラマでやっていたような内容と同じなの? 自衛隊の特殊部隊という認識であっているの?」
「それは――」
「その話は複雑だから、今はやめておきましょう」
昴の相棒の藤間凛さんが話を遮った。
昴はもしかしたら現役の別班の人間かもしれない。
そうすると……彼女の相棒である藤間さんも別班の人間かもしれない。
「……わかった。とにかく、別班という日本国内の特殊部隊が存在しており、当時国内最強だったスサノオと、そのクローン兵士の中で最強だった雪乃姉さんが所属していたのが3課という部隊だったんだ」
「アマテラスも3課に居たの?」
「……え?」
単刀直入に聞いた。
さっきみたいに藤間さんに話を遮られたくない。
今のうちに聞けることは聞いておきたい。
「なんで姉さんのことまで……」
進士は一瞬昴を見て、怪訝な顔をした。
それに対し、昴は妖しい笑みを浮かべた。
「俺が姉として慕っていた女性――アマテラスは俺が配属された部隊のリーダーだったんだ」
「雪乃という、あの暗殺者が一番初めに特殊部隊に配属され、次に進士が別の特殊部隊に配属されたってこと? 進士はクローン兵士の中でも二番手だったってこと?」
「そう。いや……正確には、雪乃姉さんと俺しか生き残らなかった」
「……」
私は言葉を探せなかった。
「訓練中に沢山の命が犠牲となった。それに、俺自身、この手でいくつもの命を奪ってきた」
「蟲毒というやつだねー」
「昴、やめなさい!」
「はいはーい」
昴は私に向けてウインクした。
さっき私に対して厳しい態度を取ったくせに、なんだかんだ助け舟を出してくれる。
進士がっ言葉を濁したことを明らかな言葉で言い直してくれた。
「……そうだ。だから、そんな地獄が生み出した化け物なんだ。俺達は」
しばしの沈黙が訪れた。
その間、私は脳内でこれまでの情報を整理した。
そして沈黙を破り、その成果をぶつけてみた。
「ええと……確か、裾野に建設されたスマートシティは、その国内最強のスサノオと雪乃が所属する3課によって襲撃されたんだよね? もしかして、進士が配属された部隊がスマートシティを守る役割を与えられていたけど3課が襲ってきたから部隊同士で戦うことになってしまったって感じ?」
「美琴は本当に頭が良いよねー。本当に貴重な戦力。凛もそう思うっしょ?」
「知らない」
藤間さんの綺麗な無表情の美人顔が少し歪んだ。
「あれ? 嫉妬してるの? ボクが美琴の話ばかりするから嫉妬してるんだー?」
「うるさい!」
「ちょ……痛いって……」
藤間さんが昴のみぞおちに肘内を入れた。
昴は苦悶の表情を浮かべながら、身体をくの字に曲げた。
――もしかして、昴は話を逸らした?
昴は私に情報をくれる時もあれば、隠すこともある。
彼女は情報のコントロールをしてくる。
ならば、私は思う存分際どいラインを攻めて……いや、よくよく考えたら進士と二人っきりの時に聞けば良いのか。
この場所には麗香や真里お嬢様も居る。
彼女達も裏社会にいたとはいえ、昴ほどの情報を持ってはいないだろう。
私は情報を多く引き出すことをやめ、今後の作戦に必要な情報を整理することに重きを置くことにした。
「たしか……進士は雪乃の顔を見た時に動揺してたよね? この国に入る時も、スサノオ達のことを警戒していなかった。ということは……裾野事件で彼等を打倒したと思っていたけど生きていたってこと?」
「……うん。話を整理してくれて助かる。俺も……当時のことを思い出したくないから」
「……そう。なら、私なりの考えを言うから、合っているかどうか教えて」
「うん」
進士は今にも泣きだしてしまいそうな顔になった。
だから、彼の代わりに言葉を紡ぐことにした。
「たぶん……進士が居た部隊と3課は衝突して、お互いに大きな損害が出てしまった。アマテラスという……進士の姉代わりだった大切な人を含めて沢山の犠牲を出した。その代わりに3課を全滅させた――と思ったら今回生きており、日本に対するテロ工作を仕切る黒幕だったというわけかな?」
進士は頷いた。
「確かに、別班特殊部隊という戦闘のプロ……というか国内最強レベルの戦闘集団でさえ叶わなかった敵が今回立ち向かわなくてはならない敵だったと判明すれば、進士が一人で何とかしようとした気持ちは分かるよ」
「……」
進士は俯いて、再び腕で目元を拭った。
それくらい、私に襲い掛かった悲劇に対して自責の念を抱いているのだろう。
でも、進士の判断は正しいと思う。
私達のチームは戦闘用の集団ではない。情報を集めるだけだ。
だけど、情報を集める過程で敵に襲われないとも限らない。
いや、高確率で戦闘になるだろう。
「進士が何も言えず、置手紙を残すしか無かった事情は分かったわ。そりゃあ……私が真正面から別班特殊部隊と戦うことになるかもしれないなんて、進士からしたらあり得ないもんね。私だってそうよ。そんな戦闘のプロを相手に戦うなんて絶対あり得ないと思っていたわ。これまではね」
進士が顔を上げた。
「この話を聞いても、私はこの一連の黒幕達をぶっ殺す覚悟はできてる。だから、今後の作戦を立てましょう。あなたが一人で活動していた間に得た情報を教えてくれる?」
「……わかった」
別班?
最強兵士のスサノオ?
そんなの関係ない。
そんなこと聞いても、ティアの笑顔を奪った奴らに復讐するという私の決意は変わらないんだ。