――地下インフラ爆破テロ計画とは、スマートシティ設立記念式典でのテロ計画。
進士が入手した計画は、スマートシティ設立記念式典で地下インフラで爆発を起こし、各国の要人や大量の民間人もろとも多大な犠牲を出すことを目的としている、
このバルクネシアのスマートシティは日本の企業が中心に参加しており、沢山技術提供もしている。
そんな都市がテロリストによって破壊されてしまえば、日本のメンツは丸つぶれである。
過去に裾野事件を起こしているから二度目の失態を演じることになる。
日本のガバガバなセキュリティを全世界に晒し、尚且つ各国の要人を悲劇に陥れることで全世界に衝撃をもたらす。
そこで得た注目度を利用し、自分達の主張を全世界に届ける。
これが今回のテロリストの狙いである。
「こんな気持ちで記念式典に参加したくなかったな。でも、ここにあいつらが来るのは確実だよね?」
「ああ。そのはずだ」
私は進士と一緒にスマートシティの観光エリアを歩いている。
今日はスマートシティ設立記念式典……つまり、テロ計画が決行される日である。
現在、地下インフラへ続く通路を巡回して異変が無いか見張っている所だ。
「それにしても、この国の人達は商魂逞しいね」
つい先日テロが発生したというのに、もう店を開けている。
何事も無かったかのように。
爆発により破壊された店舗は応急措置をしながらも販売活動を行っている。
「それほど、この国の人達はテロ攻撃や銃撃戦に慣れているということだ」
「確かにスマートシティができる前は治安が悪かったと聞いているわ」
かつて、このバルクネシアという国はギャングが蔓延る国として有名だった。
各国のマフィアが取引を行う、隠れ蓑として使用する場所でもあった。
しかし、近年大きな争いが起こった後治安は良くなり、スマートシティ建設できるほどになった。
ニュースではマフィアの抗争によりお互いが弱り、政府軍が鎮圧することができたと報じられていたけれど。
「もしかして、この国の治安が良くなったのってスサノオ達の仕業?」
「俺はそう考えている。インフルエンサー等、3課の人達がこの国を拠点にして日本に対するテロ活動を行えたのは、この国の政府に貸しがあるのではないかと疑っている」
「なるほどね。そういえば、『真実を語る足長おじさん』って、あの暗殺者――雪乃に殺されたんだよね?」
進士が会議で話していたが、進士は男の居場所を突き止め、彼の潜伏先に突撃した時……そこに雪乃が居たらしい。
彼女はインフルエンサーの男を殺し、拠点に火を放っていた。
「ああ。口封じだろう。インフルエンサーの男は裏社会での活動に関しては素人だった。闇オンラインサロンの中では支持を得ていて力もあった。だけど、セキュリティや秘密保持に関する意識が低く、スサノオ達の真の目的に関する情報は外部に漏れてしまう可能性があった。もしくは――」
「進士が敵だと分かったから、男に接触して情報を尋問する可能性を考えて、先に始末しておこうと考えた?」
進士は険しい表情で頷いた。
「なるほど。そうやって考えると凄い組織だよね。根本の部分はスサノオと雪乃の元別班特殊部隊3課のメンバーが計画し、その実行役を闇インラインサイトで募った『意識高いテロリスト』にやらせた。二段構えにすることによって、実態の無い集団が襲い掛かって来ているように見せてたんだよね?」
「そういうことになる。だから……闇オンラインサイトでの計画が全てであると思い込んだ結果、先日発生したテロ計画については気づくことができなかった」
――ティアが失われた事件。
「あのテロ事件はスサノオが直接現地のテロ組織を唆したんだ。スマートシティ建設により生活を奪われた者たちに対して『スマートシティ設立記念式典を成功させては永遠に土地を奪われたままである』と言い、動機を与えた」
「そういうこと……。街中で大きな被害を出せば式典は中止される。だけど、式典は決行されることになった。ざまあみろ」
式典会場は政府軍によって守られた。また、この国の人間にとってはテロ攻撃も生活の一部らしい。
常に危険と隣り合わせであったから式典を中止するほどのものでは無いと判断したらしい。
軍の増強をし、守りは固められたらしいが。
「でも、よく考えるとおかしくない? スサノオ達は式典でテロを実行する計画を立てたんでしょ? なのにテロリストを動かして『式典開催を妨害するためのテロ』を発生させたんでしょ? 矛盾するじゃない……ってもしかして」
私の脳内でアイデアが浮かんだ。
「まさか……式典中止にならないくらいのテロを発生させた隙に、本命のテロの為の準備を行っていたということ? テロが起きれば、スマートシティを守る兵士が対応するから、内部に対する警備は薄くなる。その隙に地下インフラに忍び込み、爆弾等のテロで使用する道具の設置を行うことができる」
進士は立ち止り、頷いた。
「その可能性が高い。俺がインフルエンサーの男の潜伏先に突入した時、男が雪乃に対して『なぜスサノオが現地のテロリストと接触して事前に小規模のテロを起こすよう動いているんだ』と怒りを交えながら訴えかけていた」
「テロ計画についても反りが合わなかったんだね」
「というよりも……」
私達は地下インフラへの入口付近までたどり着いた。
雪乃達テロリストが待ち構えている可能性があるため、私達は身を隠した。
「真里お嬢様。上空から周囲の状況を確認してくれ」
「了解よ」
真里お嬢様がドローンを捜査し、周囲の情報の把握を行った。
「それで話を戻すけど……インフルエンサーとスサノオ達の間で計画段階で意見の食い違いがあったのね」
「ああ。インフルエンサーの男は自分の計画立案能力を自画自賛していた。雪乃と言い争っている時も何度も自分の有能さを口にしていた」
「ああ……自分のこと過大評価して図に乗っちゃってるタイプね。それはあの女殺しそうだわ」
暗殺者の女が激怒する様子が目に浮かぶ。
「そうだな……。それに、男は自分の成果を誉めてもらいたいという欲求もあったようだ。だから、式典テロ計画も闇オンラインサイトに流そうとした。それを阻止する理由もあり、雪乃姉さんは男を殺した」
「なるほどね。元々はインフルエンサーの男もスサノオ達中心メンバーの一人だった。で、スサノオ達が直接手を下す計画は闇オンラインサロンでは議論せず、中心メンバーのみで行っていた。それとは別に、テロ活動の手数を増やしたり陽動としてテロを起こさせたい時――小間使いのように下っ端を働かせる時に、自分達の足が付かないように闇オンラインサイトを利用したのか。思想だけ共有して、間接的に指示を出していたというわけか」
今回の一連のテロ事件の全容が見えてきた。
だから、これを阻止するためには中心メンバーのスサノオ、雪乃の打倒。
そして、闇オンラインサイトから各個人を特定し、全員潰すこと。
これができれば全てを終わらせることができる。
「シンジちゃん、美琴ちゃん。日本刀を背負った女性を見つけたわ」
「了解」
私と進士は立ち上がり、銃の安全装置をオフにした。
「行くわよ」
「ああ」
二人で敵の元へと歩を進めた。