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第三十七話「最終決戦開幕」

「まさか、こんなに早く再会できるとは思わなかったよ」


 私は、激しい怒りを胸に仕舞い込みながら、満面の笑みで暗殺者に語りかけた。


「……本当に貴様は嫌味な女だな。今すぐ殺してやりたい」


 物凄い腐敗臭がする。

 今にも襲い掛かってきそうだ。


 しかし、こちらは二人。

 二対一という状況だから、私の戦闘力次第でこちらが有利となる状況だ。


「そういえばさ、進士から聞いたんだけどお前銃の扱い苦手なんだってな。銃使えないから日本刀で戦ってるんでしょ? ダッサ」

「お前こそ飛び道具に頼ってダサいわ。爪に麻痺毒塗ったものを発射させるとか陰湿。気持ち悪いわ」

「……」

「……」


 殺気を込めながらの口喧嘩。

 いつ暴発してもおかしくない。


「俺は雪乃姉さんと戦いたくない。施設で一緒に育った仲だし、血の繋がった家族のようにも思っている」

「ならば、逆に問うが何故国に復讐しない? お前……私達は実験体として過酷な環境に身を置いてきた。この手で家族を殺すことも命じられた。こんな地獄を作った犯人に対して復讐するのは当然だ。何故、お前はそれをしない?」

「そ、それは……」


 返答に困る進士。

 だから、私が代わりに答えた。


「ふうん。復讐の為……ね。だったら、私の大切な人を奪ったアンタに復讐することも当然よね」

「私は殺していない」

「同じことじゃない? アンタの親玉のスサノオがテロリストを唆した。そのせいでティアが死んだ。実行犯は違えど、それを企んだ者全てに対して復讐する。アンタも同じよね? 自分達を実験台にしたのは伊邪那能力開発局であるけれど、その施設ができるきっかけとなった国や国民に復讐しようとしている」

「そ……それは……」


 初めて動揺を見せた。

 暗殺者は俯き、頭を横に振った。


「スサノオ様が言ったんだ。これは復讐でもあり、世の中を良くするための創造的破壊だと」


『良いわ、二人とも。もっと時間を稼いで』


 インカム越しに真里お嬢様の声が聞こえた。


 ――今回の作戦は、単に雪乃と戦うだけではない。テロを止めるために二手に分かれていいる。


 地下インフラ爆破テロ事件は、奇しくも私が妄想したテロ計画と似ているものだった。

 進士とスマートシティデートで地下インフラの見学を行った時にした妄想だ。

 地下を動きに荷物を運ぶAIロボットに爆発物や毒物を運ばせれば、地下インフラで繋がる部分全てに甚大なダメージを与えることができるなと考えた。

 進士が撮影した計画書も同様のことが書いてあったのだ。


 だから、実行班を私と進士ペア、昴と藤間さんペアの二つに分けて動くことにした。

 どちらかが戦闘状態になった時、もう片方が地下インフラに設置された爆発物を無力化する。

 両方戦闘状態になった時――つまりスサノオも戦闘に加わった時は真里お嬢様と麗香が爆弾の対処に当たる。


 ――私の復讐も大事であるが、爆弾処理がまず第一優先である。


「スサノオスサノオって五月蠅いわね。自分の考えは無いわけ?」

「そんなものはない! 私は兵士として育てられた。与えられた任務を遂行するのみだ!」

「矛盾するよね。与えられた任務をこなすだけ? じゃあ復讐ってなんなのよ」

「それは……スサノオ様が言っていた! 国にダメージを与えることが復讐だと!」


 少し、憐れに思った。

 本当に、自分で考えるという環境を与えられなかったのだろう。

 まるで人形のように。いや……殺戮ロボットのように。


「俺も悩んだんだ。自分の頭で考えて考えて……だけど、無関係な人を巻き込むのは良くないと考えたんだ。復讐して被害を広げていけばいくほど、俺達のように悲しい想いを抱える人が増えていく。そんなこと……悲しいだけじゃないか」

「そう簡単に割り切れるものか! それはあの女――アマテラスが言ったことだろ? あの平和ボケした綺麗ごとばかりの偽善者は簡単にそんなことを言う。あの女は本当にむかつく……こんな私にも綺麗ごとばかり言ってきて……それなのに……」


 突然、頭を抱えて苦しそうに身体を捩りだした。


「そうだよ。アマテラスに教わったんだ。人としての幸せな生き方も。雪乃姉さんだってアマテラスのこと大好きだったじゃないか! 三人でよく一緒に過ごした。その時のことを覚えているでしょ!」

「ああ、覚えているさ! 覚えているとも! あの時は良かったよな。世界がどれほどクソかも全て理解していなかった。それに、分かっているだろう?」


 暗殺者は涙を流しながら、歪み狂った笑顔を見せながら言った。


「アマテラス――雫姉さんを殺したのは、私だ」


 ――パアン。


 私は無意識に銃の引き金を引いた。

 しかし、暗殺者は日本刀で弾き、銃弾を無力化させた。


「雫姉さんだと……? 今、そう言ったな?」

「そうだが……?」

「雫姉さんとは、乙羽雫(おとばねしずく)のことか?」

「なぜその名前を知っている?」


 この女が、私の姉も殺した……だと?

 ティアだけでなく、ずっと探していた大好きなお姉ちゃんさえ、私から奪っただと……?


「おい、答えろ! 何故貴様がアマテラスのことを知っている?」

「それは……」


 私は銃――M93Rを連射させながら突進した。

 そして、喉がはち切れんばかりに叫んだ。


「私の大好きなお姉ちゃんだからだああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」 

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