横殴りの雨が吹きすさぶように。
無数の銃弾が敵に襲い掛かる。
銃弾一発一発が殺意の感情を持ち、発砲した者の想いを忠実に汲むかのように敵へと襲い掛かる。
「殺してやる! ティアのみならず、お姉ちゃんさえも!」
「お前こそ何者だ!」
もう訳が分からない。
なぜ、自分大切な人が皆奪われていくのか?
私、何か悪い事した?
なんでこんな仕打ちを受けなくてはならないの?
怒り、殺意、悲しみ、憎し……あらゆる負の感情を込めて引き金を引く。
ハーブの香りにより、知覚能力、思考スピードが上昇している。
スローモーションで動く世界の中で、正確に相手へと向かって銃弾を撃ち込んでいく。
しかし、敵も驚異的な動きを見せている。
日本刀でこちらの銃弾を切ったり逸らしたり、全て正確に攻撃を防いでいる。
――カチ! カチ!
クソ! 弾切れか!
そう思った瞬間、暗殺者の雪乃はこちらに急接近し、日本刀を振り下ろしてきた。
「美琴! 危ない!」
進士が黒く塗装された刀で応戦した。
この武器は真里お嬢様が作った武器である。
空港の時とは大違いだ。飛行機内に持ち込むために作られた強化プラスチック型のナイフではない、れっきとした武器。
――これなら、本来の進士の力を発揮することができる。
「ック! 無駄なことを! お前では私には勝てない!」
「俺だってあの時とは違う! それに今は――」
進士が突然、体勢を低くした。
これまで進士の身体で隠れていた雪乃の上半身が露となった。
――私は、この一瞬を見逃さない。
「喰らえ!」
マガジンを入れかえ、拳銃(M93R)のグリップを展開した。
そして強く握り込み、スイッチを三点バーストへと切り替えた。
――ダダダッ! ダダダッ! ダダダッ!
銃弾が三発ずつ発射された。
ハーブによって強化した知覚能力は正確に相手を狙い、正確な身体操作を可能にした。
「クソ! 生意気な! ッグ!」
銃弾が数発雪乃の胴体を捉えた。
しかし銃弾は貫通せず、出血も無かった。
忍者のような黒い戦闘スーツの中に来ていた防弾チョッキが彼女を守ったのであろう。
「はぁ……はぁ……こんな短期間に兵士の真似事ができるようになったとはな」
「兵士とかどうでも良い。お前達テロリストを殺せればそれで良い」
しばらく雪乃を無言で睨みあった。
そして、ゆっくりと雪乃は口を開いた。
「お前はテロリストと言って我々のことを貶めるが、もし……アマテラスが――雫姉様が日本の機関によって殺されたのだとしたらどうする?」
「はぁ? さっきと言っていることが違うじゃねえか」
この女は、先ほど自分で言っていた。
自分がおねえちゃんを殺した、と。
「正確には、私のせいで死んだんだ。私を守るために、雫姉様が身代わりになったんだ」
「は? ……雫お姉ちゃんが、アンタを守った?」
「そう……だ。我々別班特殊部隊第3課は、謀略により日本の敵になったんだ。きっと下らない内部抗争だったんだろう。裾野スマートシティで警備を行っている時、私達は他の特殊部隊に襲われたんだ。突然な」
「な……何を言って」
雪乃は大粒の涙を流した。
鼻と口を覆っていた黒いマスクも取り、鼻水を袖で拭いた。
「私は弱かった。研究施設を出てすぐに配属されたから、右も左も分からなかった。そんな状態なのに突然実戦投入され、突然他の部隊の先輩から襲われた。当然なすすべも無くやられた。だけど、そんな私を命懸けで助け、私の代わりに大量の銃弾を浴びたんだ……」
「これは……事実なの?」
恐る恐る進士のほうを見た。
進士はコクリと頷いた。
「そんな……じゃあ何……? 国がお姉ちゃんを殺した? どういうこと……? でもティアはテロリストに……」
私の頭は真っ白になった。
両手で頭を抱え、よろめいた。
「美琴! しっかり!」
「進士……」
進士の声で頭がゆっくりと回りだす。
しかし、同時に疑問が湧いてきた。
「ちょっと待って……進士は知っていたんでしょ? 進士にとって雫お姉ちゃんは大事な存在だったんでしょ? じゃあ――」
私は一度口を閉ざした。
言葉にする前に、一度脳内に留めて精査した。
でも……我慢することができなかった。
「なぜ復讐しなかったのよ!!!!!」
雪乃はニヤリと広角を上げた。
「そうだ……その通りだ! その女の言う通りだ! なぜ我々と共に復讐しないのだ!」
私の心の中はぐちゃぐちゃだ。
進むべき道も分からなくなってしまった。
だけど、奇妙にも、悔しくも……暗殺者の言葉の意味がよく分かる。
私の考えは雪乃の考えと同じである。
「よく見ればお前……雫姉様の面影があるな。本当に血縁者か……」
雪乃が銃を降ろし、表情を和らげた。
「そ……それは……」
雪乃に向けていた殺意が解けていく。
代わりに疑念の感情が固まっていく。
「ねえ、進士。答えて。なぜ雪乃達と一緒に復讐しないの?」
進士は目を瞑った。そして拳をぎゅっと握り、唇を噛みしめた。
「進士?」
「それは!」
進士が突然大声を出した。
そして私の目を見て、真剣な表情で言葉を紡いだ。
両目から雫を零しながら。
「雫姉さんが望まないから」
「……」
言い返せなかった。
確かに、雫お姉ちゃんならそう言うだろう。
そんな綺麗ごとを本気で信じ、大切にする。
「う……う……」
もう何もわからない。
もう……どうしたら。
「美琴危ない!」
急に進士にタックルされた。
私は地面に投げ出され、進士と抱き合う恰好になった。
先ほどまで私が居た場所を見ると、地面に数個穴が空いていた。
「だからお前は甘いんだ。だから良いように使われ、そして我々を裏切る中途半端な出来損ないに成り下がったのだ」
低い男性の声がする。
その男はこちらにゆっくりと近づいてくる。
「スサノオ……」
一連の事件の黒幕。
迷彩服を着た元日本最強の兵士。
その姿は、進士を今よりも大人にして、顎髭を生やしたようなものであった。