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第四十三話「挟撃の果てに」

「うおおおおおおおおおおおお!」

「はああああああああああああ!」


 私と進士による、上空と地上からの同時攻撃。

 窮地からの脱出と反撃を同時に実現する奇跡の攻撃。


 M93Rの3点バーストを連射して正確に弾幕を張る。

 祈りながら銃身と引き金を握る。


 雪乃を倒した絶対的な攻撃陣。

 こんなものを掻い潜れる人間など存在しない。

 物理的に不可能なのだから。


「くたばれえええええええええええええええ!」


 ――スサノオは人間ではなかった。


 鬼のような雄叫びを上げながら、上空と地上から降り注ぐ弾幕全てに対応した。

 左腕に装備していた盾を頭上に掲げて私の銃弾を受け止め、地上の弾幕は右手に持っていたアサルトライフル――20式(にいまるしき)小銃で撃ち返した。



 スサノオと進士の間で火花がはじけ飛ぶ。

 銃弾と銃弾がぶつかる激しい金属音が響き渡る。


 ――しかし、ここで挫折してはいけない。


 諦めずに引き金を引き続ける。

 そして身体が重力に引っ張られるのを感じ、身体を捻ってスピンする。

 斥力の渦を作り、着地の衝撃を逃がし、再び地面を蹴る。


「うおおおおおおおおおお!」


 先に進士がスサノオに接近した。

 反重力スケートシューズによって加速した身体を利用し、飛び蹴りで襲いかかる。


 しかし、スサノオは盾と20式小銃を地面に捨てると、迫りくる進士の足目掛けて右ストレートを放った。

 斥力をその身一つで受け止めながらの右ストレートによる逆襲。

 致命的な打撃を与えるはずだった飛び蹴りは拳一つで跳ね返えされ、進士の身体は元居た場所に吹き飛ばされた。 


「進士!」


 信じられない光景を目の当たりにするも、私は既に前に進んでしまった。

 今更引き返せない。

 進士の攻撃で隙が生じた際の二撃目を食らわせるために私は行動したのだ。


 ――しかし、隙など生じなかった。


「このおおおおおお!」


 私は空になったマガジンを取り出して、スサノオに投げつけた。

 反重力スケートシューズによって速度を重ねた投擲。

 高速で飛来する鉄の塊は、それだけで武器として機能するはずだ。


 しかし、スサノオが蠅を払うかのように右手を振り、マガジンを弾いた。

 その手にメリケンサックが握られているのが視界に入った。

 これで進士の蹴りを真正面から受けたのか……。


「ハーブよ……力を貸して!」


 祈るようにハーブを嗅ぐ。これは闘争本能を刺激するハーブ。

 強烈な臭いが私の怒りの感情を引き出す。

 そして、世界がゆっくりと動き出す。

 スローモーションの世界の中、マガジンをM93Rに装填する。

 最後に、左足で地面を蹴り加速する。  


「くらえええええええええええええええ!」


 スライディングの体勢で、低い場所から3点バーストを浴びせる。

 しかしスサノオは無駄な動きをせず、地面に落とした盾と20式小銃を拾った。

 そして私の銃撃を盾で防いだ。


 だけど、どうせ防がれると思っていた。

 スライディングの体勢から身体を捻りスピンする。

 そして盾に蹴りを入れた。


 私の蹴りによってスサノオの腕が上がる。しかし、すぐに銃口を向けてきた。


 ――だけど、信じている。

 私の相方を。


「美琴おおおおおおおおおおおお」


 進士が接近しながら発砲した銃弾によって20式小銃が弾かれた。


 ――ついに隙ができた!


「ネイルガン!」


 指のスイッチを押し、親指以外のすべての爪を発射した。

 毒が塗られた爪は、首元、手元とスサノオの肌が露出した部分へ飛んでいく。


 おねがい!

 この攻撃……通って!

 スローモーションの世界の中見守り、結果を待つ。

 爪がスサノオの皮膚を裂き、毒が体内に回り、その巨体が動きを止めるのを。


「いっけえええええええええええええええ!」


 ――しかし、信じられないことが起こった。


 スローモーションの世界のはずなのに、急にスサノオだけが速度を取り戻した。

 いや、正確には違う。

 スサノオが人間の領域を超えた速度で動き出した……?


「最速最強と呼ばれる意味を教えてやる」


 強烈な腐敗臭が先に襲いかかってきた。

 そしてすぐ、全身が恐怖で固まってしまうほどの殺気を浴びた。


「あ」


 その一瞬。

 恐怖で思考を止めてしまった瞬間に、私の目の前にスサノオの拳が現れた。


 ――今まで味わったことのない衝撃が私の顔面を襲う。


 何が起こったのかわからない。

 でも、考えろ! 痛くても考えろ考えろ考えろ!


 ――腹部に更なる衝撃が加わる。


「かはっ」 


 反重力を押しのけて、スサノオの拳が私の身体に襲い掛かかった。

 背中が地面に衝突し、衝撃で呼吸が奪われる。


 何でもいい。

 動け! 動け動け動け!


 死にもの狂いで左足で地面を蹴った。


 ――ボゴッ!


 冗談かと思うほどの音が聞こえた。

 スサノオの拳が地面を殴り、クレーターができていた。

 左足が動いて無かったら、あの時腹を貫かれて死んでいただろう。


 ――いや、ただ死ぬのをほんの少しだけ先送りしただけであった。


 もう、スサノオが目の前に迫っている。

 もう回避行動が取れない。


 右ストレートが私に放たれる。


 これで……終わるの?


「美琴おおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「進士……?」


 突然私の目の前に進士が現れ、スサノオの拳を弾いた。

 そしてスサノオと同じ速度で動き、左ストレート、右ミドルキックと攻撃を繰り出す。


 スサノオは一瞬驚いた顔を見せた。

 しかし、すぐに対応した。


 進士の攻撃を捌くと、左ジャブ、右ストレートを繰り出した。


 ――銃の攻撃速度を超えた身体による打撃。


 引き金を引き、雷管を刺激して火薬を爆発させる過程を経るよりも、殴った方が速い。

 そんな世界の法則を無視したかのような戦いが目の前で繰り広げられる。

 パンチ、キック、手刀、回し蹴り、ハイキック、ソバット、カーフキック……。

 あらゆる打撃技がぶつかり合う。


 お互いの皮膚が傷つき、血が飛ぶ。しかし、血の動きだけはスローモーションだ。

 まるで宇宙空間で戦っているかの様。

 重力から解放されたかのように、空中を揺蕩っている。


「美琴……逃げて……」

「進士!」


 とうとう限界が来てしまった。

 進士が血を吐き出し、スサノオの攻撃を弾いた後に左腕がだらりと垂れた。

 その隙をスサノオが見逃すはずもなく、スサノオの蹴りが進士を襲った。


 後方に飛ばされた進士の身体が私にぶつかってくる。

 しっかりと彼の身体を抱きしめるが、私に支える力は残っていない。

 二人で地面に投げ出された。


 ――ズキン!


 激しい頭痛が襲い掛かってきた。

 その後、無理して動かした筋肉の痛みも襲いかかる。


 そして世界が速度を取り戻した。


「終わりだ」


 スサノオが無表情で腰に携えた拳銃を抜き、銃口を私達に向けた。


 ――その瞬間、私達は何者かに覆いかぶさられた。


 ズドン、ズドン、ズドン。


 三発分の衝撃を感じた。

 あの時と……同じ……。


 血の臭いと共に、良く知った匂いを感じた。

 私達を命懸けで守ってくれた存在。

 私はその名を叫んだ。


「真里お嬢さまああああああああああああああああああああああ!」

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