【Imperfect Light】
私の口が発した言葉により、スサノオはまともに銃を扱えなくなった。
状況が……世界が変わった。
私がの目に映る世界も変わった。
――共感覚。
人の心の動きを匂いで感じ取っていた私。
色で心の動きを見ることはできなかったはずだ。
「はぁ……はぁ……騙したのか! そういうことだったのか!」
スサノオは私達から距離を取った。
「共感覚……感覚支配。その絶大な共感能力で相手の心を支配する力を持った存在……そんな存在……」
「心を支配するなんて誤解よ。言ったじゃない。心はこの世で唯一存在する絶対的なものだって」
「そんな話はもういい! 本当に……本当に君なのか?」
「さあ。私にもわからない。いや……私じゃないわ。この身体は美琴ちゃんのものよ」
「何を……何を……」
スサノオが大粒の涙を流した。
それを見た私の胸はチクリと痛みだした。
「兎に角、これで戦いはおしまい。皆元気良く、無事に家に帰ること!」
「残念ながら、そうはならない」
――パチン!
スサノオが指を鳴らすと、周囲の物陰から仮面をつけた白装束を纏った人間が大勢現れた。
そして、彼等が仮面を外すと全員進士と同じ顔をしていた。
「なるほど。研究室に居た子達を全員面倒見ているのね」
「そうだ! そして正しき世界へと変えるのだ!」
銃声が鳴った。
しかし、私の目の前に突然少女が現れ、刀で銃弾を弾いた。
「本当に……本当に姉さんなのですか?」
「それは自分で考えてほしいな。ただ、美琴ちゃんの身体であることは間違いないから」
「はい! 姉さん!」
何が起こっているのか分からない。
私の意志に反して身体が動き、どんどん状況が変わっていく。
それに……なんで……お姉ちゃんは……? お姉ちゃんなの……?
「多重人格になっているのか仕掛けは分からないが……とにかく、俺の心を支配して銃を使えなくしたとしても、引き金を引く指はいくつもある。この計画は止められない!」
「もしもーし。美琴? 聞こえる? こっちの仕事は終わったから」
「そう。ありがとう。昴ちゃん」
インカム越しに昴達が爆発物を全て撤去できたことを確認できた。
「今報告があったけど、地下インフラの仕掛けは全て取り除かれたみたいよ」
「……」
スサノオは沈黙した。
そして、都市中心部から楽器演奏の音が聞こえた。
セレモニーが無事に開催された。
「シンちゃん。その方の止血をして。はやく」
「う、うん!」
私の身体が再び動いた。
指で作ったピストルを上空に向けられる。
私達と取り囲む者達の心の色が見える。
そして、指先に白い光が集まっていく。
これは私……いや、私達にしか見えない光景。
そして、再び言葉が紡がれる。
【Imperfect Light】
指先に集結した光が大空に放たれた。
そして何本もの光の帯が白装束達に降り注いだ。
太陽が日光を降り注ぎ、恵みを与えるように。
共感覚の光が対象者の心を照らし、『想い』が伝達した。
「く……お前達……」
スサノオが悔しそうに歯噛みした。
白装束達は銃口を降ろし、棒立ちになった。
全員戦意を喪失した。
「これで終わりよ。もう、何も悲劇は起こらない」
「ふふふ……ふふふふはははははははははははは!」
突然、スサノオが大きな笑い声をあげた。
狂ったように。
しかし、発狂したわけではない。
この目が、スサノオの心に青く、冷静さを象徴する青い光が灯っているのを捉えている。
「こちらこそ偽っていたのだ。全て……全てだ!」
「……」
スサノオは上空を指さした。
「俺の真の目的は、日本……いや、日本を牛耳る悪の頭上に裁きの太陽を生み出すことだったのだ!」
――ゴオオオオオオオオオオオオオオオ!
スサノオが言い終えた瞬間、大きな地響きが聞こえてきた。
そして、上空に放たれた、白い矢のようなものが現れた。
「全て時間稼ぎだったのだ! お前達も時間稼ぎをしていたのだろう? 地下インフラ爆破テロ事件というおまけのようなテロ計画を阻止しようと汗をかいていただろう? それこそ時間稼ぎだったのだ!」
スサノオが満足そうな笑みを浮かべる。
「見ろ! 見るがいい! 欺瞞に満ちた世界には切り裂かれ、開闢の時が訪れる! なあ、貴様らは電磁パルス攻撃という言葉を知っているか? 上空で核爆弾を爆発させることによって、強力な電磁波を発生させることができる。この電磁派はあらゆる回路を焼き尽くす! はははははは……俺達が狙っていたのはバルクネシアの地下インフラではなく、日本全国のインフラだったのだ! つまり、あの白い矢のような物体は核ミサイルということだ! そうだ。日本上空に核兵器という太陽が出現した時、これまで醜い日本という存在は消え失せるのだ! ははははははははははははは!」
しかし、私の口が終わりを告げた。
「本当にそうかしら?」
「は?」
――その瞬間。
上空に稲妻が走った。
その後、赤い薔薇の形をした大きな炎が出現した。
薔薇の炎は核ミサイルを包み込んだ。
そして、爆発を起こすことなく消滅した。
何事も無かったかのように。
「そん……な……」
「人々の『守りたい』という心はあなたの想像以上に強いものよ」
――スサノオの野望は、打ち砕かれた。