地下インフラ内。
白装束を来た者達が彼方こちらで倒れている。
命を取るほどでも無かったようだ。ただただ一瞬で無力化され、意識を刈り取られた。
その証拠に、配置された場所から一歩も動けずに意識を奪われてしまったのだ。
全員とも。
「ねえ、昴。あの子はこの試練を乗り越えられるかしら?」
「んー大丈夫じゃない?」
この一方的な戦闘の勝者である二人の女性は、呑気に会話を楽しんでいた。
「なんか軽くない?」
「そう? 別にどちらでも良い」
「どちらでも良い?」
鈴谷昴と藤間凛は地下インフラ内に設置されていた爆弾の処理が終わっていた。
作戦開始から30分と経たずに。
二人で「ある情報」を待ちながら、柱を背もたれにして地下インフラ内で休息を取っている。
インカムとドローンから送られてくる美琴達の激闘映像をタブレットで観戦しながら。
「あの子は昴のお気に入りじゃなかったの?」
「いや、お気に入りだよ」
「だったら、なぜ?」
「別に、ボク達の世界に来なくてもいいじゃん。幸せに暮らせる環境があるのなら」
「そういうことね」
凛は納得したように頷いた。
『昴ちゃん。凛ちゃん。見つけたよ。待機場所の座標を送るね』
「りょーかい!」
美琴と繋がっているインカムのスイッチをオフにして答えた。
このリーダーからの知らせが昴達が待っていた情報であった。
「それにしても、相変わらず奏(かなで)の【神技(じんぎ)】は凄いね」
【Searchlight Love(サーチライト・ラブ)】
「求めるものを視ることができる力。その力があったから、今回のスサノオの真の計画を見破ることができた」
「いやいや。そうかもしれないけど、奏には奏、昴ちゃんには昴ちゃんのできることがそれぞれあるから。奏達……私達四人はそうやって力を合わせてきたじゃない」
「うん、そうだね。ボク達『別班特殊部隊 チームM』は最強さ」
「ほら、昴。早く目的地まで移動するよ」
「はいはい」
凛は昴を窘めて、真の作戦を開始させた。
◇◇◇
「うーん、良い場所だね。確かに、この場所なら見晴らし良いから『狙い撃てる』ね」
ここはバルクネシアタワーの最上階。
強風が吹きすさび、二人の金色と朱色の髪の毛がバサバサと舞っている。
「奏。ここでいいんだよね?」
『うん、昴ちゃん。そこでいいよ。それじゃあ……神器の使用を許可します』
リーダーの真広奏(まひろかなで)の認証を受け、腰のベルトに携えた箱型のデバイスを外し、目の前に構えた。
「神器解放。タケミカヅチ」
デバイスは雷を纏いながら変形した。
そして大きな拳銃のような形へと姿を変えた。
拳銃に似て、拳銃ではないもの。
――拳銃型レールガン。
「タケミカヅチ、スナイプモード」
レールガンがさらに変形し、銃身が伸びた。
そして、昴は体中に電気を纏った。
バチバチと電流を迸らせ、神器へとエネルギーを充填していく。
鈴谷昴は神の領域に達するかの如く奇跡を操る。
その力は雷。
体内に電気を蓄え、自由に操ることができる。
放電することも、体内の電流を操り高速移動をすることもできる。
また、神器と一体化し、神の一撃の如き攻撃を行うこともできる。
『凛ちゃんも準備できてるかな?』
「うん、大丈夫」
『それじゃあ……神器の使用を許可します』
奏の認証を受け、凛も腰のベルトに携えたデバイスを外し、目の前に構えた。
「神器解放。カグツチ」
デバイスは炎を纏いながら変形した。
そしてデバイスは指輪と薔薇のドレス、帽子の形へと変形した。
凛は左手の薬指に指輪を嵌め、ドレスと帽子を身に纏った。
「昴、レールガンの弾を貸して」
「うん」
昴から渡されたのは鉛筆サイズの鉄の棒。
凛はそれを受け取ると強く握り、【祝詞(のりと)】を唱えた。
【Eternal Rose(エターナル・ローズ)】
凛は指輪に口づけをした。
すると、凛を囲むかのような大きな火柱が出現した。
この炎はあらゆるモノを燃焼する炎。
その力は、概念すらも燃やす。
やがて炎は凛の手のひらの上に集まり、一本の薔薇の形となった。
「纏え」
凛が唱えると、薔薇が鉄の棒へと吸い込まれていった。
そして棒に薔薇の絵のような紋様が浮かび上がった。
「はい、準備できたよ」
「ありがと! りんりん」
「任務中はりんりん呼びやめてって言ってるでしょ。バカ昴」
「えーケチ!」
昴は軽口を叩きながら、タケミカヅチへのエネルギー充填を完了させた。
そして、凛から受け取った鉄の棒をレールガンに装填した。
『昴ちゃん。カウントダウンするね。5……4……』
奏がカウントダウンを始めると、轟音と共に上空へ飛ぶ核ミサイルの姿が現れた。
昴はゴーグルを装着し、全神経を銃口に集中させた。
『3……2……』
昴は人差し指を引き金に当てた。
呼吸も止めた。
全てをこの一撃に込めるために。
『1……ゼロ!』
昴は【祝詞】を唱えた。
【HEADSHOT(ヘッドショット)】
引き金を引いた。
結果は一瞬。
雷が落ちたかのように鉄の棒は雷撃と共にミサイルに命中した。
「開華(かいか)せよ」
凛が上空に手を掲げ、指を開いた。
それに合わせ、薔薇の形をした大きな炎が出現した。
鉄の棒に込めた凛の力が開放されたのだ。
「消失」
凛がぎゅっと拳を握った。
開花した炎が閉じて核ミサイルを包み込む。
すると、核ミサイルの存在ごと燃焼させ、無へと還した。
爆発することも、放射性物質を巻くこともない。
ただ何も無かったかのように、塵一つ残さず消し去った。
『核ミサイル消失確認。お疲れ様。電磁パルス攻撃阻止に成功したよ』
「あー疲れた!」
昴は大の字になって寝転がった。
そして昴の下に近づいてくる人影を見上げながら声をかけた。
「キミもここに来てたんだ。お疲れ様!」
「……」
人影の主は能面を被っていた。声を発さずに身振り手振りで何か伝えようとしている。
「どうしたの?」
「……! ……!」
「ああ、喉を怪我しちゃったんだね。とはいえ、キミの力も凄いよね。死からも蘇ってしまうんだもん。イザナミちゃん」
「……ゴホ! ゴホ!」
イザナミと呼ばれた女性は能面をずらし、せき込んだ。
そして口から三発分の弾丸が吐き出されて床に落ち、カランカランと音を立てて転がった。