「さあ、もう終わりにして帰ろう」
項垂れてその場で立ち尽くすスサノオに言葉を紡ぐ私の口。
しかし、この街に居るのは私達だけではなかった。
バルクネシア軍が隊列をなし、私達に近づいてきた。
「確かに俺の計画は潰れた。しかし、この国からしたら、お前達の方がテロリストだ」
銃を一斉に構える音で包囲される。
ここまで来て、国の一大事を守ってあげたにも関わらず、私達が捕まることになってしまうのか?
「あら。そろそろ限界かも」
突然私の口が、ポツリと呟いた。
次の瞬間、足に力が入らなくなり、私はその場で座りこんでしまった。
「しず……美琴!」
困惑した表情を浮かべながら、進士は私に駆け寄り身体を支えてくれた。
「頑張ってね、美琴ちゃん」
「え? うん」
自分で独り言を言うかのように会話した。
もう、自分で口や身体を動かせるようになっている。
よろける足を鼓舞しながら……進士の肩を借りつつ立ち上がった。
「ふん。本当に詰めが甘いな。こんな素人同然のガキに邪魔されたと思うと腹が立つ。アマテラスだって――」
「きゃはははははははははは!」
突然、聞いたことも無い甲高い笑い声が聞こえてきた。
その声の主の方へ向くと、ギターを持った小柄な少女がニヤニヤしながら歩いてくる。
ピンク色のショートボブで、紅葉のヘアピンを着けている。
ギターは黒く、Xの形で変形している。メタルバンドでしか使わないような代物だ。
そんな禍々しいギターに似合わないような小動物系で可愛らしい顔立ちをしている。
浮かべている笑顔は邪悪だが。
「……誰だ?」
「きゃはは! この戦の真の勝利者――と言えばわかるかね」
少女が言い終えた瞬間、私と進士の身体が拘束された。
というか、私達を拘束してるものって……ギターの弦?
「勝利者? 何をふざけて――」
突然少女はギターを弾き出した。
よく見ると少女の黒を基調としたメタラー系の服はスピーカーとエフェクターが内臓されている。
この場でも周囲に居る人間に聞こえるほどのギター音をかき鳴らしてる。
メタルらしく凶悪に歪んだ音で奏でられるギターソロは背徳的で、神聖的だ。
「……貴様」
「ん? 気づいちゃった? さすがは元日本最強さん。そうだよ。この音でオメーらの能力は消させてもらったよ」
「何が望みだ?」
「こいつらの身柄」
少女は私達を指さした。
「あと、大人しく軍を帰らせて。オメーがあいつら仕切ってんだろ?」
「……わかった。しかし、お前は誰だ?」
「は? 言うわけねーだろ」
「……」
スサノオは無言で少女を睨むと、バルクネシア軍の下へと歩き出した。
そして白装束の兵士達もスサノオについていった。
――状況がわからない。
今回のテロ事件を阻止することができ、バルクネシア軍に捕まらずに済みそうだ。
だけど、私達は拘束されている。
それに、少女は私達の身柄を欲している?
どういうこと……?
「おい。これを見な」
「……社長!?」
少女はタブレットを見せてきた。
画面にはギターの弦で縛られ拘束された社長の姿が表示されていた。
「というわけで、今日からオメーらは狂歌(きょうか)の下僕な」
「きょ……キョウカ?」
「は? 名前だよ名前。狂歌って名前なの」
「はあ……狂歌さん」
私は少女にビンタされた。
「言っただろ? オメーは下僕だって。それなりの言葉遣いをしろ。それともアレか? 人間の言葉喋れねーなら『ワン』しか喋れねーようにしてやろうか?」
「……よろしくお願いいたします。狂歌様」
「チッ。はじめからそういう態度取れや」
少女に首根っこを掴まれ、至近距離で睨まれた。
そして私も睨み返した。
「きゃはははははは! この期に及んでそんな目をするのか。これから楽しみだなぁ」
――ドゴォ!
私の水落に少女の拳がめり込んだ。
たまらず私は床に倒れ込んだ。
「美琴!」
進士の声が聞こえたが、私の意識は暗闇へと引きずり込まれた。
そしてそのまま瞼も閉ざされ、暗黒の空間に捕らわれることとなった。
◇◇◇
「美琴! 美琴!」
名前を呼ばれながら身体を揺さぶられる。
――んん……私は寝てたのだろうか?
ゆっくりと目を開きながら状況を確認しようとする。
しかし、周囲は白く何もない部屋だ。
見たことも無い場所。
脳が混乱している。
記憶の整理をしようとも、空回りしている感じがする。
思考が静止したまま自分の名を呼び続けてきた進士の顔を見る。
「顔……洗ってきた方が良いと思う」
「……」
引き攣った顔をしながら進士に指刺された方向を見ると、洗面台が置かれた部屋を見つけた。
ドアが半開きになっており、中の様子を伺えた。
――ここはラブホテル?
洗面台へと足を進めながら記憶を辿る。
進士と二人で寝てたのだろうけど、拠点に帰ってきたのだろうか?
――いや、そういえば社長が狂歌と言う少女に拘束されていた。
ということは、もしかして……ここは狂歌が用意した場所!?
だんだんと記憶が蘇ってきた。
スサノオとの戦いの後、狂歌という少女が現れて私達を下僕扱いしてきた。
ということは……私達はここで監禁されているのだろうか?
これから私達は、どうなってしまうのか……?
私は考え事をしながら洗面台の鏡の前に立った。
「こりゃあ進士も顔を引きつらせるわけだ」
鏡に映った自分の顔は、めちゃくやに化粧が崩れていた。
泣いたり汗をかいたり、殴られたり出血したり……色々あったからな。
洗面台に置かれたメイク落としを手に取り、クリームを顔面に塗る。
スサノオに殴られた箇所に痛みを感じ、怒りの感情が湧いてくる。
「そういえば、私っていつ化粧したっけ?」
今まで進士達と一緒に生活をしてきたけど、化粧をした記憶が無かった。
化粧品の武器を持っているのに、本物の化粧品は持っていなかった。
なんで今頃そんなことを思いだしたのだろう?
疑問に思いながら水でメイク落としを洗い流し、タオルで水を拭った。
そして顔を上げて鏡を見た瞬間に絶句した。
「この顔……お姉ちゃんの顔じゃん……」