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第一部 エピローグ後編「狂いし歌」

「さあ、もう終わりにして帰ろう」


 項垂れてその場で立ち尽くすスサノオに言葉を紡ぐ私の口。


 しかし、この街に居るのは私達だけではなかった。

 バルクネシア軍が隊列をなし、私達に近づいてきた。


「確かに俺の計画は潰れた。しかし、この国からしたら、お前達の方がテロリストだ」


 銃を一斉に構える音で包囲される。

 ここまで来て、国の一大事を守ってあげたにも関わらず、私達が捕まることになってしまうのか?


「あら。そろそろ限界かも」


 突然私の口が、ポツリと呟いた。

 次の瞬間、足に力が入らなくなり、私はその場で座りこんでしまった。


「しず……美琴!」


 困惑した表情を浮かべながら、進士は私に駆け寄り身体を支えてくれた。


「頑張ってね、美琴ちゃん」

「え? うん」


 自分で独り言を言うかのように会話した。

 もう、自分で口や身体を動かせるようになっている。

 よろける足を鼓舞しながら……進士の肩を借りつつ立ち上がった。


「ふん。本当に詰めが甘いな。こんな素人同然のガキに邪魔されたと思うと腹が立つ。アマテラスだって――」


「きゃはははははははははは!」


 突然、聞いたことも無い甲高い笑い声が聞こえてきた。


 その声の主の方へ向くと、ギターを持った小柄な少女がニヤニヤしながら歩いてくる。

 ピンク色のショートボブで、紅葉のヘアピンを着けている。

 ギターは黒く、Xの形で変形している。メタルバンドでしか使わないような代物だ。

 そんな禍々しいギターに似合わないような小動物系で可愛らしい顔立ちをしている。

 浮かべている笑顔は邪悪だが。


「……誰だ?」

「きゃはは! この戦の真の勝利者――と言えばわかるかね」


 少女が言い終えた瞬間、私と進士の身体が拘束された。

 というか、私達を拘束してるものって……ギターの弦?


「勝利者? 何をふざけて――」


 突然少女はギターを弾き出した。

 よく見ると少女の黒を基調としたメタラー系の服はスピーカーとエフェクターが内臓されている。

 この場でも周囲に居る人間に聞こえるほどのギター音をかき鳴らしてる。


 メタルらしく凶悪に歪んだ音で奏でられるギターソロは背徳的で、神聖的だ。


「……貴様」

「ん? 気づいちゃった? さすがは元日本最強さん。そうだよ。この音でオメーらの能力は消させてもらったよ」

「何が望みだ?」

「こいつらの身柄」


 少女は私達を指さした。


「あと、大人しく軍を帰らせて。オメーがあいつら仕切ってんだろ?」

「……わかった。しかし、お前は誰だ?」

「は? 言うわけねーだろ」

「……」


 スサノオは無言で少女を睨むと、バルクネシア軍の下へと歩き出した。

 そして白装束の兵士達もスサノオについていった。


 ――状況がわからない。


 今回のテロ事件を阻止することができ、バルクネシア軍に捕まらずに済みそうだ。

 だけど、私達は拘束されている。

 それに、少女は私達の身柄を欲している?

 どういうこと……?


「おい。これを見な」

「……社長!?」


 少女はタブレットを見せてきた。

 画面にはギターの弦で縛られ拘束された社長の姿が表示されていた。


「というわけで、今日からオメーらは狂歌(きょうか)の下僕な」

「きょ……キョウカ?」

「は? 名前だよ名前。狂歌って名前なの」

「はあ……狂歌さん」


 私は少女にビンタされた。


「言っただろ? オメーは下僕だって。それなりの言葉遣いをしろ。それともアレか? 人間の言葉喋れねーなら『ワン』しか喋れねーようにしてやろうか?」

「……よろしくお願いいたします。狂歌様」

「チッ。はじめからそういう態度取れや」


 少女に首根っこを掴まれ、至近距離で睨まれた。

 そして私も睨み返した。


「きゃはははははは! この期に及んでそんな目をするのか。これから楽しみだなぁ」


 ――ドゴォ!


 私の水落に少女の拳がめり込んだ。

 たまらず私は床に倒れ込んだ。


「美琴!」


 進士の声が聞こえたが、私の意識は暗闇へと引きずり込まれた。

 そしてそのまま瞼も閉ざされ、暗黒の空間に捕らわれることとなった。


 ◇◇◇


「美琴! 美琴!」


 名前を呼ばれながら身体を揺さぶられる。


 ――んん……私は寝てたのだろうか?


 ゆっくりと目を開きながら状況を確認しようとする。

 しかし、周囲は白く何もない部屋だ。

 見たことも無い場所。


 脳が混乱している。

 記憶の整理をしようとも、空回りしている感じがする。

 思考が静止したまま自分の名を呼び続けてきた進士の顔を見る。


「顔……洗ってきた方が良いと思う」

「……」


 引き攣った顔をしながら進士に指刺された方向を見ると、洗面台が置かれた部屋を見つけた。

 ドアが半開きになっており、中の様子を伺えた。


 ――ここはラブホテル?


 洗面台へと足を進めながら記憶を辿る。

 進士と二人で寝てたのだろうけど、拠点に帰ってきたのだろうか?


 ――いや、そういえば社長が狂歌と言う少女に拘束されていた。


 ということは、もしかして……ここは狂歌が用意した場所!?

 だんだんと記憶が蘇ってきた。


 スサノオとの戦いの後、狂歌という少女が現れて私達を下僕扱いしてきた。

 ということは……私達はここで監禁されているのだろうか?

 これから私達は、どうなってしまうのか……? 


 私は考え事をしながら洗面台の鏡の前に立った。


「こりゃあ進士も顔を引きつらせるわけだ」


 鏡に映った自分の顔は、めちゃくやに化粧が崩れていた。

 泣いたり汗をかいたり、殴られたり出血したり……色々あったからな。


 洗面台に置かれたメイク落としを手に取り、クリームを顔面に塗る。

 スサノオに殴られた箇所に痛みを感じ、怒りの感情が湧いてくる。


「そういえば、私っていつ化粧したっけ?」


 今まで進士達と一緒に生活をしてきたけど、化粧をした記憶が無かった。

 化粧品の武器を持っているのに、本物の化粧品は持っていなかった。


 なんで今頃そんなことを思いだしたのだろう?


 疑問に思いながら水でメイク落としを洗い流し、タオルで水を拭った。

 そして顔を上げて鏡を見た瞬間に絶句した。


「この顔……お姉ちゃんの顔じゃん……」

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