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第五十四話「公安外事警察潜入作戦 前編」

 どれくらい時間が経ったのだろう。

 女性署員に「お待ちください」と言われてから結構時間が経った気がする。


 緊張する私の精神状態のせいで時間を長く感じているのだろうか?

 いや……そんなはずは。


 スマートフォンを見てみる。

 10分以上経過している……。


 え? なんで?

 まさかバレてる!?

 私がこれからすることを事前に察知しているのだろうか?


そんなはずは……。


「お待たせしました」


 扉が開かれた。

 目の前には男性警察官が立っていた。


「よろしくお願いいたします」

「こちらこそ」


 男性警察官に案内され部屋に入ってみる。


 ――全く書類が無い。


 全て片付けられており、一切の情報も置かれていない。


「失礼します」


 搬入業者とエンジニアも部屋に入り、機械の設置作業を始める。

 私も梱包作業を手伝いながら周囲の状況を確認する。


 監視カメラの位置とカメラから視覚になりそうな場所のチェックする。

 扉の場所や人が通りそうな場所、他に警察官は居ないか?

これから行う自分の行動に向けられる目がどのくらいあるのか。


 警察官はこの男性一人だけのようだ。

 なんか普通の中年くらいのおじさんだ。


「すみません、設置にお時間頂きまして」

「いえいえ、大丈夫ですよ」

「働いて長いんですか? 私は入社間もないのでまだ仕事が大変で……」

「そうなんですね。ちょうど私の娘と年齢が近そうなので微笑ましいです」

「そうなんですね! 娘さんがいらっしゃるんですね! でも私のお父さんよりも若く見える」

「誉め言葉ですか? いやいや、あなたみたいなお美しいお嬢さんだからお父様もかぞかしイケメンなのでしょうな! 私とは大違いで」

「そんなそんな」


 雑談で探りを入れてみるけれど、普通のおじさんに見える。

 いや……そもそも諜報関係の人は記憶に残りにくい人間ばかりだ。

 私の周りが特殊なだけで……というか昴も藤間さんも一目見たら忘れないような人間だ。

 やっぱ公安外事警察じゃなくて別の組織? ……別班とか。


「設置作業終わりました。サインをお願いします」

「はいはい、サインね」


 業者さんが機械の搬入を完了させてサインを求めてきた。

 それに対して警察官はサインに応じ、自分の名前を伝票に記入した。


 ――もしかしたら、この方は公安の人では無いかもしれない。


 公安外事警察の方々は日々スパイと戦っている。

 スパイに自分の情報を知られたら沢山の嫌がらせをされるらしい。


 住所なんか知られてしまったら、郵便受けに動物の死骸を入れられることもあるらしい。

 だから住所を知られないようにするために仕事から帰る時、わざわざ遠回りしたり、別の拠点で一泊してから帰るなどの足取りを消す作業を丁寧に行っている。


 ――いわゆる「消毒」だ。


 それなのに、この警察官の方は自分の家族の話をしたり、私や業者の前で堂々と自分の名前を書いていた。

 きっと、設置作業者のことを監視するために配置された普通の警官なのだろう。

 公安の方本人が設置立ち合いしたら顔とか身体つきがバレてしまうだろうし。


 私が扉の前で待たされている間に書類や人を移動させたのであろう。


「それではプリンタードライバーのインストールをさえて頂きます。パソコンをお借りしてもよろしいでしょうか?」

「はい。こちらにお願いします」


 案内された席に座り、パソコン操作を始めた。

 PCにCDを入れてドライバーを起動される。


「あの……インストール作業に興味があるんですか?」

「いやあ、ジロジロ見ていてごめんね。これも仕事なの。ほら……一応警察署だからセキュリティ強くしないといけないからさ」


 やはりきちんと監視されるか。

 それはそうだな。


 私は進士に合図を送ることにした。

 といっても、とても簡単なことだ。


「すみません、書類を鞄に入れるのを忘れてしまいまして。取りにいっても良いですか?」

「ああ、はい。どうぞ」


 私は一度警察署を出た。

 そして監視カメラの視覚に一度入り、少し待ってから警察署に戻った。


 そして部屋までの道中沢山の人とすれ違った。

 その中に紛れている進士とすれ違った。

 なにも言葉を交わさず、目も合わさず。メッセージのやり取りは必要ない。

 すれ違うこと自体がメッセージなのだから。


「すみません。持ってくること自体忘れてしまったみたいです」

「そうですか。忙しいと色々忘れてしまいますよね」


 警察官のおじさんに嘘の報告をして再びPCの前に座った。


 ――その直後、火災報知器が鳴った。


「え? え?」

「大丈夫です。落ち着いてください」

「……」


 署内は騒然としている。

 沢山の足音が聞こえる。

 火事の出どころや避難場所を探しているのだろう。


「大丈夫……なのですか?」

「ええ、大丈夫です。避難する時は無線で連絡が来ますから」


 ――まずい……計算が狂った!


 見張りの警察官が状況確認のために部屋を出るのを私達は期待していた。

 だけど、このおじさんは全く動かない。


 どうしよう。

 まずい。まずい。まずい。まずい。まずい。まずい。


 このままでは作戦失敗だ……。

 マジで作戦失敗したらどうなってしまうのか……。

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