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第五十六話「ジェムズ・シャイン」

「狂歌さん! 私達『ジェムズ・シャイン』に素人は要りません!」

「そうです! 私達のレッスンにもついていけずに文句ばかり!」

「私達先輩に対しても言葉遣いがなっていない!」


 三人のアイドル達は凄い剣幕で文句を言っている。

 というか麗香と雪乃は彼女達にどういう接し方ししたんだよ……。


「おいおい。まずは自己紹介しろ」

「そうですね……」


 アイドル達は居住まいを正した。

 そして自己紹介を始めた。


「疲れた夜は一緒にお酒! オタクに優しいギャルの~!」


「「「摩耶ちゃんです!」」」


 初めに摩耶と名乗った女性は身長高めの金髪ギャル。

 ウェーブがかったパーマとスタイルの良い体型がマッチしている。

 セクシーな魅力がしっかりと表現されているな。


「今日も皆でおはのんぬ~! ダンスが魅力の」


「「「寧々ちゃん! 寧々ちゃん!」」」


 寧々と名乗った子は前髪の一部をゴムで縛った女の子。

 髪は茶色がかったロングで小柄。

 背も体型も小ぶりだからとても可愛らしい。

 持って帰って家で飼いたくなる。


「この歌声を響かせる! 関西生まれのマーメイド」

「「「アオイや~!!!」」」


 ネコミミ型のヘッドフォンを着けたクールな印象の子。

 身長は私と同じくらいで、スレンダーな体型をしている。

 クールな見た目で関西風の喋り方が良い塩梅である。


 ――パチパチパチ。


 私は素直に拍手した。

 彼女達は狂歌の手の者らしが、真剣にアイドルをやっているようだ。

 裏稼業に携わっていない、フロント企業の活動をしている子達かもしれない。


「何余裕ぶっちゃって」

「素人同然」

「アイドルの世界ナメんな!」


 なんで初対面で可愛い子達にこんな言われ方しなきゃならないんだろう。

 泣きたくなってきた。



「まあ、落ち着け。今日連れてきた美琴は元々アイドルをやっていた。情報によると『ミス・ミッションインポッシブル』とか言われてたそうだ」


 その名前を紹介されるのは恥ずかしい。

 しかも私はアイドルとして活躍していない。

 変にハードルを上げるのはやめてほしい。


「ミス……インポッシブル? 映画の見過ぎじゃないですか?」


 金髪ギャルの摩耶ちゃん。私もそう思うよ。


「不可能を可能に? それならその素人二人を一瞬で立派なアイドルにするなんて不可能を可能にしてみなさいよ」


 小柄で可愛い寧々ちゃん。そういう無理難題言っちゃだめ。悪い子ね。


「ミッションインポッシブル? どうせアイドル活動じゃなくて、トラブル解決とか裏方仕事が長けてたっていうのが真実なんじゃないの?」


 クールな関西猫耳娘のアオイちゃん。なんで真実知っているの? 凄腕スパイなのかしら。


「どうする? 酷い言われようだな」

「……やればいいんでしょ?」


 ニヤニヤする狂歌。

 私は狐面に案内された更衣室でジャージに着替えた。


「……どうしたの?」

「……」


 こちらを見つめる狐面。

 私の問いに首を左右に振ると、部屋を出ていった。


「あの子が今のやり取りを見たらどう思うだろうか」


 そう思った瞬間、手が小さく震えだした。


「ふー……。ふー……」


 震える手を握りしめ、レッスン室に戻った。


 ◆◆◆


「さあ、腕前を見せてもらおうじゃないの」


 リーダー各なのだろうか?

 金髪ギャルの摩耶ちゃんが腕を組んでじっと見つめてくる。


「で、何をすればいいの?」

「この曲ならできるだろう?」


 狂歌は私の所属していた地下アイドルの曲を流した。


 それにしても……よく知っているわね。

 そんなマイナーな曲。

 私の事を調べ上げているんだろう。

 だとしたら本当は私の真実も……いや、それは今は良い。

 狂歌が言ったように、私は私だ。


 ――久しぶりの曲。元グループの最初に作られたオリジナル曲。


 久しぶりに踊るけれど、何故だろう。

 身体が軽くて、キレも出せる。

 歌声もレベルアップしている感じがする。


 恐らくこれまでの戦闘経験で肉体が強化されたのだろう。

 元々会得していたダンススキルと戦闘スキルが融合し、新たなキレを増したダンスを行えている気がする。


 摩耶ちゃん達も圧倒されているようだ。


 さて、一番のサビまではやりきった。次は二番を――。


 その時、狐面と目が合った。

 彼女は両手で握り拳を作り、私のパフォーマンスを応援してくれている。

 その様子が……。


「ティ……ア……」


 突然身体が鉛のように重くなり、その場で私は倒れ込んだ。


「美琴!」


 進士が駆け寄って私の身体を抱きしめて支えてくれた。

 しかし、自分の身体が乗っ取られたかのように自由がきかない。

 ガタガタと震え出し、胃の中にあったものを吐き出してしまった。

 昨日食べた肉の残骸がレッスン室の床にぶちまけられた。


「ティア……ティア……」


 ――気づいてしまった。


 私がアイドルをやりたいと思ったのはティアと一緒に立つステージだった。

 彼女がいないステージなんて。


 そんな場所でアイドルをやるくらいなら。


 ――ダンスができる身体も、歌が歌える声帯も全ていらない。


「美琴! 美琴!」

「おい、大丈夫なのかよ!」

「美琴。このハーブを吸いなさい!」


 みんな駆け寄ってくれたが、何も見えない。

 視界が闇に染まっている。


 そして深く……深く意識が「深海」の奥底に沈んでいく。

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