「あそこが人身売買が行われてる島か……」
私、進士、ヒナ姉の三人は外出許可を利用して人身売買が行われていると言われている島の近くの港に来ている。
海を隔てた先に島が見える。
現在は夜。
真っ暗な景色の中で薄っすらと島の形が不気味に浮かび上がっている。
「あそこまでドローンで運ぶっすよ」
「さすが真里お嬢様の弟子!」
「ステルス機能もバッチリ。相手からは我々の存在をキャッチできないっすよ」
ヒナ姉が目の前に三機のドローンを用意した。
「ヒナ姉も島に潜入するの?」
「もちろん。というかあんたらに戦闘力負けないし」
そう言いながらヒナ姉は銃を取り出すとマガジンを装填した。
「もしかして、ジェムズ・シャインは皆戦えるの?」
「うん」
そのまま答えてくれた。
もしかすると、彼女達は私達みたいに何等かの事情がある子を狂歌が拾って育成してきたのかもしれない。
皆「狂歌さん」と慕っている様子だし、彼女達にとっては恩人なのかも。
もちろん、私達にとっても恩人なのだけど。
最初の出会いの印象が悪くて、絶対に敵だと思っていたんだけどね。
「はい。これがあんたらの装備」
「……懐かしい」
渡されたポーチを広げて中を見ると、化粧品型スパイギアが入っていた。
どれも、真里お嬢様から渡されていたものと同じだ。
「もしかして、これらの武器はヒナ姉がデザインしたの?」
「違うよ。全部ママがデザインした。ママは自分よりもデザインセンスありますから」
やはり、真里お嬢様は美的センスに優れている。
「さあ、乗るっすよ。基本的にAIで設定してるっすけど、いざという時は自分で操作してくだいっす」
私達はドローンに乗り込んだ。
小型の飛行機のような形をしており、寝そべりながら操縦する形となっている。
両翼の翼と尾翼にプロペラがついている。
流線形の形をしており、ステルス機に近い形状をしている。
ステルス機はレーダーの波の反射を相手のセンサーに返さないようにするために、薄っぺらい流線形の形をしているらしいけれど、あの真里お嬢様の弟子のことだ。常人では計り知れない技術が盛り込まれているかもしれない。
「さあ、出発っす!」
私達はドローンに乗って海を越えた。
◆◆◆
「さあ、静かに移動するっす」
私達は黒い戦闘スーツに身を包み、闇夜に紛れて移動している。
眼鏡型のスパイギア「スパイグラス」を装着しており、ヒナ姉が収集した周囲の情報をリアルタイムで眼鏡ごしに確認することができる。
視界に右上に地図が表示され、人を赤点として表示している。
この情報収集は私達を運んだドローンが上空に留まり、私達に情報を届けてくれている。
(ここからは、脳内チャットで会話するっす。脳内に言葉を浮かべて見てください)
急にメガネ越しに文字が浮かび上がった。
左下がチャット欄になっており、そこに文字を入力できるようなウインドウが表示されている。
(どういうこと? って本当に念じるだけで文字が打ててる?)
何も言葉を発さなくても、文字をメガネの画面上に入力することができた。
(これは脳波をAIが読み取って文字に変換してるっす)
(何それ! その技術凄すぎでしょ! じゃあ、センサーを当てれば相手の脳波を読み取ることも可能なの?)
(強く念じないと難しいですね。まだそこまでは。理論上は可能っすけど。ところで、進士くんはさっきから黙ってるけど大丈夫っすか? 何か入力してみてください)
(美琴はいつもかわいい)
私は顔が真っ赤になり、叫んでしまいそうになった。
慌てて口元を覆ったけど。
(ちょtyとptyt!!! な、何を言ってるの!)
(いや、どうもうまくいかなくて。照れてる美琴はとてもかわいい。いや、ごめん。そういうんじゃなくて)
(なななななな! そういうのは後にして)
私達があたふたしてると、ヒナ姉が風呂かえってこちらを睨んできた。
(イチャイチャするな!)
◆◆◆
(こちらは今のところ問題無いわ)
(こちらも問題ないっす)
(こちらも)
私達は島の中を三手に分かれて探索することになった。
島の中は民家や様々な施設が設置されている、普通の田舎街という光景だ。
想像していたのは、完全な無人島に人身売買を行う施設が一件ドーンと佇んでいるというもの。
しかし、そのイメージとは違い、ごく普通の街並みで普通に島民も暮らしている様子だった。
だから、犯罪者達だけでなく島民にも見つからないように動かないといけない。
絶対に、ヒナ姉が用意した装備が無かったら、こんなに島内を動き回ることはできなかっただろう。
(皆に持たせたセンサーで会話内容を探ってくださいっす)
(了解)
ヒナ姉から小型のアンテナのようなスパイギアを渡された。
これは、向けた先の会話を盗聴するもの。
声や音の振動をキャッチして会話を盗み取るのだが、建物や障害物があっても問題無いらしい。
音は波。硬いモノでも振動は伝わるので、些細な振動でもキャッチすることができるようになっている。
(それにしても、この会話を盗聴する技術は凄いよね。些細な波を読み取るなんて)
(別にこの技術自体は珍しいものじゃないっすよ。覇を競ってる有名諜報機関は皆持ってる技術っす)
(これは常識的に知っておかなきゃならない技術だったんだ。これだけでもフィクションみたいな技術なのに)
テクノロジーの発展は凄まじすぎる。
現実なのかフィクションなのか時々分からなくなるわ。
(そうですな。科学技術の進歩はだんだんとって、美琴ちゃん。注意するっす! そちらに急接近する人間がいるっす!)
慌てて画面を見ると、こちらに向かって凄いスピードで近づいてくる赤い点がある。
人間が出せるような速度じゃない。
冷や汗をかきながら周囲を見渡すと、大きなゴミ箱があった。
(接触するっす!)
(あああああああああ!)
仕方が無いので、ゴミ箱の影に隠れた。
しかし、私に向かって近づいてくる人影は、完全に私の存在に気付いていた。
――カチャリ。
銃を向けられ、声を駆けられた。
「動くな」
「え?」
思わず声を出してしまった。
私に銃を向けている人物は、私が良く知っている人物だった。
「……昴?」
「美琴。どうしてここにいるの?」