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第六十七話「親友」

「ふーん。バルクネシアでの戦いの後に狂歌ってヒトに連れてかれたんだ。で、色々とスパイ活動や戦闘経験を積んできた、と」

「うん。というか、昴は狂歌のこと知らないの?」

「知らない。……本当に知らないな……」


 昴にこれまでのいきさつを簡単に説明した。

 眉間に皺を作って考え込む昴。

 彼女なら狂歌のことを知っているはずなのに……。


「それで、ここには狂歌ってやつが美琴達に集めさせた情報を頼りにこの場所にやってきたってことか」

「うん」


 私に対して警戒した様子を見せてくる昴。

 本当に何がこの場所で行われるんだ……?


「んー……本当に美琴はよくわからずに来たようなんだね」

「人身売買が行われてるっていう情報は掴んでるよ。何か取引が行われるから、その現場を押さえるってことなんじゃないの?」

「まぁ、間違いではないかな」


 含みのある言い方。

 そりゃあ、私達が情報収集したのは短期間だったし。

 私が知らない裏社会の深い部分に関わる事情もあると思うし。

 昴ほど知らなくても当然だな。


「とりあえず、これからずっとボクについてきて。勝手な動きされても困るし」

「……うん」


 昴の真剣な顔。

 ここは言う通りにしたほうが良さそうだ。


(ごめん、昴と一緒に行動することになった)


 進士とヒナ姉に情報を共有する。


(タケミカヅチ……鈴谷昴と知り合いだったんすね。どういう関係なんすか?)

(ん? タケミカヅチ?)

(気にしないで下さいっす。で、関係性は?)

(やけに食いつくね。昴は……親友だよ)

(ほう、親友ですか)


 自分で言ってて少し顔が赤くなった。


「何ニヤニヤしてんの?」

「いやぁ、昴と一緒にいると安心するなって思って」

「う……急にそんなこといわないでよ」

「いーじゃん。私は昴のこと親友だと思ってるもん。えい!」

「ちょっと! くっつかないでよ」


 昴の腕に抱き着いてみた。


(尊い)


 進士がなんかワケわかんないこと言ってる。


「まったく……この場所は危険なんだから気を張ってくれる?」

「そうだね。いつも余裕そうな昴がずっと警戒してるよね」

「わかってるならしっかりして」

「うん」


 昴と手を繋ぎながら、昴が目指す場所へ向かった。


 ◆◆◆


「何この施設……怖いんだけど」

「……」


 たどり着いた場所は古びた病院。

 長年使用されていない様子で、白い外壁に蔦が生い茂っている。

 闇夜にぼんやりと浮かぶ、くすんだ白い建物の姿が幽霊のようだ。


「変な匂いがする。気持ち悪い」


 吐き気がしてきた。

 腐敗臭や鼻をつく刺激臭。

 そこから、嫌悪感や、悲しみ、殺意、恨み……あらゆる負の感情を感じる。


「美琴。ここで待っていてもいいよ」

「いや。一緒にいくよ。あ、ちょっと待って。中に誰かいる」


 前に進もうとする昴の腕を掴んで静止させた。

 建物の中に赤い点が表示されている。

 上空のドローンがスパイグラスを通じて教えてくれている。


「ふうん。そんなことわかるんだ。良い装備持ってるじゃん」

「うん、まあね」


 一層険しい表情となる昴。

 こんな技術力を持ってるなんて、どの組織所属なんだ? って話になるよね。


「まあ、大丈夫だよ。味方だから」

「ということは藤間さん?」

「いや、違う」


 ――ギイ……。


 病院の扉が開かれた。

 すると、中から高身長の美女が出てきた。


「はぁい。あらあら、その子が美琴ちゃんなのかな?」

「ええ」


 私より10CMくらい身長が高い。ウェーブがかった薄茶色のロングヘアで、ほんわかした優しそうな顔立ちをしている。目鼻立ちがくっきりとした美人顔だが、目はぱっちりとしてタレ目ぎみ。唇はうすいピンク色で小さくて可愛い。胸も大きくてグラマラスな体型。


 とても包容力がある、優しくて可愛いお姉さんという感じの人だ。


「初めまして。乙葉帆波(おとはほなみ)です」

「こちらこそ初めまして。長谷川美琴です」

「昴ちゃんから色々話は聞いているよ」

「え? どんな?」

「うふふ。それはねぇ」


 意味深に微笑む帆波さん。


「ちょ、ちょっと待って。言わないでくれ」

「あらあら」


 珍しく慌てた様子を見せる昴。

 一体、私のことについて何と言っているのだろうか。


「あのね。『親友になれそうな子を見つけた』って言ってたよ」

「え? 私は昴のこと親友だと思ってるよ」

「ちょ、ななななな何言ってるの!」


 顔を真っ赤にして照れる昴。可愛い。


(やばい。尊すぎる)


 だから進士は何訳わかんないこと言ってんのよ。


「と……とにかく! 今は目の前のことに集中しよう。帆波、中の状況は?」

「中の『お掃除』は終わっているわよ。調査のお手伝いよろしくね」


 サラリと怖い事を言う帆波さん。


「あ、でも美琴ちゃんはそこで待っていてもいいよ。中に入らない方が良いと思うし」

「いえ、一緒に行きます。一応、覚悟してこの場所に来ているので」

「それならいいけど」


 帆波さんにも確認された。真剣な表情で。 

 しかし、私の言葉を聞いた帆波さんはニコリと笑顔を見せた。

 そして……扉を開いて、私達を中に引き入れた。


「ようこそ。地獄の入口へ」


 帆波さんの言葉通り、中に入った瞬間に地獄に踏み入れてしまったことを理解した。

 思わず、胃の中のものを吐き出してしまった。

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