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第六十九話「狂歌の潜入捜査」

<狂歌視点>


(ちゃんと姿を隠せているようだな)


 狂歌は音を操る能力により、自身の姿を認識できないようにしている。

 ギターの弦をはじき、周囲の人間の聴覚に働きかけるという神業を常時発動。

 すれ違う人間は皆狂歌に気付いていなかった。


 しかし、監視カメラには自分の姿が映ってしまう。

 だからこそ、ヒナから得られる情報が生命線になる。


 常時ヒナがこの島内で設置されている監視カメラ、センサー等の危機を探索し、分かり次第共有してくれているから、身を隠し続けることができている。


(しかし……問題はこの場所だ。ここはまだヒナの探索の手が及んでいない場所だろう。全く情報が記されていない。敵が集まっているこの場所まで行く間に見つかってしまうよな)


 ヒナの情報により、狂歌が自分で見つけることのできなかった場所に大勢の人間が集まっていることを確認した。高確率で、そこにバルクネシアの人間が居るであろう。


 そして人身売買や、この島で行われようとしている真の計画についても、やり取りされているだろう。


 狂歌は周囲の環境を確認しながら、目的地へと向かった。

 特に辺鄙な場所でも無く、島の中心地に近い場所だ。


(映画館? それにこのスパイ映画の最新作って……)


 マップが指し示す場所へ辿り着いた先に現れたのは大きな映画館。

 掲載されているポスターを見ても、現在も使用されているようだ。


(さしずめこの建物の中……もしくは地下にアジトがあると言うことだろう。しかし、どうしたものか)


 様々な選択肢が狂歌の脳内を駆け巡る。


 ヒナと合流して作戦を立てるか?

 島内に停電を起こして監視カメラを強制的に停止させるか?

 無理やり中に突入し、武力制圧するか?


 しかし、ヒナは切り札として取っておきたい。

 停電を起こしても予備電源が用意されているかもしれない。

 武力制圧するにしても、敵の兵力も把握できていないから無謀すぎる。


(どうするべきか……)


 狂歌は長考の末決断した。


 ◆◆◆


(まさか、こんな所で自分の小柄な体型に感謝することになるとはな)



 神器を解除し、身体一つで建物内に潜入することとなった。

 狂歌は事前準備無しに力圧しできるほどの武力を持っていないことを自覚しているため、更なる情報収集をすることを選んだ。


 また、ヒナと合流すればより安全な作戦を取ることができるかもしれないが、今回は柔軟性が最も活きてくる状況。不足の事態が起きた時にヒナと美琴達で状況を打破してもらう必要がある。


 戦力を分散させるため、ここは自分一人で動いた方が良いと判断したのであった。


(臭いな……)


 狂歌は排気口を狙った。

 建物の周囲を見渡した所、大きな換気扇が備え付けられているのを確認した。


(いつもはギターや機材類に使っているんだがな)


 狂歌はドライバーや六角レンチを取り出し、換気扇を外した。

 すると、目の前に身体を滑り込ませれるだけの鉄のトンネルが出現した。


(はァ……骨が折れる)


 狂歌は耳を澄ませ、排気口を叩いた。

 鉄のトンネル内に響き渡る音。

 そこから内部構造が脳内に形作られていく。


(そこか)


 目的地を見出した狂歌は、真っ暗な排気口トンネル内部を進んでいった。


 ◆◆◆


<ジェムズ・シャイン視点>


「狂歌さん大丈夫かな?」

「何だよ摩耶。あんな化け物に勝てるやつそうそう居ないだろ」


 胸を擦りながら呟く摩耶に、雪乃が声をかけた。


「そうなんだけどね……何だか胸騒ぎがするの。というか、偽物とはいえ雪乃はスサノオと一緒に過ごしていたんでしょ? 今回のことについて何か知らないの?」


「ああ。ただ命令に従うだけだったから全体的な作戦は共有されていない。……というか、狂歌さんに言われるまであの人がオリジナルのスサノオではないってことさえ知らなかったし」


 悔しいのか悲しいのか、よくわからないごちゃごちゃした感情に飲まれた雪乃は俯いた。


「まあ……仕方ないでしょう。ウチらだって知らない情報多いし、狂歌さんのことも全部知っているわけじゃない」


「そうかもしれないな。あ、そういえば……人を兵器化する日本を許してはいけないってことだけは共有されていたかな。それが皆の共通認識だった」


「日本という国がやっているのか、それとも日本の中に居る一分の人間達がやっているのかは大きく違うでしょ?」


「ああ、今になってみてそう思う。だから、自分の大切な人のために何かできることはないか考えるためにここに居るんだ」


「雪乃の言う『雫姉さん』って人のことね。私達にも関わることかもしれないし……そして何より」


 摩耶は雪乃の目の前に立ち、自分の両手で雪乃の手を握りしめた。


「今は大切なジェムズ・シャインのメンバー。仲間よ。抱えているものがあるなら、一緒に私達も抱えるから」

「へ?」


 雪乃は驚いた表情で、トマトのように顔面が赤くなった。


「麗華も同じよ」

「え?」


 麗華も同じように顔面を紅潮させた。


 そんな二人の様子をニヤニヤしながら見る摩耶、アオイ、寧々。


「何があっても、私達皆で乗り越えていきましょう!」


 円陣を組むジェムズ・シャイン。


 そんな様子を狐面の巫女は微笑ましそうに見守っていた。


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