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一二話 切歯扼腕 其之四

「詳しいことは俺も未だ知らんが、モエギ=みどりという魔法師の護衛という役割でヤナギとシャクナゲを潜り込ませる」

「モエギ=翠、ですか。知らない名前ですね」

築六つきろく家の当主と縁のある魔法師でな、魔法の解体や魔法障壁の展開を得意としている」

「…はぁ、誰か分かりました」

「察しが良いな!」

「それなりの付き合いなので」

「今回の件でそれなりの対価を支払わされたし、間違いなくモエギとモエギの護衛は現地入出来る。変な気を起こさず、牙を研いで待っていろ、いいな?」

「分かっていますよ。貴方が対価を支払ってしまったのなら尚更、…私は動けませんとも」

 負い目がヤナギの表情に現れ、「少し圧を掛けすぎたか…」とバツの悪い顔で目を逸らし、一度風景を眺める。

「ヤナギのさ」

「はい」

「仲間の墓は何処にあるんだ?」

「未だ。復讐を終えてから弔おうと」

「そうか。…なら墓参りには俺も同行するよ。知り合いってわけでもないが、なんとなくそうしてやりたいんだ。より良い天冥に昇れるようにさ」

「承知しました」

「そいじゃ、昼餉にでも―――悪い、緊急事態っぽいから後回しだ」

「なにかありましたか?」

「貨物魔導車が如何物に追われている、それもかなりの数に。空を飛べば限々援護が間に合う距離だから、ちょっと行ってくるわ」

「一人で大丈夫ですか?結構な数ですよ?」

「新装備があるから問題ない筈だ。…ヤナギは待っててくれ、俺は随分と腹が減っているんでな!」

「お気を付けて」

「おう!」

 自身の魔導二輪を銅脈者扉へ蔵い込んだモミジは姿を小翼竜へと変えて、勢いよく空を穿つ。

「道を踏み外さないよう気をかけないと、なんてタガヤと話していたのに。…私が諭されることになるとは、情けないものですね」

(…子供らしくない、というのは…褒め言葉にならなかった可能性が。言葉選びを間違えてしまいました…)


吹螺貝すいらばいの警報が壊れているのか?こんなになるなんてどういう、)

 目下の貨物魔導車の助手席から、男が身を乗り出し魔導銃で霰弾銃撃を行うのだが、弾数が少なく焼け石に水の状況。流石に手を貸さないと拙いと察したモミジは、低空飛行に切り替えて変身をしながら魔導二輪を銅脈者扉から出し、原動機に魔力を焚べる。

(行けたが、もうやりたくねえ!)

「おーい、そこの貨物車。ヤバそうなのを後ろに引っ連れてるけども、対処出来そうか?」

「無理です!もうお祈り中でして…って子供!?」

(やべ、変身する姿間違えたかも。まあいいや、今のコウヨウの顔見られても怠いし…丁度いい)

「子供で悪かったが増援だ、もう後ろを振り返らずに事故らない程度に全力で車を走らせろ。いいな」

「う、うっす。全力で走らせろって!」

「良くわからんが了解した!」

「へへ、いい子、いやいい大人だ!それじゃあ天下泰平の為、人助けといくか!」

 モミジは腰鞄に放り込んこんでいた魔晶を取り出し、器用に手首の魔導具に装着。

(さあ、どんだけのものか、見せてもらおうかクリサ)

「『龍装騎兵ドラゴニックドラグーン其始式マーク・プリミティブ造装顕現ぞうそうけんげん!』」

 問題なく起動できた魔導具はモミジの全身を赤黒い鱗で覆っていき、全身鎧を作り出せば、クリサが言っていたように、身体に合わせて適した大きさに調整されるようで問題なく着用できた。

 腰の銃嚢に納められていた魔導銃を銅脈者扉どうみゃくもんぴ経由で手に納め、乱雑に射撃を行って蹴散らしていく。

(片付けは冒険街の方でやるだろうから任せて、)

 魔導二輪を停車してから銅脈者扉にしまい、周囲を見回してから腰に針尾雨燕はりおあまつばめの柄へと手を置く。

「来ないならこっちから行くぜ、――――」


(偶然ではあったが助けられてよかった。…然しこの区域で警報もなしに如何物の群れが現れるとは…、とりあえず報告するか)

 モミジは戦闘を終えると、転がる如何物の死骸や魔晶を放置して、小翼竜に変身してから飛び上がっていく。

「大丈夫でしたか?」

「ああ、問題ねえ。ただまあ警報がぶっ壊れてるっぽいし、この付近からは離れた方が良いな」

「私は冒険者登録していますし、報告に行きましょうか?」

「大丈夫だろ、ほら」

 モミジが先程戦闘を行った場所を顎で差せば、冒険者達を乗せた輸送車両が駆けつけており、辺りの捜索や死骸の処理を行っている。

「変に目をつけられても面倒だからな」

「承知しました。ではお食事にしましょう」

「ああ」

 俵型のおむすびを受け取ったモミジは、目下の状況を伺いながらヤナギの弁当に舌鼓を打つ。


「如何物喰らいまで、これ程の数に対して警報が鳴らなかった事も不思議ですが…」

「ええ。運転手の話しでは魔導二輪に乗った少年一人が彼らを逃がしてくれたという」

「魔導二輪がなく、遺体もないのなら無事に切り抜けたのでしょうが、…冒険街に向かってきていないのは不思議ですね。態々折り返し、姿を眩ませる理由がありません」

「捜索は程々に、吹螺貝の交換と魔力の装填を行いましょうか。同じ事があれば、街に被害が出かねません」

「ですね」

 輸送車輌を運転していた冒険者組合の管轄魔法師たちは、冒険者たちからの情報を纏めつつ装備を固め、各地に設置されている吹螺貝の点検と交換、魔力の装填を行う。

「管轄の兄ちゃん、何処も一斉に壊されているみたいなんだが、これヤバいんじゃないか?」

「はい、ヤバいですね。凄く!」

「早急に作業を終えて撤退しないと」

 作為的な状況を見て、冒険者組合の面々は急ぎ作業を進める。

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