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第41話:レラの残したもの




「このトマト料理、濃厚で美味しい……」

「サーシャ夫人が立案なされました」

「さすがはサーシャ夫人、そして料理をした方々」

 そう言うと、うう、と料理人は泣き出しました。

「ど、どうしましたか?」

「前の奥方は俺達の料理を不味いとばかりいい、努力を嘲笑してきました」

「……」


 レラの事か。

 相当彼らを傷つけていたのだろう。

 レイオス様に近づけさせて貰えない事への恨み、レイオス様と結婚できない恨みから。


 でも仕方ない。

 貴方はティアさんを、レイオス様の大切な人の事を馬鹿にした。

 だから駄目なのです。

 まぁ、もう亡くなったそうですが。


「でも、サーシャ夫人は努力を認めてくださるでしょう?」

「はい! 駄目だしもありますが、改善策を教えてくださったり、依然とは比べものにならないくらい楽しいです!」

 料理人の方は嬉しそうに私にそう言ってきた。

「それは何よりです」


 そう言ってから、レイオス様とエドモン辺境伯様が庭の隅で話合いをしているのに気付きました、私は耳をそばだてます。



「レラの部屋で王宮魔導師が呪われる事件があった。それ以来あまり調査が進んでいないのだ」

「で、私に調査を依頼したいという訳か」

「勿論単独で調査はさせない、私もしよう」

「ならいい、サーシャ夫人は?」

「サーシャに何かあったら困る、だから今回の件の対処は私達に任せて欲しいと言っておいた」

「全く、レラは死んでも厄介事しか残さないな」

「すまぬ」

「お前を責めているのではない」



 と、会話をしておりました。


 レラ……あの女迷惑しかかけねぇなマジで。


「アイリス夫人」

「サーシャ夫人」

 サーシャ夫人が声をかけてくださいました。

「料理はお口に合いましたか?」

「ええ、どれも美味しくて……」

「それは良かったです」

 明るく笑っているように見えて、どこかくらい表情をしています。

「サーシャ夫人、何か悩み事でも?」

「え⁈」

「私で良ければ聞きますよ」

 そう言うと、サーシャ夫人は耳の側で、小声で喋られました。


「実は、姉のレラがしでかした事の調査が進んでいないのでエドモン様はそちらに時間を取られて……」

「夫婦の時間が減ってしまっている?」


 サーシャ夫人の言葉に、私は軽く頭痛がしました。

 エドモン辺境伯様、レラの対応の所為で夫婦の時間が削られているなんて。


 本当!

 忌々しい!

 サーシャ夫人とエドモン辺境伯様の邪魔を死んでからもするんじゃねーよ!

 生前だってしていたんだからな!


 と内心毒づくも、私はその解決策を持って居るわけではありません。

「レイオス様になんとかして貰いましょう、そういう話をしていた用ですから」

「ほ、本当ですか」

「ええ」

 私は微笑んで頷きます。

「アイリス」

「どうかしましたか、レイオス様」

「エドモン辺境伯の頼みでレラの部屋の調査を行うことになった、だからパーティが終わったらマリオンの所に移動するから、事態が解決するまでマリオンの所に泊まって欲しい」

「私は構いませんが、侯爵様と、スノウさんは?」

「二人も了承してくれた、流石に防御壁があるとはいえ君を私の家に一人にするのは危険だし、この屋敷にまだ君用の罠が残っているかもしれないと言われてな」

「畏まりました」

 レイオス様の申し出に頷きました。

 侯爵様の屋敷なら安心でしょうし、スノウさんの体調も見られる。

「アイリス夫人、姉が本当に申し訳ございません」

「サーシャさんが謝ることじゃないですよ」

 何度も頭を下げるサーシャ夫人に謝罪を止めるように言いました。

 しかし、サーシャ夫人は何か考えている様子です。

「でも、私は……」

「サーシャ、君には非は無い」

「貴方……」

「非は私達にある、だから謝罪をするのは私達だ」

「そんな……」

 まぁ、エドモン辺境伯様がちゃんと見張ってくれてなかったから起きた事案ですけど、たしかに。

 でもそれが無かったらサーシャ夫人とエドモン辺境伯様は結婚できなかった。


 なので、私は二人を責めるつもりはありません。


 責めるとしたらレラの奴です、あの女……余計なことしか残さねーのか!


 と内心憤っていました。

 そしてパーティが終わり、私とレイオス様は馬車で侯爵様の屋敷へと向かいました。


「やぁ、アイリスちゃん、いらっしゃい!」

「マリオン、しばらく頼むぞ」

「分かってる!」

「侯爵様、宜しくお願いします」

「勿論だよ、アイリスちゃん。レイオス、くれぐれも罠には気をつけろ」

「分かっている」

 レイオス様はそう言うと、姿を消しました。

「えっと確か……」

「?」

 侯爵様が馬車を漁ります。

「よしあった!」

 鞄を取り出します。

「それは?」

「君の着替え、何かあったとき用にしまっているんだよ。アイツ」

「……ティアさんと一緒の時の癖ですか?」

「そうだな、ティアがやっていたのをアイツが覚えた、そんな感じだよ」

 そう言って侯爵様は、鞄を持ち私を屋敷内に案内します。

「旦那様、一体どなたが──おお! アイリス伯爵夫人! これはようこそお越し下さいました!」

 執事の方はそう頭を下げました。

 私は歓迎されていることに首をかしげます。


「漸く、奥方様は待望の子を宿すことができたのは貴方様のお陰だと」

「あー、まぁ、そうですね」

 私はちょっと視線をそらしつつ、頷きます。

 褒められるのは慣れていません。

「どうなさったのです?」

「アイリス伯爵夫人は、母君が亡くなって以降の環境のせいで褒められ慣れていないのだ」

「おお、これは失礼しました……」

「いえ、いいんです。事実ですから」

「部屋の支度はできているな?」

「勿論です、こちらへ」

 案内されると、綺麗な部屋でした、とても。

「ゆっくり休んでくれ、用事があったらこれを鳴らしてくれればいいから」

 と小さな鐘を渡されました。

「じゃあ、夕飯になったら呼ぶよ」

 そう言われて私一人になりました。

 やることも無い一人の時間は駄目ですね。

 私は目を閉じ、眠りに落ちました──





 一方、エドモンの屋敷のレラの部屋では──

「これでトラップ100個目だ」

「あの女どれだけトラップをしかけているんだ!」

 トラップを外しながら悪態をつく二人。

「……おや、金庫がある」

「魔法で壊したら中身もおじゃんになるようだ」

「……ちまちまとやるか」

「いや、おそらくだが答えは──」

 レイオスは文字を打ち込んでいく。

「……開いたぞ」

「『レイオス愛してる』とはな、ストーカーにも程がある」

「ヤバそうな手紙等が大量に出て来たぞ」

「全部、アディスの所に持って行き、私達で読解するか」

「そうだな──」

 二人は手紙などを全て防護魔法停止魔法などをかけて保護してから持ち運んでいった──






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