侯爵様の屋敷から自分達の屋敷に帰って数時間後──
「お邪魔するわー!」
「帰っていただきたい」
レイオス様が王妃様にそう答えました。
「なによぉ、私はずっと待っていたのよ!」
「帰って来るのを、ですか?」
「そう!」
「侯爵様ではなく?」
「落ち着いたら行くわ、マリオンの家には」
「はぁ」
王妃様は私に抱きつき頬ずりをなさりました。
「もーレイオスはいつまで甲斐性無しなのかしら! 私は早くアイリスちゃんと貴方の子どもが見たいわ!」
「レイラ王妃、要件はそれではないでしょう?」
「ええそうよ、黒炎の一族の生き残り達の移住が完了したわ」
「そうですか……」
「会いたいと思わない?」
「いえ、彼らは私を恨んでいるでしょう」
「レイオス様……」
「まぁ、会いに行きたくなったらいけばいいわ。カイル侯爵の領地で皆暮らしているから」
「わかりました」
「それじゃあね!」
そう言って風のように去って行きました。
「レイオス様……」
私はレイオス様を抱きしめます。
レイオス様も抱きしめ返します。
「……今更、どんな顔をして会えばいい。居ない間に人よりだからと力を奪われた彼らと、今こうして暮らしている私が」
「……時間を重ねましょう、いつか、分かってくださいます」
「そうか……」
私はレイオス様にキスをし、レイオス様もキスを帰してくださいました。
不安はまだまだ尽きない。
でも、それでも歩み出すのが大事なのでしょう。
レイオス様。
私は貴方の枷にならず、共に歩む存在たり得ているでしょうか?
「今日はスノウ夫人と母子の検査と、メルト夫人の様子見か」
「いつもすみません……」
私はレイオス様に謝罪しました。
私一人では行けないからです。
「何、気にする事は無い。君は私の妻だ、妻のすることを応援するのも夫の役目だろう?」
「レイオス様……有り難うございます」
「では、行こうか」
「はい」
私は馬車にレイオス様と乗り、侯爵様のお屋敷へと向かいます。
馬車から降り、お屋敷の鐘を鳴らすと、侯爵様が出て来ました。
「アイリスちゃん、よく来てくれた! 医者もいるから一緒にスノウの状態把握と子どもの状態把握をしてくれ!」
「畏まりました」
私は侯爵様について行き、スノウさんの部屋に入りました。
中に入ると女性の医師が居ました。
「調合錬金術師の方ですね、ご協力お願い致します」
「はい」
私は頷き、スノウさんと双子ちゃんの様子を診察しました。
結果は、スノウさんは体調を再度崩した為、薬を処方し、卒乳までは飲み続けること。
また赤ちゃんにはある栄養素と、魔力が足りないため、その両方を補うシロップを処方し、卒乳まで毎日飲ませるように言いました。
スノウさんは、生命力や体力を削って子ども達に母乳をあげているので、栄養価の高い食事を食べさせるようにお願いしました。
量が少なくてもいいから、栄養価が高い食事、それをお願いしました。
と、いっても栄養面には疎いらしい料理長にいきなり作れというのは無理なので例えを書いた紙をだしました。
どんなものを作っているのかなど。
侯爵様にお仕えする料理長の方は地頭が良いので何度かこの例えを出していれば、自然に作れるようになるでしょう。
「アイリスさん、ごめんなさいね。産後まで迷惑をかけて……」
ベッドの上で顔色が少し悪いスノウさんが申し訳なさそうに謝罪成されました。
「産後に体調が悪くなるのはあることです、気にしないでください」
出産を乗り越えたのに、産後体調が悪化して死亡するのはありうる事だ。
それを薬で防げるなら私は薬を処方するだろう。
それに赤ちゃんも突然死がありうる。
それも薬で防げるならいいことだ。
その為に私はいる。
スノウさんの診察などを終えるとそのままメンフィス公爵様のお屋敷に向かいました。
「やぁ、アイリス夫人。待っていたとも、さぁ入ってくれ」
「有り難うございます、メンフィス公爵様」
「礼を言うのはこちらだよ」
メンフィス公爵様は微笑まれそう言うと、私をメルト夫人の元へ案内してくださいました。
「アイリス夫人、よくいらっしゃいました。こんな格好で申し訳ないわ」
「いえ、妊娠中なのですから、お体を大事にしてください」
マタニティドレスを纏って、少し歩いていたメルト夫人を、私はベッドに移動する手伝いをして、待機していた女性の医者の方と共に診察をします。
「両方とも男の子のようですね」
「まぁ」
「喜ばしいが、悩ましいな」
男の子が二人生まれるとなると、跡取りとしてどちらを選ぶかというある意味酷な問題が出て来ます。
「愚か者にならぬよう育てねばな」
「あなた?」
メルト夫人、メンフィス公爵様の言葉に冷たい視線と言葉を向けます。
メンフィス公爵様は少し動揺して。
「た、例えが悪いがルズ元子爵のような馬鹿が二人もいたらダメであろう⁈」
「あ、な、た?」
メルト夫人の周囲の空気が冷え込むような感じがしました。
いや事実そんな馬鹿が子どもにできたら苦労するから私はいいんですが、メルト夫人はそうでは無いご様子。
メンフィス公爵様のとがった耳を引っ張り。
「デリカシーのない発言は胎教に悪いからおやめになって!」
「いだだだ‼ す、すまない、本当にすまない‼」
「私だけではなく、アイリス夫人にも謝罪を‼」
「アイリス夫人、申し訳ない‼ あいだだだだだ‼」
「メルト夫人事実ですから気にしていませんので、そろそろ公爵様の耳をひっぱるのを止めてあげて下さい」
そう私が言うと、漸くメルト夫人は耳を引っ張るのを止めました。
「次言ったらハンマーで殴りますからね」
メルト夫人、強い。
「お腹の調子は大丈夫ですね、ただ激しい運動はしないように。それと──」
「出しているお薬も飲んでくださいね、この調子でいけば出産も軽いものですみそうですから」
「お二人とも、ありがとう」
「いいえ、奥様の体の調子を見るのが私の役目ですので」
「私はお手伝いが役目ですので、後薬の処方」
「本当、ありがとう」
メルト夫人のお礼の言葉に、心が少し温かくなりました。
その後、家に帰り、不定期的に行っている慎重と体重などの測定をしました。
「……また身長が伸びているね」
「……すみません、バストも少しばかり……」
「では、次の休みに買い換えに行こうか」
「……あの、成長止めてもいいんですよ?」
私は遠回しに契っても良い事を伝えました。
「言っただろう? 成長が終わったら、と。……でも君がそこまできにするようなら……あ、ダメだ、私が持たない」
そう言ってレイオス様は倒れました。
「レイオス様⁈」
「君の裸見たら私それだけで卒倒しそうだ、綺麗すぎて」
「……」
前途多難、と言う言葉が頭をよぎりました。
レイオス様と契るのは難題のようです、ティアさんが夢で苦労したというのがこうして自分の番になって理解できました。
ですが、レイオス様、私も貴方の裸を見る勇気はありません。
似た者同士ですね、私達──