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第57話:王室でのお茶会~王室調合錬金術師オーギュスト~



「うーん、メンフィス公爵もマリオン侯爵も両方とも赤ん坊がいるから呼べないわね」

 王宮の一室で王妃様はそんな事をお話されておりました。

「あ、あの、どうして私達が呼ばれたのですか?」

「そこが気になる」

 私の言葉にレイオス様も頷かれます。

「アディスに『お前は外出のしすぎだ、王妃の自覚はあるのか』とゼスティック爺やと共に説教されたから呼ぶことにしたのよ」

 王妃様は何でも無いようにお答えになります。

「は、はぁ……ん、ゼスティック?」

「貴方の護衛につけた魔族よ、私の爺や兼護衛で、王国の騎士団の長をやっているのよ」

「そ、そんな御方を私の護衛につけたんですか⁈」

 驚きのあまり大声を出してしまいました。

「アイリス、少し静かに」

「す、すみません」

 私は萎縮しました。

 何か申し訳なくて。

「すまない、アイリス、君をそこまで責めているつもりはないんだ」

「ごめんなさいね、アイリスちゃん」

「い、いえ……」

 王妃様は何名かの名前が書かれたリストを見ました。

「お茶会に呼べるのはエドモン伯爵、カイル侯爵、ガイアス公爵、リーゼン伯爵、それと、オーギュストくらいかしら」

「私が参加して不自然にならないのはそれ位だな」

「あの、オーギュストって……」

 私は聞き覚えのある名前について王妃様に問いかけます。

「調合錬金術師の最先端を行く男──その正体はアディスの実兄」

「参加してくれるでしょうか?」

「してくれるわよ、参加しなかったら機材ぶっ壊すって言えば」

「えええ……」

 私はそういう脅しは良くないよなぁと思いました。

「アイリス、レイラ王妃はこう言う奴だ、覚えておけ」

「ちょっとこう言う奴ってなによぉ!」

 王妃様はふて腐れました。

 でも、ちょっとお会いしてみたい欲があった。

 新しいものを調合錬金術で次々生み出していくかの有名なオーギュスト様、一体どんな御方なのでしょう。

 国王様と似ているのでしょうか?

「で、茶会はいつ?」

「来週の休日よ」

「そうか」

「ソレまでにアイリスちゃんのドレスちゃんと新調しなさいよ、結構窮屈そうなのを分かっているんだから」

「新調の依頼をしています」

「ならいいわ」

「では私達は帰らせて貰おう」

「ええ、アイリスちゃん。お茶会で会いましょう?」

「はい」

 私とレイオス様はそう言って王宮を後にしました。



 屋敷に帰ると、私にレイオス様の使い魔が近づいて来ました。

「ありがとう、仕立ててくれたのね」

 普段着用のドレスを受け取ると、自室に向かい着替えました。

 着心地がよく、きつくないドレスです。

 デザインはお母様のドレスを参考にさせて頂きました。

 お母様のドレスのサイズ違いですね。

 着心地がよく、それで普段使いに適したドレス。

 お母様のセンスの良さが分かります。


 着替えて、手入れをして、そしてレイオス様と食事を取ります。

「今日も美味しいです」

「そうなら良かった」

 レイオス様はスープを口にしてからそうおっしゃいました。





 そしてお茶会の日。

 新調が間に合ったドレスを着て、レイオス様と共に馬車に乗ります。

「楽しみですね」

「演じる必要がないのが楽だ」

「レイオス様ったら」

 私は可愛らしくてついクスクスと笑ってしまいました。

「そういう所、可愛らしいですよ」

「か、可愛らしい⁈」

 レイオス様は戸惑いの声を上げられました。

 そんな所も可愛らしいです。


 少しすると、王宮に到着し、招待状を見せると案内されました。

 中庭では既に他の方々が集まっていました。

 王妃様と国王様の姿はまだありませんでした。


「アイリス夫人、メンフィス公爵とマリオン侯爵の件を聞いたぞ。友人の悩みを解決してくれてありがとう」

 ガイアス公爵様にそう頭を下げられたので、私も慌てて頭を下げます。

「い、いえ、できる事をしただけです……」

「メンフィス公爵もマリオン侯爵も夫人達が子どもを望んでいたが二人の魔力が強大すぎて負荷がありすぎるとダメだしされたんだ。オーギュスト様は新しい薬作りに熱中して既存の薬は作ってくれないし、他の調合錬金術師では体に合わせた薬は作れない」

「……」

 オーギュスト様はどうして新しい薬作りに熱中しているのでしょうか?

 既存薬も作ってくれればいいのに。


「だーかーらー! 何で私が出ないといけないんだ!」

「毎日かび臭い研究室にこもられてアディスが心配しているのよ!」

「兄上、悪いがレイラの言う通りなのだ」


 声が聞こえました、国王様によく似た声の男性と国王様、王妃様の声が。


「皆、遅くなった、さぁお茶会を楽しもうでは無いか」


 国王様のその声で、皆さんお茶とお菓子を堪能し始めました。


「そう言えば、調合錬金術の本の最新版の、万能薬、簡略化して回復薬と蒸留水と、乙女の涙って書いていたけど、月の雫で代用できるんじゃないかなぁ」

 私はぽつりと呟きました。

「その通りだ!」

「⁈」

「オーギュスト殿、我が妻を驚かせないで頂きたい」

 突如私に近づいて来た国王様によく似た御方──オーギュスト様から私を守る用にレイオス様は立っています。

「レイオス‼ お前結婚したのか‼ いや、再婚したのか⁈」

 再婚とはティアさんと結婚をしようとしていた事を指しているのでしょう。

「まぁ、言いたいことは山ほどあるが、私はティアと結婚できなかったから再婚ではなく、まだ初婚だ」

「見覚えがある、顔だが……」

「エミリア夫人の娘だ、名をアイリスと──」

「エミリア! ああ、彼女か! 彼女の子どもなら確かにそうだ‼」

 オーギュスト様はうんうんと頷かれていました。

「私に意見したのは彼女位だった!」

「は、はぁ……」

「そして君は私に意見した! そのような人材を待っていた! 是非王宮で──」

「断固拒否する」

 レイオス様が顔を紅くして怒っていました。

「何故だ⁈」

「アイリスに悪い虫がつく」

「──ああ、なるほどそう言うことか」

 オーギュスト様は何かを感じ取ったようでした。

「王宮に来る際、暇があったら私の作った薬に意見をして欲しい!」

「ひ、暇がありましたら……」

 私は口ごもって答えました。

「オーギュスト? アイリスちゃんに迷惑をかけないの!」

「いでで! レイラ! 仮にも私は義兄だぞ!」

「そんな扱い求めてないからそれ相応の扱いしているのよ!」

 ぎゃーぎゃーと二人で言い合いをしているのを、国王様は額を抑えて疲れたようにため息をつきました。


 色々と大変なんだなぁと、少し黄昏れました──






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