「それにしても、あの二人が妊娠出産か……」
国王様とガイアス公爵様がお話をしていらっしゃる。
「感動ものだな」
「魔族と人で子どもを産む際、産む側が女性だと負担が大きいからな」
「契約結婚していてもそれは上手くできなかったが……」
国王様がこちらにやって来た。
「見ての通り兄はあんな魔族でな、新しい薬を作る、薬の改良にしか目が行かないから私達も制御不能なのだ」
「は、はぁ」
「そんな中、メルト夫人とスノウ夫人の要望を聞いて彼女らを身ごもらせ、そして子どもも産む事ができるようにしたのは素晴らしいと言える」
「あ、有り難うございます」
「何か欲しいものは無いか?」
「そうですね、もう少し必要素材が安く手に入るよう融通してくだされば、薬を流通させられるかと」
「わかったそうしよう、ところでオーギュストがやたら君を気にかけていたが……いや、気になっているようだったが」
「きっと薬作りで意見をくれる方がいなかったのでしょう」
「そうか、よかったらオーギュストと──」
「アディス陛下、それはやめて頂きたい」
レイオス様が会話に割って入ってきた。
「オーギュスト殿と万が一があってはいけない」
「ないと思うのだが……」
「やめておいた方がいいですわ、アディス陛下。話の相手が男性ならともかくお相手は女性、しかも契約未成立の、変な好意を抱いたら責任をとれますの?」
ミラ夫人の言葉に、国王様は唸った。
「そうよ、アディス。やめておいたほうがいいわ」
王妃様もミラ夫人の言葉に同意なされた。
「わかった、この話は無かったことに」
「感謝します、アディス陛下」
レイオスは私の手を握り、ガツガツと食事を取っているようなオーギュスト様とは距離を置きました。
「レイオス様、不安ですか?」
「ああ、不安だ。君が誰かの興味対象になるのも嫌だ。君の全てが私の物であってほしい」
「レイオス様……」
きっと色々あるのでしょう、この独占欲は。
契れない故の独占欲。
一度失ったから故の独占欲。
それから──
失いかけた事による独占欲。
色んな独占欲がある。
レイオス様、ご安心を。
私の髪も爪の先までも貴方の物です。
熱帯びた手をそっと握り返します。
レイオス様は少し驚いた表情をなさりましたが、すぐに穏やかな表情になり、微笑まれました。
「レイオスにはアイリスちゃんが居ないとね」
「そうだな」
王妃様と国王様は遠くでそんな事を呟かれていました。
「お茶会は終わりです。お土産を持って帰って下さい」
「次のお茶会は、できればスノウ夫人とメルト夫人も参加できるようにしたいわ」
「それには、準備が必要だろう」
王妃様と国王様はそんな話をして、従者の方がお土産を渡してくれました。
「あ、あのね、アイリスちゃんお願いがあるのだけど……」
王妃様はそう言って籠を二つ渡しました。
箱と果物が入っているものです。
「これをメンフィス公爵とマリオン侯爵に持って行って欲しいの、本当は出産祝いを持って行きたかったんだけど、アディスに行きすぎだから持って行くなって怒られて……」
王妃様、確かに訪問しすぎですよね。
取りあえず頷きながらレイオス様に言います。
「宜しいでしょうか?」
「ああ、構わない」
「本当にありがとう!」
王妃様は感激したようにおっしゃいました。
「では、私達も失礼しよう」
「はい」
私達のお土産を私が持ち、メンフィス公爵様と侯爵様へのお土産をレイオス様がお持ちになりました。
そして馬車に乗り込み移動します。
馬車に乗ると、最初はメンフィス公爵様の屋敷に着きました。
チャイムを鳴らし屋敷に入るとメンフィス様が出迎えてくださいました。
「おお、アイリス夫人、丁度良かった。我が子と我が妻の体調が良くなくて……」
「もっと早くに連絡を下さい!」
私は叱るように声をあげると、急いでメルト夫人の居る部屋へ向かいます。
症状はスノウさんとそのお子さん達と同じ物でした。
だから同じように魔力枯渇と特別な栄養補給でなんとかなりました。
良かった、レイオス様からマジックバックを持たせて貰えて。
「ご迷惑をおかけし、ごめんなさいね」
体調が良くなったメルト夫人はそう謝罪なされました。
「お気になさらないでください、この症状を予知できなかった私の責任です。この薬を毎日一回、こちらの薬を子ども達に一日一回、お願いします」
「ええ、ありがとう」
「だぁうー」
「あぶぅ」
「まだまだ小さいのと思ったのにもうこんなに大きく?」
「魔族の子は成長が早いのよ」
「なるほど」
私は納得する。
「だから果物は魔力補充とか栄養面を考えられているのでしょうか」
「果物?」
レイオス様がテーブルに果物と、箱を置きます。
「箱の中はフルーツの混合ジュースだ」
「レイラ殿下?」
「ああ」
「殿下には後でお礼をいわなくてはいけませんね」
と言ってから私の方をメルト夫人は視線を向けた。
「何かお礼としてできるものはあるかしら?」
「あの、良かったら調合錬金術の材料になるものを仕入れさせてくだされば……」
「ええ、それならいくらでも」
「構わないとも」
「有り難うございます」
「お礼を言うのはこちらですわ」
二人は頭を下げた。
そしてメンフィス公爵様の屋敷を私は後にした。
そして次に侯爵様の屋敷に向かいました。
「おお、アイリスちゃん。レイオス、どうしたんだ」
「今日のお茶会で王妃様から贈り物、とのことです」
「ちょっと見せてみ?」
「はい」
籠を渡すと布を取って一つ一つ確認していました。
そして、安堵の息を漏らします。
「これならスノウは食べられる」
「アレルギーとかあるのですか?」
と私は尋ねる。
「いや、魔力が濃すぎるとスノウは食べられないんだよ、でもこれは魔力控えめ、安く売られるが品質だけは保証される。アイリスちゃんも多分妊娠出産したらこっちの料理になるよ」
「はぁ……」
「まぁ、その前にレイオスがやることやらないとねー!」
「しばく‼」
「きゃー! 助けてー!」
侯爵様は芝居じみた声を上げてレイオス様と屋敷内で追いかけっこを始めました。
どうしようと思っていると──
「
静かな怒声が聞こえました。
スノウさんです。
私は声の聞こえた方に行くと、正座をさせられ、説教をされてる二人を見ました。
ちなみに御子様二人は侍女の方二名が、抱っこをしておりました。
「スノウさん?」
「ああ、アイリスさん、ありがとう王妃様のプレゼントを持ってきてくれて」
「いいえ、それより体調に不調は?」
「とてもいいわ、だから心配しないで」
「……」
「アイリスさん」
スノウさんは私を抱きしめました。
「?」
「何かあったら、いつでも相談乗りますからね」
「……はい」
私は静かに頷きました──