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第60話:祝福のお茶会



 しばらくは、メルト夫人とスノウさんの屋敷をうかがい、体調管理などを行っていました。

 その間も、私とレイオス様は自分達の意見を出し合っていました。

 大抵の事は丸くまとまるのですが、平行線なのが一つ。


 私と契る事です。


 契れば私の成長は止まるでしょう。

 ヒトとしての枠を超えるでしょう。

 そうすれば、伯父様達を見送る立場になるでしょう。

 それは、仕方ないことです。

 レイオス様が気にしているのは成長が止まってしまうこと。

 でも、私はそろそろ成長が止まる気がしているので、契っても良いと言っているのにしてくださらない事。

 これには少しばかりしょんぼりしてしまいます。


 でも、それ以外は、問題は何一つないのも事実。

 どうしましょう?


「レイオス様、王宮からお茶会の手紙が──」

「分かった」

 レイオス様は封を切って手紙に目を通します。

「リストに載っているのが、いつもの面々にマリオン夫妻と、メンフィス公爵夫妻がいる」

「え」

 生後八ヶ月のはず、メルト夫人の御子様は。

 大丈夫でしょうか?

「どうやら、王宮主催のメルト夫人とスノウ夫人の子どものお披露目会が目的のようだ」

「え」


 そういうのは個人でやるんじゃないのか?

 私がちょっとおかしいのかな?


「安心してくれ、普通は個人でやる。だが産まれが近いし、二人の子どもを見たいといういつもの面子の要望と、ちょっと外に出たいというスノウ夫人達の願望を叶えた結果だ」

「つまりお茶会の間は?」

「基本マリオンとメンフィス公爵が見ていることになる」

「大丈夫かなぁ?」


 色々と心配ではある。


 お茶会は一週間後だった。

 それまで、色々と準備をしつつスノウさんとメルト夫人を尋ね体調やお子さんの具合を見ていた。

 前日、問題無いと判断し最終的な許可を私と医師が出すとお二人は安堵の表情をしていらした。

 どうやら夫であるメンフィス公爵様と侯爵様が非常に過保護で息がつまるようだった、とのこと。

 まぁ、それは仕方ないと思います。

 待望の我が子と、体調が悪くなるかもしれない妻を心配しているのでしょう。


 お二人はそろって、

「愛されているのは分かるけど過保護過ぎると息がつまるわ」

 とのことでした。


 レイオス様も同じようになるのでしょうか?

 ちょっと心配です。





 そして迎えた当日、私とレイオス様は馬車に乗り王宮に向かいました。

 王宮は少ない人数とはいえ、賑わっていました。

「メルト夫人、御子息のお名前は?」

「私に似て金髪の子がレオン、夫に似て赤毛の子がルークですわ」

「わぁああ~可愛い、赤ちゃんを見るなんて久しぶりだわ!」

「スノウ夫人、銀髪の子が女の子で、金目の子が男の子かね?」

「ええ、リチアとフレンと名付けました」

「嫁さんに似て可愛いだろう~~!」

 侯爵様はちょっと素敵なお顔が勿体ない位でれ~~っとなっています。

 それ位我が子が可愛いのでしょう。

「アイリス、行っておいで、私はちょっと話をしてくるから」

「あ、はい」


 お茶会もまだ始まってないし、レイオス様の言う通りにしておこうと思いスノウさん達の会話に混じる。


「ごきげんよう、皆様」

「アイリスさん!」

「私共の救世主!」

「いや、そんな大げさな……」

 スノウさんとメルト夫人にそう言われますが、ミラ夫人が手を握りました。

「スノウ夫人とメルト夫人を安全に妊娠させたのは凄い事なのよ!」

「は、はぁ」

「ところで、お願いなのだけど、ガイアスがその気になるような薬は──」

「ミラ?」

 仏頂面が基本のガイアス公爵様がにこやかに笑っています。

 地味に怖い。


「何に不満があるのだ、ミラ?」

「だって貴方淡泊だもの、もう少しがっついて──」

「ほほう、それがお望みか、今晩腰が砕けぬよう覚悟して待っているといい」


 獣のような笑顔でガイアス公爵様はミラ夫人におっしゃっていました。


 教育に悪そうなのでそういう話は控えて欲しいです。

 いや、本当。

 赤ちゃんとはいえ、教育には悪そうなので。


「ガイアス? そういう話は夫人と二人きりでしようなぁ? 今の話アイリスちゃんが聞いていたのを知ったらレイオスの奴真っ赤になって怒鳴るぞ」

「……レイオスに黒焦げにされるのは勘弁だな」

「分かったらそういう話を乙女の前でしないようミラ夫人にも言っとけ、まだまだアイリスちゃん若いんだから俺等よりも遙かに」

 ガイアス公爵様は丁寧に頭を下げてミラ夫人の元へ向かわれました。


「アイリス、何かあったかい?」

「いいえ、レイオス様。何も」

「何もねぇよー」

「そうか……おい、マリオン。スノウ夫人が呼んでいるぞ」

「おっと、あんまり距離置いたら不味いな、んじゃ!」

 侯爵様はそう言ってスノウさんの所に走って行きました。

「もうそろそろお茶会がはじまるよ」

「はい」

 レイオス様の優しい声に私は頷きます。


「よく来てくれた、今日は祝いを兼ねている。スノウ伯爵夫人と、その子ども達。メルト公爵夫人とその子ども達を皆で祝福しよう!」

「そして祝いましょう!」


 祝福する、祝う。

 何かあるんでしょうか?


「アイリスおとぎ話を知っているかい」

「おとぎ話?」

「そう、子どもに祝福を与えるおとぎ話を」


 聞いた事がある。

 ある名家に生まれた女の子に魔法使い達が祝福を与えるお話だ。

 それと何が関係あるのでしょう。


「アディス陛下の言う祝福はそれだ」

「え?」


 私は驚く。

 結構すごい祝福を魔法使いから貰って居たからだ。

 美しい容姿、声、呪いを受けない等など色んな祝福を貰い、美しく賢く育った娘に多くの人が求婚するお話だ。


 私達はスノウ夫人とメルト夫人、そして子ども達に近寄る。


「この女の子は美しく育つように祝福しましょう」

 王妃様がそう言うと、キラキラとしたものが女の赤ちゃんを包み込む。

 それから次から次へと四人の赤ちゃんに祝福がされていく。


「おい、レイオス。お前も祝福しろよ!」

「私は火から身を守る祝福くらいしかできんぞ?」

「それだけで充分だって!」


 侯爵様に言われ、レイオス様は渋々子ども達に近づきました。

 他の方々の様な祝福ができないから引っ込んでいたのでしょう。


「この子ども等に、火から身を守る祝福を……」


 炎が手からこぼれ、キラキラとした光りになり子ども達を包みました。


「さて、祝福も終わったし、お祝いよ!」

 そう言ってお茶会が始まりました。

 私はマカロンを頬張りながら、スノウ夫人とメルト夫人、そして子ども達を見ていました。

「ありがとう、アイリスちゃん」

「ありがとうございます、アイリス夫人」

「いえ、私は……」

「我が子を抱っこするというのはこれほど素敵なものなんですね」

「ええ、本当に……」

「それなら、良かったです」

 嬉しそうなお二人の顔に私は安堵しました。

「どうか何かあったら頼ってくださいね」

「ええ、相談してくださいね」

「はい」

 レイオス様とは違う意味で頼りになる方々ができて本当に嬉しかったです──






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