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第2章〜映文研には手を出すな〜⑩

 カメラケースから取り出したデジタルカメラの電源を入れ、撮影の準備を整えた寿太郎じゅたろうはモニターを確認しながら、学習机の前の椅子に腰掛けた被写体のクラスメートに声をかける。


「準備できた! カメラが回ってるから……って、いまさら瓦木さんは緊張しないと思うけど……答えたくない質問はスルーしてくれて良いから! なるべく、リラックスして答えてくれたら、と思う」


 呼びかけに、笑みを浮かべながら余裕の表情で、ウンウンと、うなずく彼女のようすを確認した彼は、録画開始のボタンを押し、ナレーションを入れる。


 ――――――それでは、映像文化研究会と有志による合同企画、瓦木亜矢プレゼンツ『深津寿太郎・改造計画』の発案者にして、《ミンスタグラム》でも絶大な支持を得ている瓦木亜矢さんに、インタビューをして行きたいと思います。まず、今回の企画を思いついたキッカケを教えて。


「そうだな〜。これは、友だちのふたりにも話したんだけど……美容やスキンケアの内容って、なかなか男性の視聴者を獲得するのって難しいんだ。そこで、校内のの男子生徒に協力してもらったら、多くの人に興味を持ってもらえるんじゃないかって、考えたの?」


 ――――――なるほど……でも、今回の『改造計画』の対象になっている人物は、学校内でも、かなり冴えない、イケてないヤツだと思うんだけど……その点について、不安はなかった?


って、自覚はあるんだ(笑)まぁ、ハードルは高ければ高いほど、やり甲斐がいはあるしね……自分のプロデュース能力を試せる良い機会だと思ってる。『改造計画』の対象のヒトも、こちらの支持を素直に受け入れてくれてるしね! は……」


 ――――――今日で、全体日程の第1フェーズが終了したわけだけど……現時点での手応えは、どんな感じ?


「自分でも、結構、手応えを感じてるよ? 肌もサッパリしていると思うし、眉を整えるだけでも、かなり顔の印象が変わるってことは、本人も感じてるんじゃない? その辺りはどう?」


 ――――――たしかに、自分でも、かなりイメージが変わった気がする……イメチェンって、こんな感じなのかな、って……


「そう感じてもらえるなら、プロデューサー冥利に尽きるな〜。この企画を始めて良かったと思う! た・だ・し、イメチェンの対象人物が、調子に乗って、だいじな友だちに手を出したりしなければ、だけどね? オトコって、ちょっと、自分がイケてると思ったら、すぐに調子に乗るよね? ホント、どうして、こうなんだろ?」


 ――――――そ、それに関しては、大いに反省しているし、あらためて、ご本人にも謝罪するので勘弁してほしい……それじゃ、こっちからも、質問をさせてもらおう。瓦木さんは、先月末、プライベートでショッキングなことがあったと思うんだけど、今回の企画に前向きに取り組んでくれているのは、どうして?


「あぁ、あのことね……そりゃ、カメラの前で、あんな失態をさらしてしまったのは、ショックだったけど……いつまでも、落ち込んでいられないしね〜。健気に、明るく、前向きに! 物語の最初に婚約破棄される系の小説やマンガの主人公って、みんなそうでしょ?」


 ――――――あ〜、異世界恋愛ってジャンルだっけ? 自分も詳しいわけじゃないけど……たしかに、そんな印象はあるかな? 瓦木さんが、そういう小説とかマンガを読むなんて、意外だった。じゃあ、ここからは、趣味や普段の学校生活について、聞かせてもらおうかな? 学校で好きな科目とか得意な科目はある? 机のカバーの下に挟んでるのって、この前の古典のテストだよね?


「これはね〜、フフッ……赤点を期待したでしょ? ジャ〜ン、なんと、100点なんだな、コレが!」


 ――――――ピースサイン付きのドヤ顔を披露してくれて、ありがとう……古典の科目、得意なんだ? クラスでは、あんまり勉強の話しをしてるイメージはないけど……


「う〜ん、得意というよりは、好きな科目って感じかな? 古典の岡本先生が話してくれる故事成語のエピソードとか、好きなんだ! 難しいフレーズのように感じるけど、言葉の成り立ちは、人間くさいお話しが多かったりするし……」


 ――――――それは、わかる! 岡もっちゃん(編集注:岡本先生のことです)の話って面白いもんな! 自分も三国志とか好きだから興味深く聞けるって言うか……瓦木さんは、そういうことを学校の友だちと話したり、ネットの配信で語ったりはしないの?


「友だちと話したり、配信でこういう話題を出すことはないな〜。みんな勉強のこととかは話題にしないでしょ? あんまり、カワイイ感じじゃないしね……(苦笑)」


 ――――――可愛いとか、可愛くないとか関係ないと思うけど……(笑)? あと、もうすぐ、三日月祭みかづきさいの時期だよね? 『学院アワード』に向けて意気込みを聞かせて。


「自分の方は、があったから、どうなるかな、って不安もある。でも、いまは、自分のことよりも、クラスの冴えないを磨き上げることの方が大事かな? 期待に応えてよ、深津寿太郎くん」


 ――――――ん、善処する…………でも、どうして、瓦木さんは、そんなに『学院アワード』の投票や、SNSでのライブ配信にこだわるの?


「それはね――――――」


 亜矢が、学習机の上に置かれた家族写真と思われるスタンドに視線を送りながら、答えようとしたしたとき、玄関のドアが閉まる音とともに、廊下の方から、


「亜矢〜、誰かお友だちが来てるの〜?」


という声が聞こえてきた。

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