ふにふにと柔らかい唇を触られたサリーは眉間にシワを寄せた。
「触り方が
「その可愛い口が俺以外の男の話をするのが嫌だなって思ってさ」
爽やかな笑顔を見せたモーリスは、今にも噛みつきそうなサリーから指を放した。
「……そうやって、何人の女を口説いたんだか」
「お前だけだよ」
「嘘ばっかり」
げんなりとした顔をしたサリーが、さらに一言二言、何か言い返そうと口を開いた時だった。「サリーさん」と声をかけられ、動きを止めた。
振り返ると、そこに清楚なワンピース姿の女性が立っていた。
「お待たせしてしまいましたか?」
「大丈夫よ。座って」
「失礼します。えっと……」
「彼はモーリス・ロニー。同じ部署なの。モーリス、彼女が前に話した清良ちゃんよ」
「初めまして。サリーから話は聞いています。ご婚約をされたそうで、おめでとうございます」
立ち上がったモーリスは手を差し伸べて握手を求めた。その時、ほんの一瞬だが、清良の表情が曇ったのを彼は見逃さなかった。
握手を交わした後、モーリスたちが肩を並べるソファーの向かいに腰を下ろした清良は、改めて頭を下げる。
「今日は本当に、ありがとうございます。少ないお休みの日に無理を言ってしまって」
「気にしないで。清良ちゃんの為なら、あたし、いくらでも休みをもぎ取ってくるわよ」
「俺の為にも、そうして欲しいとこだな」
「あなたが清良ちゃんくらい可愛かったらね」
「俺に女ものの服を着る趣味はないんだが」
「そういうことを言ってるんじゃないんだけど」
飾り気のない彼らの会話に安堵したのか、清良は肩の力を抜いて笑顔を見せた。
丁度、店員が注文を受けに来た。
清良はメニューブックを見ずに「同じものをお願いします」と注文しすると、向かいの二人に、少し羨ましそうな眼差しを送った。
「お二人は仲が良いんですね」
「付き合いはそれこそ産院からだから、腐れ縁ってやつよ」
「そこは運命って言ってほしいな。生まれた日までも同じなんて奇跡だろう?」
「ただの偶然でしょ。あなたの頭の中って、軍人になってもお花畑ね」
二人のやり取りを微笑ましく思ったのか、目を細めた清良は口許を緩めて笑った。
「ふふっ。サリーさんって、ツンデレだったんですね」
突然の発言に、二人は口をそろえて「はい?」と言って彼女を振り返った。モーリスは心底驚いた顔で、サリーはばつが悪そうに顔を赤らめて。
そのタイミングの良さに、清良は零れそうになる笑い声を必死に堪えた。
「一年ちょっと前ですけど、モーリスさんがアサゴに来るって、私に話してくれた時のサリーさんの嬉しそうな顔──」
「ちょっ、清良ちゃん、そんなことは良いから!」
「へぇ……初耳だな」
「こら、顔が近い!」
にやにやと笑ったモーリスが顔を近づけると、サリーは力いっぱいその頬を手で押し返した。
「ちょっと、そのにやけ顔やめなさい」
「日頃つれない態度のお前が、外ではデレてくれてるかと思うと、そりゃぁな」
「デレてないし!」
誰が見ても仲睦まじい様子を眺め、清良は小さく息をつく。
「お二人は幼馴染みだって聞いてましたが、本当に仲が良くて……」
耳を赤く染めるサリーの様子に微笑みながらも、浮かない声で「羨ましいです」と消えそうなほど小さく呟いた。
清良の目が、
ちらりとサリーと視線を交わす。
二人は、ここが染野慎士の話に繋げるタイミングだろうと悟った。