サリーの苦しげな様子を見ながらも、モーリスは話を進めることにした。
真実は染野慎士に語らせなければ分からないが、今出来ることは考えられるケースを洗い出すこと。仕組まれた恋愛劇であるなら、何かしら裏の背景が潜んでいるはずだ。それを探る手立てを考えるにも、最悪と思えるケースを検討する必要がある。
「俺の推測通り、暴漢が仕組まれたことだとしよう。仮に、染野慎士が思いを寄せて彼女と結婚したいと考えているなら、そんなことをする必要があるのか?」
「だから、清良ちゃんは幼馴染のケイが好きだから、強硬手段を……」
サリーも言いながら違和感に気づいたのだろう。眉間にしわをさらに濃くして首を
深く息を吐き、モーリスは彼を真っ直ぐ見る。
「本気で好きなら、急ぐ必要が本当にあったのか。それに……俺だったら、好きな奴を泣かせるようなことはしない」
例え恋の駆け引きが必要だったとしても、それは時間をかけて行い、相手の心を自分に向けさせるものだ。染野慎士のやっていることは、手段を択ばないにもほどがある。非常識極まりない手なのだ。
それならば、彼の行動は恋愛によるものではないと考える方が自然ではないか。
「染野慎士がケイを知っているなら、強硬手段にでた可能性も捨てきれない。だけど、彼女の口ぶりはそうじゃなかっただろう?」
「……確かに、
「そうだ。少なくとも彼女は、染野慎士がケイを知らないと思ってる」
「慎士はすでにケイを知っていて、清良ちゃんが打ち明けるのを待ってる、とか?」
「あいつはそんな紳士か? だとしても、どうやってケイのことを知った? 接点なんてないだろう。ケイは春にアサゴに入った。染野慎士は基地を出入りしていない」
「それは……」
「恋愛感情を省いた方が、しっくりする」
目的のために織戸清良と婚約する必要があった。その為には、まず信じ込ませる必要がある。そこで、染野慎士は劇的な出会いを演出する必要があった。それには、短時間で依存させるための原因となる
「
「……偶然、暴漢に襲われそうになったのを利用したかもしれないじゃない」
「偶然ねぇ……俺はあの男を微塵も信用していないから言うが、暴漢は染野慎士に雇われたとしか思えない」
「そんなバレたら自分の首を絞めるようなこと、普通はしないでしょ!」
「普通? お前にとっての、普通は何だ? 少なくとも、婚約者がいるのに、他の女とキスでもしそうな距離で密会するようなことを、俺の普通基準では普通とは言わないな」
その問いに、ぐっと唇を噛んだサリーはカップの底に残る珈琲を睨みつけた。
しばらく、気まずい沈黙が訪れた後、珈琲を飲み干したモーリスは空になったカップを持って立ち上がった。
ミニキッチンのシンクへと下ろされたカップが、静かな部屋に、ごとりと重い音を響かせる。
シンクに寄りかかったモーリスは髪をかき乱すと、天井の明かりを見上げ、ややあって視線を下ろした。音にならないため息をこぼすと、俯いているサリーの背後へと静かに近づく。
「あの男は、織戸清良とお前を利用しようとした。そう考えた方が自然だ」
「……あたしも?」
「あぁ、お前だけじゃない。火遊び相手は全員利用されている。俺はそう考えてる」
固まっている肩にモーリスがそっと手を載せると、サリーはぴくりと反応した。