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第24話 アリシア、スーパートウループを決める

「しかし暇だねー」


 エリオットとセイヤーの練習を眺めながら、わたしは今日何度目かのため息をついていた。


「暇じゃないっすよ。お店も相変わらず大繁盛じゃないっすか」


 セイヤーが戻ってきて給水する。


「それはそうなんだけどねー。なんかほら、ソフィーさんがいないし、エデンもいないし」


「暴君がこの店に来る前から、オーナーは長期間、店を留守にすることが多かったから、こういう状態にはみんなわりと慣れているんだよ」


 エリオットも戻ってきた。


「なるほどねー。みんな平然と働いてるもんね。普通はほら、店長がいなければ仕事サボったりとかするもんなんじゃないの?」


 アルバイトって普通そういうものよね?


「そういう人はそもそもこの店に雇われたりしないっす。ソフィーさんの目利きは確かっすからね」


「その言葉が真実味あるわね……。現状を見れば納得するしかないもの。なんかほらー、羽目を外してトラブルとか起きるのかなーってちょっとは心配してたんだよ」


 何も変わらない日常過ぎてつまらない……。


 あ、そっか。むしろわたしがトラブルを起こしてやろうかしらね? 天使ちゃんたちにエッチなドッキリでも仕掛けようかな♡

 こっそり制服を水に濡れたら溶ける素材に仕立て直して、ついうっかりジュースをこぼしたら……。うん、ちょっとやってみよう♡ まずはホワイトラビット族のステファンあたりに。もしかして全身の毛が白かったりするのかな。でもまつげは黒いし、隠された部分が激しく気になるっ!


「暴君、暴君! 涎垂らして良からぬことを考えていないで、ちゃんと指導してくれよな」


「えっ⁉ 何も考えてないよ⁉ わたし、お花畑のことしか考えたことなーい♡」


 やばい、わたし今、どんな顔してた? はずかしっ!


「エロ暴君幼女っすね~。それじゃ曲の頭から滑るっすよ~」


 うわー、2人とも憐みの目で見ないで! せめてスルーしないでおいしくいじってよ……。つらいむ……。



「んー、そろそろもっとダイナミックな演出があってもいいのかなー」


 普通に滑ってるのを見てるのもちょっと飽きるというか。

 ピーターパンのショーみたいな派手な演出があっても良いんじゃないかなーって思えてきた。


「セイヤーさ、ちょっと空飛んでみて?」


「急に何言ってるんすか? ドラゴン族じゃあるまいし、自分、羽生えてないっすよ」


 セイヤーがやれやれといった具合にため息をついた。


「ワイヤーアクションよ。見えないワイヤーを張っておいて、それに釣られて飛んだように見せかけるってことー」


「ぜんぜん意味わからないっす」


 わたしも仕組みがわからないけどね。

 あれって何で釣ってるの? 周りから見えないってことは透明な線よね……ピアノ線? ピアノ線ってどんな材質なのか知らない……。


「うーん。ワイヤーアクションは強度の問題もあるし、事故ってケガしたら困るから、ちょっと今はやめておきましょう。それよりローラーシューズの改造のほうが現実的よね!」


「ローラーシューズの改造っすか?」


「前から試してみたかったのよねー。ジャンプする時に魔力を圧縮して爆発させる仕組みを導入して、ジャンプ力を強化するの。着地の時に足の裏に魔力をクッション型に噴射させれば、高く飛んでも安全に降りられるし」


「暴君は難しいことばかり言う時があるな……。私にはさっぱりだ」


 エリオットが難しい顔をしていた。

 そんなに難しいこと言ってるかなー。エネルギーの効率的な作り方の話なだけだと思うけど。


「まずはちょっと自分で試してみようかな。高く飛ぶならトウループが良いと思うから、やっぱり爆発噴射はつま先からよね」


 わたしのローラーシューズ初号機をいじって、噴射口をつけていく。効率的に魔力を打ち出すには螺旋形に絞って……まあこんな感じ?


 ちょっと地面に向かって空撃ち。


「あ、やば。威力強すぎて床に穴開いちゃった♡」


 もうちょっと噴射口を広げて威力を弱めないと、ただの魔力銃だわ、これ。



* * *


 何度か威力や角度の調整をかけて、ようやく納得のいく仕上がりになりましたよ、と。


「でーきた! どう? かっこよくない?」


 自主練に励んでいた2人を呼び寄せて、ローラーシューズ初号機改を自慢する。


「穴が開いていますね」


「つま先に穴が開いてるっす」


 んー、ちょっと不格好で不評?


「あとで開閉式にしようかな。普段は穴が開いてないように見えたほうが良いか……」


「とりあえず滑ってみるから見てて。この穴から魔力を噴射して高くジャンプするのよ」


 解説しながらフロアーを滑る。

 ここで、スーパートウループ!


「いやっほーい!」


 つま先で小さな爆発が起き、わたしは回転しながら高々と宙を舞う。


 高い! 思ったよりも高い!

 5回転、6回転、7、8、9、10回転! 目が回っちゃう!


 着地は自動でクッション展開!


 ほら完璧♡


「どうよ、これ?」


「え、やばいっす。天井付近までぶっ飛んでいったっすけど……」


「まさかこれを私たちが……?」


 あれ? 反応が思った感じじゃない……。

 ぜんぜん喜んでないし、むしろ怯えてる?


「じゃあ半分くらいの威力にするから……ね、2人も高く飛ぼう?」


 2人ともプルプル震えてる……。


「じゃじゃじゃあさ! 飛んだ時にローラーシューズから流れ星みたいに魔力が光るようにしてあげるから! ね、かわいいでしょ⁉」


 ますますプルプル震えている……。


 ……おかしい。

 流れ星になれるんだよ? むしろ喜んで飛んじゃうでしょ?



 このあと2人を説得するのにたっぷり1時間を要した……。


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