「しかし暇だねー」
エリオットとセイヤーの練習を眺めながら、わたしは今日何度目かのため息をついていた。
「暇じゃないっすよ。お店も相変わらず大繁盛じゃないっすか」
セイヤーが戻ってきて給水する。
「それはそうなんだけどねー。なんかほら、ソフィーさんがいないし、エデンもいないし」
「暴君がこの店に来る前から、オーナーは長期間、店を留守にすることが多かったから、こういう状態にはみんなわりと慣れているんだよ」
エリオットも戻ってきた。
「なるほどねー。みんな平然と働いてるもんね。普通はほら、店長がいなければ仕事サボったりとかするもんなんじゃないの?」
アルバイトって普通そういうものよね?
「そういう人はそもそもこの店に雇われたりしないっす。ソフィーさんの目利きは確かっすからね」
「その言葉が真実味あるわね……。現状を見れば納得するしかないもの。なんかほらー、羽目を外してトラブルとか起きるのかなーってちょっとは心配してたんだよ」
何も変わらない日常過ぎてつまらない……。
あ、そっか。むしろわたしがトラブルを起こしてやろうかしらね? 天使ちゃんたちにエッチなドッキリでも仕掛けようかな♡
こっそり制服を水に濡れたら溶ける素材に仕立て直して、ついうっかりジュースをこぼしたら……。うん、ちょっとやってみよう♡ まずはホワイトラビット族のステファンあたりに。もしかして全身の毛が白かったりするのかな。でもまつげは黒いし、隠された部分が激しく気になるっ!
「暴君、暴君! 涎垂らして良からぬことを考えていないで、ちゃんと指導してくれよな」
「えっ⁉ 何も考えてないよ⁉ わたし、お花畑のことしか考えたことなーい♡」
やばい、わたし今、どんな顔してた? はずかしっ!
「エロ暴君幼女っすね~。それじゃ曲の頭から滑るっすよ~」
うわー、2人とも憐みの目で見ないで! せめてスルーしないでおいしくいじってよ……。つらいむ……。
「んー、そろそろもっとダイナミックな演出があってもいいのかなー」
普通に滑ってるのを見てるのもちょっと飽きるというか。
ピーターパンのショーみたいな派手な演出があっても良いんじゃないかなーって思えてきた。
「セイヤーさ、ちょっと空飛んでみて?」
「急に何言ってるんすか? ドラゴン族じゃあるまいし、自分、羽生えてないっすよ」
セイヤーがやれやれといった具合にため息をついた。
「ワイヤーアクションよ。見えないワイヤーを張っておいて、それに釣られて飛んだように見せかけるってことー」
「ぜんぜん意味わからないっす」
わたしも仕組みがわからないけどね。
あれって何で釣ってるの? 周りから見えないってことは透明な線よね……ピアノ線? ピアノ線ってどんな材質なのか知らない……。
「うーん。ワイヤーアクションは強度の問題もあるし、事故ってケガしたら困るから、ちょっと今はやめておきましょう。それよりローラーシューズの改造のほうが現実的よね!」
「ローラーシューズの改造っすか?」
「前から試してみたかったのよねー。ジャンプする時に魔力を圧縮して爆発させる仕組みを導入して、ジャンプ力を強化するの。着地の時に足の裏に魔力をクッション型に噴射させれば、高く飛んでも安全に降りられるし」
「暴君は難しいことばかり言う時があるな……。私にはさっぱりだ」
エリオットが難しい顔をしていた。
そんなに難しいこと言ってるかなー。エネルギーの効率的な作り方の話なだけだと思うけど。
「まずはちょっと自分で試してみようかな。高く飛ぶならトウループが良いと思うから、やっぱり爆発噴射はつま先からよね」
わたしのローラーシューズ初号機をいじって、噴射口をつけていく。効率的に魔力を打ち出すには螺旋形に絞って……まあこんな感じ?
ちょっと地面に向かって空撃ち。
「あ、やば。威力強すぎて床に穴開いちゃった♡」
もうちょっと噴射口を広げて威力を弱めないと、ただの魔力銃だわ、これ。
* * *
何度か威力や角度の調整をかけて、ようやく納得のいく仕上がりになりましたよ、と。
「でーきた! どう? かっこよくない?」
自主練に励んでいた2人を呼び寄せて、ローラーシューズ初号機改を自慢する。
「穴が開いていますね」
「つま先に穴が開いてるっす」
んー、ちょっと不格好で不評?
「あとで開閉式にしようかな。普段は穴が開いてないように見えたほうが良いか……」
「とりあえず滑ってみるから見てて。この穴から魔力を噴射して高くジャンプするのよ」
解説しながらフロアーを滑る。
ここで、スーパートウループ!
「いやっほーい!」
つま先で小さな爆発が起き、わたしは回転しながら高々と宙を舞う。
高い! 思ったよりも高い!
5回転、6回転、7、8、9、10回転! 目が回っちゃう!
着地は自動でクッション展開!
ほら完璧♡
「どうよ、これ?」
「え、やばいっす。天井付近までぶっ飛んでいったっすけど……」
「まさかこれを私たちが……?」
あれ? 反応が思った感じじゃない……。
ぜんぜん喜んでないし、むしろ怯えてる?
「じゃあ半分くらいの威力にするから……ね、2人も高く飛ぼう?」
2人ともプルプル震えてる……。
「じゃじゃじゃあさ! 飛んだ時にローラーシューズから流れ星みたいに魔力が光るようにしてあげるから! ね、かわいいでしょ⁉」
ますますプルプル震えている……。
……おかしい。
流れ星になれるんだよ? むしろ喜んで飛んじゃうでしょ?
このあと2人を説得するのにたっぷり1時間を要した……。