いろいろ考えている間に、ソフィーさん一行の遠征の日が来てしまったよ……。
お店はすこぶる順調。軍人の新人さんたちもよくやってくれているんだよね。なので通常営業には問題ないのだけれど……。ないのだけれど……。
「そんな心配そうな顔しないでちょうだい。私のいない間にご予約いただいているVIPのお客様たちにはきちんと説明をしてあるわ。アリシアなら安心して任せられるから助かるわよ」
ソフィーさんが膝を折り、やさしくわたしの手を取った。
そう……わたしの仕切りで不手際がないように、一生懸命やるだけ、よね。
『心配であれば我が毎日手伝いに行ってやるぞよ』
わー、マーちゃんだ! いつも気にかけてくれてありがとう! できるだけがんばってみるけど、不安になったらすぐに呼ばせてもらうね!
『うむ。任せるが良いぞ』
女神様ってやっぱりやさしいなー。ちょっと声をかけてもらえるだけで気持ちが楽になる。
「そうだ! ソフィーさん! 長旅に備えて、いろいろと便利アイテムを作ってみたので良かったら使ってみませんか? 外は暑いですからねー」
「あら、何かしら。『連動型アイテム収納ボックス』を通じて、氷菓子の差し入れをしてもらえるだけで十分助かるのだけれど」
「まあまあ、それ以外にも装備品としていろいろ準備してみたんですよー」
まずはローラーシューズの内側に小さな冷却装置を取り付けてみましたよー。
滑っている最中に、スニーカーのメッシュ部分から周りの冷えた空気を取り込み、スニーカー内のこもった熱気を下のローラーから排出する循環システムですよ!
「ちょっと滑ってみてください」
ソフィーさんがローラーシューズ(涼)に履き替え、お店の廊下を一滑りする。
「あら? 滑ると足がとっても冷たいわ。これは外で使ったらなかなか良さそうね」
足は蒸れますからね。オプションでシューズの外側に香水を振りかけておくと長旅でも安心……。
「次のアイテムはこれですよー」
ファン(扇風機)付きのベストです。
ローラーシューズに連動して動きます。仕組みも同じで外気を取り込んで冷却した空気を循環させるシステムになっていますよ。鎧の下にも着用できる超薄型になっているので安心♪ ついでに武器屋に行って物理攻撃無効の効果も付与しておきましたからね。いやー、永続効果の付与はちょっとお高かった……。ミィちゃんの紹介を使ってなんとか女神価格で……。
「空気を送るのに膨らんだりしないのね。こんなに涼しいのに薄くて便利だわ~」
「気に入ってもらえて良かったです! 最後はこのバンダナをどうぞー」
冷却効果を付与したバンダナです。
もちろん薄い布なので兜の下にも無理なく装着できますからね。でもただの布じゃないですよ? 防犯システムを流用した索敵機能付きで、これがあれば野営の時にも安心安心♪ いつの間にか近づく敵はレーザーで焼き……ああ、その機能は取り外したんだった! ミィちゃんが絶対ダメって言うから……。実装しているのは索敵機能まででした。半径20m以内で魔物の魔力を感知したら、頭をツンツンしてくれるのですぐに起きてくださいね。
「すごくオシャレな柄だわ。私の好みよ♡」
「それはわたしが一生懸命刺繍をしました! 気に入ってもらえて良かったです!」
親方のところで夜なべした甲斐があったね。
「遠征メンバー5人全員分を用意しているのでみんな使ってくださいね。良き旅をー♪」
「アリシア、いつも感謝しているわ。あなたの発明能力はすごいわね」
「ええ、それほどでもありますよ♡ お偉い貴族様とお会いする機会があれば、さりげなく宣伝してくれてもいいですよ?」
出資者がたくさんいてくれたほうが活動しやすいですからね。あとはハーレム候補……は、黙っててもソフィーさんが集めてくれるから大丈夫ね♡
いつかお店からごっそり天使ちゃんたちを連れてハーレム作って出て行ったら、ソフィーさんと戦争になる未来もあるのかしら……。やっぱり男の子より女の子だけにしといたほうが無用な争いは起きないのかな……。でもなー。うーん。うーん。
「あ、みなさんのサイズは把握しているつもりですが、体にフィットしなかったら調整するので早めに教えてください」
あとは……。ホントは武器も用意したんだけど、ミィちゃんが強力に止めるからなー。
『さすがにそれは見過ごせませんよ』
『我もそれはやめておいたほうが良いと思うのじゃ』
えー、マーちゃんまで……。いつでもわたしの味方だと思ってたのにぃ。
なんでよー。
魔力感知の索敵モードに自動排除オプションを取り付けただけなのにー。
野営地の半径50mに空中から地中まで球型防護フィールドを展開。内部侵入を許した際の対軍用迎撃システムとして連動型地雷を自動設置。さらに各個撃破用として追尾型ドローンによるオートレーザー射撃するだけなのに。
『だけじゃありません。ダメです!』
ケチぃ。
だってみんなの危険が危ないじゃないの……。
外には魔物がうようよしているんだよ? なんか新種の巨乳型の魔物がうろついているらしいじゃないの。
もしみんながケガでもしたらと思うと……。
『それは我じゃ』
え? 何が?
『巨乳型の魔物を作ったのは我じゃよ。アーちゃんが望んだから我が変容させたのじゃ』
ん、と、マーちゃん……もうちょっとちゃんと説明して? 何がどういうことでしょうか?
『アーちゃんが世界から巨乳が憎まれるように望んだから、我がこの一帯の魔物の生態を変容させて、巨乳の魔物に変えたのじゃ』
マーちゃん、なにしてんの……。
『人にとって魔物は忌むべき存在じゃ。巨乳の魔物ばかりを見ていたら、人はそのうち巨乳も憎むようになるのじゃ』
そんな安易な……。
『マーナヒリン。それはやりすぎではないでしょうか』
そうだよ、マーちゃん。さすがにやりすぎだよー。わたしもそんなことは望んでいないっていうか。
『巨乳を愛している人が巨乳の魔物と戦わなければいけないつらさを考えたことがありますか?』
ええっ、心配するのそっち⁉
まず咎めるべきなのは「女神が簡単に魔物を変容させるんじゃない!」とかじゃないの?
『魔物の能力を変容させることは生態系に影響があるのでよくありませんが、外見的な特徴が変わったところでさしたる問題はないのではないでしょうか』
女神様って意外とドライなのね。
やっぱりその辺り、ちょっと人とは違うんだなって思いました。
それじゃあ新種の魔物が暴れているっていうのは、巨乳に変えられたから魔物が怒って暴れているってこと?
『魔物にそういった感情はありません。もっと本能的に動く存在なのです。魔物の活動が活発化しているのはもっと別の要因です』
マーちゃんは関係ないのね。
どんな要因なの?
『それは言えない決まりになっています』
あらら。何か事情がありそう……。
でも言えないなら、今わたしが考えられることはないかな。
んー、そうなると、魔物の活発化に合わせて既存の武器や防具の強化をしてあげたいところなんだけど、先立つ金属がなー。本格的に鉱山の開拓に乗り出さないと……。この辺りの相談もガーランド伯爵にしてみればいいのかな。
わたしが長期間お店を離れることも視野に入れないとねー。
でも、なんにせよ、わたしやソフィーさんがいなくてもお店を切り盛りできるような組織にしていかないと、遠征の度にこの問題が出ちゃいそう。
「アリシア、アリシア!」
「あっ、はい! なんでしょう!」
「急にぼーっとして。大丈夫? 私たちはそろそろ出かけるわよ」
ソフィーさんが心配そうにこちらを見ていた。
やばいやばい。ミィちゃんとマーちゃんと話し込んじゃった。
「あ、大丈夫です! ちょっと考え事ー。いってらっしゃい! 気をつけてくださいね!」
「アリシアも。お店のことは任せるわね。何かあったらすぐにセドリックに相談しなさい」
「かしこまりました! ほかの遠征メンバーは……?」
エデンがいない。ほかの天使ちゃんも。
「向こうで馬車の準備をしているわ。準備ができ次第私たちはそのまま行くわよ」
んー、エデンは出発前に顔を見せないのかー。
意外とドライだね。まあ、意外でもないか。見た目通りクールなだけだわ。ちょっと出かけてきますって感覚なのよね。
「ソフィーさんも無事に帰ってきてくださいね。いってらっしゃい」
でもちょっとさみしい……。