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第33話 アリシア、蜘蛛男に粘着される?

「殿下のお姿が見当たらないのですが、どちらにいらっしゃるのでしょうか?」


 ナタヌが周りをキョロキョロしながら呟く。


 スレッドリー……?

 そういえば……いないね。

 いつからいなくなった……?


「もしかして……迷子になった?」


 スレッドリーにしてみたら、この『ダーマス』は初めての土地だったね。わたしたちは知っている土地だし、とくに説明もしないでズンズン進んできちゃったけど……。


「エヴァちゃん! スレッドリーの居場所ってわかる⁉ わたし、特定の個人をピンポイントでは魔力探知できなくて!」


 他国の要人もくるかもしれないこの土地に、王様からお預かりした第2王子を放置してしまった!

 何かあったらどうしよう⁉


≪殿下の居場所ですか? もちろんわかりますが≫


「ナイス! それで今どこで迷子になっているの⁉」


 独りで泣いているかもしれない!

 早く迎えに行かないと!


≪スークル様の神殿にいらっしゃいますが……殿下は迷子なのですか?≫


「あれ? 神殿にいるの? どういうこと……?」


 もしかして迷子じゃない?


「アリシア、ナタヌさん。2人とも聞いていなかったんですね……」


 ラダリィがため息を吐く。


「えっと……何を?」


「何でしょうか?」


「スークル様が殿下に、『神殿のことで頼みたいことがあるから残ってくれ』とおっしゃっていたではありませんか」


「そうなの⁉ ぜんぜん聞いてなかった! じゃあ、迷子じゃなくて神殿で何かの仕事をしているんだね! あー良かった」


 国の王子に何もなくて良かったよ……。


≪いつも王子を危険に晒しているのはアリシアのほうですけれどね≫


「それとこれとは別なのー!」


≪つまり仮死状態までは許されるのですね。良いことを聞きました≫


「いや……一概にはそうも言えないというか……むやみに仮死状態にするのはダメだよ?」


「私も新スキル獲得のための実験台にしても良いですか⁉」


 ナタヌまで……。


「スレッドリーはおもちゃじゃないよ? あれでも王子様だからね。丁重に扱ってね?」


≪おまゆう≫


「おまゆうですね!」


「おまゆうとはこのことです」


 グハッ。総攻撃を食らった!

 なんでナタヌもラダリィも普通にわたしの前世のミームを使っているのさ。


「ま、まああれだよ……。2人が小銭を稼いでくれたし、『ダーマス』名物のウナギの串焼きを買って、スレッドリーを迎えに行きますか」


「賛成です! ウナギ大好きです!」


「串焼きはいただいたことがないですね。食べてみたいです」


 よーし、そうと決まればさっそく出発だー!

 者どもー、ローラーシューズを起動しろー!


「あ、あの……アリシア。出かけるのは少々待っていただけますか……」


 ん、ラダリィさん何よ?

 今、完全に口がウナギになっているので早く屋台に行きたいんですけど。


「私……このかっこうではちょっと……」


「あー……大丈夫。すっごくかわいいよ?」


 そう、ラダリィはさっきまで踊っていたので、伝説のアイドル衣装を着用したままだった。


「そんな言葉ではごまかされませんよ。更衣室を出してください」


「ホントに似合ってるのになー。ラダリィの二の腕をペロペロしながら街を散策する夢が……」


「そんな夢は金輪際持たないでください」


 ふぇーん。

 でもまあ、ここで押し問答していても仕方ない。ラダリィペロペロは夜のお楽しみにするとして、今は素直に従っておこう♪


「昼も夜もダメですからね」


 えっ、今心を読まれた⁉



* * *


「ただいまー。おー、スレッドリーくん、元気に働いているかなー?」


 屋台でウナギの串焼きを買い占めたわたしたちは、あまーい匂いを周囲に振りまきながら、スーちゃんの神殿へと戻ってきていた。


『アリシア、おかえり。殿下はよく働いてくれているよ。男手があると助かるな』


 スーちゃんがうれしそう。

 ここの神殿に若い男性はいないのかな?


「アリシア……遅かったな」


「ん、どこ?」


 なんか天井のほうからスレッドリーの声が?

 見上げても誰もいない?


「こっちだ。お~い!」


 声のするほうを見てみると――。


「うわっ、蜘蛛のモンスターだ!」


 天井の模様に擬態した巨大な蜘蛛のモンスターが糸のようなものを吐いて……いや、あれスレッドリーだわ。


≪退治します≫


「『ホーリー・ノヴァ』!」


 うわー! スレッドリーが燃えてる!


「アチチチチチッ」


「水、水!」


≪仕方ありませんね。放水を開始します≫


『神殿が水浸しになる! やめろ!』


「蜘蛛男は……あっ、落ちた」


 神殿は水浸し。

 蜘蛛男は5mくらい落下して虫の息。

 あーあ、大惨事だー。もう手遅れだよ。



『王子よ。死んでしまうとは情けない』


「あ、それここでやってたんですね」


 どこかの女神空間でやるものじゃないんだ?


『ここはオレの神殿だからな。おそらくアリシアが期待している女神空間とは、ここのことだよ』


「なるほど。一理ありますね」


 お、おお……。

 こういう感じに体から魂が抜けて……。神殿の中って魂が目で見えるんだー。異空間の時と同じだね。神秘的! 神殿ってすごい!


 何かしゃべっていそうだけど、さすがに魂(スレッドリー)の言っていることはわからないね。


≪魂ってきれいですね。少しだけひっかいてみましょうか≫


 やめれ。

 無防備なんだからそれこそホントに消滅しちゃうでしょ。


 あ、体が修復していく。

 こうやって魂と離した状態できれいにするんだ。なるほどねー。

 体が修復し終わったら、魂が戻っていくんだ……。



「おかえり、スレッドリー」


「あ、ああ。何度やられても慣れないな……」


「そりゃそうでしょうね……」


 仮死状態になるのに慣れたら、それはそれでヤバい人だよ。


「しっかしなんであんなところで蜘蛛のモンスターみたいに糸を吐いてたの?」


「糸は吐いていないが……。天井の煤を掃除していただけだ」


「なんだ、掃除していただけなのね。てっきり蜘蛛のモンスターと融合でもしたのかと……」


「全身に粘着性のある煤取りテープを張り付けていたからな」


「なるほど。蜘蛛じゃなくて粘着テープ男だったのね」


「なんだそれは……」


≪殿下が粘着質な男、ということです≫


「そうですね! アリシアさんに粘着する男です!」


「言い得て妙ですね。たしかに殿下はもう6年もアリシアに粘着していますから、相当年季が入った粘着男です」


 なぜかスレッドリーが総バッシングに。

 粘着男ってそういう意味だったんだ……。


 スレッドリーってわたしのストーカーだったの?


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