スレッドリーってわたしのストーカーだったの?
「粘着ストーカー男なの?」
「お、俺はそんなことしていないぞ!」
スレッドリーは全身に張り付けていた粘着テープを剥がしながら言う。
ところどころ燃えて、煤けて肌に張り付いていてとっても剥がしにくそう。そもそも肌をやけどしていてかなり痛そう……。
見ていられないので、治癒ポーションを無言で手渡す。
「殿下は初恋を6年も引き摺っておいでですからね。私はその様子を毎日観察しておりました。間違いなく、年季の入った粘着ストーカー男です」
ラダリィがスレッドリーに対して冷たい視線を投げかけている。
あれー? これまでの話だと、ラダリィさんがわりと積極的に焚きつけていたという感じではなかったですか? 違ったかな?
「違う! 俺はアリシアに迷惑など一切かけていないぞ!」
「ストーカーはみんなそう言うんですよ。『話しかけていない。見ているだけ』と。そのねちっこい視線だけで十分迷惑しているんですよ?」
ん、もしかしてナタヌはストーカー被害にあったことがあるのかな? とりあえずその話、詳しく聞こうか……?
「あ、私ではないですよ! この間酔っぱらったラダリィさんからお聞きしました!」
「なーるほど! さっすがラダリィ! モテ女エピソードの宝庫だね!」
ちょっと安心したー。ラダリィならそんなこと日常茶飯事だろうし、あしらい方もうまいから問題ないよね。でももしナタヌのことをストーカーしている男がいたとしたら……半殺しくらいじゃ自分を抑えられないかもしれない……。
≪2度と来世など訪れぬように魂さえも破壊してくれるわ。しかしそれだけではすまないぞ。お前の種族諸共、未来永劫に渡り、耐えがたい責め苦を負い続けることになるだろう≫
いや……それ、魔王を通り越してなんかもう別のやつじゃない? 邪神とかそっち系?
「私もラダリィのモテ女エピソード聞きたいなー。ちなみに今は何人くらいストーカー抱えてるの?」
「私は別にモテてなどいません。昔、ストーカー被害にあったことがある、という話をナタヌ様がおもしろおかしく尾ヒレをつけただけのことです」
「ふーん? どこに行っても連絡先渡されているのにー?」
「それはモテとは違っていて……」
「ラダリィさん、モテ女ですね! うらやまし……くはないですけれど、一般論としてはうらやましいです!」
一般論として。
まあ、なんかナタヌが言いたいことはわかる!
ストーカー被害は受けたくないけれど、ラダリィくらいモテまくってみたい!
「男は中身がすべてです。私の外見だけを見て近寄ってくる男など、視線を合わせる時間すら無駄です」
「かっこいいー! 一度は言ってみたいセリフー!」
「ラダリィさん、ぱないです!」
うんうん、ぱないねー!
「ところでアリシア……折り入って相談があるのですが……」
ラダリィの表情が暗い。
「ん、どうしたの? 急に深刻そうな顔をして?」
≪ラダリィさん。そこの木の影と、2軒先の建物の裏と、この建物の屋根の上と、そこの噴水の裏です≫
「エヴァちゃん、急に何……?」
今言った場所には何もないみたいだけど?
≪ラダリィさんは現在もストーカーに困っていらっしゃるのです。今は、4人ですね。いつものようにこちらで処分しますか?≫
「えっと、ちょっと待って……。ストーカーなうってこと?」
現在進行形で? しかも4人も⁉
≪はい。今日は比較的少ないですね。ラダリィさんが気にされた時には、私のほうで適宜排除するようにしています≫
マジで……ぜんぜん気づかなかった。
「エヴァ様……。穏便にお願いしてもよろしいでしょうか」
≪かしこまりました。いつものように対処しておきます≫
「ちょっと! いつものって何⁉ まさか命を……?」
≪そんなまさか。私は正義を愛するロボです。暴君幼女ではないので、人に暴力を振るったりしませんよ≫
お? 遠回しにわたしのことをバカにしているな⁉ やるのかー⁉ おおん?
≪私はいつもクールに理知的に。ストーカー野郎どもを反省室に送って、悔い改めるまで説教を行うだけです。出所の際には「2度とストーカー行為を働きません。もし破った場合は、全財産没収の上、死刑になると誓います」という念書を書かせてから放逐していますからご安心ください≫
精神的な暴力!
直接殴るより怖い……。
「私のためにエヴァ様にはいつもご迷惑をおかけしています」
「いやいや、それくらいのことでエヴァちゃんを使うのはぜんぜんかまわないからね? 逆に今まで何にもなくて良かったよ!」
ストーカー怖い!
え、でも毎日駆除しても毎日増えていっているってこと⁉
≪計4名。先ほど反省室に収容しました。おそらく今日のパフォーマンスのせいで、明日からは倍増することになると思いますが、反省室は無限拡張可能なのでご安心ください≫
増えるの確定なんだ……。
それ……安心できるかな。