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第87話 アリシア、シャーレの夢の中に突入する

 ノーアさんによる集団転移。

 わたしたちはただ目をつぶっていただけで、あっさりとシャーレさんの夢の中へと侵入することができた。


「ここがシャーレさんの夢の中ですか? ぜんぜんお風呂場じゃないですね?」


 お風呂場どころか、室内ですらないね。

 ……草原? でも見たことがない種類の草木がいっぱいだなー。


「夢の中の景色というものは常に変化します。アリシア=グリーンも経験があるでしょう。夢とは脈絡がなく、前後のつながりがないことも珍しくない」


 あー、たしかに?

 街中を走っていたと思ったら、突然空を飛んでいる、なんてこともありますよね。でもわたし、だいたい何かから逃げている夢ばかり見るんですけど? 足が遅くなってなかなかうまく走れないの。これって何の夢なんですか?


『それはストレスだな。抑圧からの解放を求めているんだろう』


 抑圧からの解放?

 別にわたし、何もストレスなんて抱えてないよ?

 今すっごく楽しい! 何もかも楽しい!


「死からの解放がまだではないですか?」


「死からの……」


 あー、それってまた『賢者の石』の探究のお誘い!

 隙あらばすぐに! ノーアさんはぜんぜん考える時間をくれない!


【あっちのほうは少し景色が違うでやんすね】


 ウルティマさんが指さす方向を見ると、わたしたちがいる草原とはたしかにぜんぜん違って見えた。

 なんだろう。妙に明るい……水?


【行ってみるでやんす】


 よし、行ってみましょう!


【お待ちになって】


 ん、サナちゃん? 何か気になることでも?


【あちらは暗いですわよ】


 ウルティマさんが向かおうとしているの反対側の方を指さしている。


 言われた通り、変な感じに暗いね……。

 あっちもめっちゃ気になる……。


「どうしよう……」


『分かれてどちらも確認するか? おそらくどちらか一方にイニーシャがいるのだろう』


 んー、あそうだ! 同じ空間に入ったんなら、スーちゃんの女神パワーで探知できないの?


『今のところ何もわからないな。おそらくまだ同じ空間ではないのだろう』


「そうなんだ……。でもイニーシャ様のほうは、さすがにわたしたちがこの空間に足を踏み入れたことには気づいている……よね? どうしてあちらから迎えに来てくれないんだろ」


 不思議。

 来れない事情でもあるのかな?

 やっぱり捕らえられているとか?


『逆だろうな』


 逆?


「私たちに……とくにスークル様に会いたくないのでしょう」


「お姉ちゃんなのに?」


『オレがお姉ちゃんだからだろう』


 どういうこと?

 わたしにもわかるように説明して?


『女神会議での調整もなく、独断専行でシャーレ殿と接触。あまつさえ、相手の記録を改ざんして夢空間に割り込んだわけだ』


 そう聞くとだいぶ大事のような……。


『だいぶじゃない。とんでもない大事だろう』


 そ、そっか……。

 イニーシャ様やっちゃったね……。


『今も女神としての仕事を放棄し、シャーレ殿の夢の世界に隠れているわけだ』


「怒られるのが怖いのでしょうね」


 え、そういうことなの?

 何かを企んでいるとか、そういうことでもなくて、ただ怒られたくないだけ?


『しかしまあ、女神が1柱欠けた程度で、パストルラン王国が傾くことはないよ。だからそれ自体は大したことではないんだ』


 いやいやいや、1柱欠けたらそれこそ相当な大事でしょ……。

 だってイニーシャ様の信徒たちはどうなっちゃうの?


「姉分のスークル様が代行されていますから、しばらくは問題ないでしょう」


 そういうものなんだ?

 姉って便利なのね。


『それも含めて、イニーシャにはきつくお仕置きをしなければいけないな』


 あー、その感じ?

 そうやって威圧するから出てきにくくなっているんじゃないの?


『そ、そうか……』


 もっとこう、微笑みながら「怒ってないよー、大丈夫だよー」って言ってあげれば、イニーシャ様も出てきやすくなるんじゃないかなと?


『そういうものか……』


 そういうものだよ!


『じゃあ、怒ってない。休んだ分、しっかり働けば叱りつけたりしないぞ』


 うんうん、その調子ー。


『戻ってきたら、お姉ちゃんが「よしよし」してやろう』


 わたしもしてほしい!


『おもしろい妹分も紹介してやろう』


 それってわたしのこと⁉

 おもしろいって何⁉


【あちらのほう、動きがありましたわ!】


 サナちゃんが暗くなっている方角を指さす。


 動き?

 あ、ホントだ。

 なんか雲がいっぱい……暗いところが広がって、こっちの空間を侵食してきている?


【行ってみるでやんす!】


 あ、ちょっと。

 危ないことが起きたら困るから、様子を見ながらにしましょうよー。

 って、ウルティマさんとサナちゃんが行っちゃった……。


「わたしたちも行かないと」


『おう、おそらくあっちにイニーシャがいるんだろうな』


「空間の歪みを観測しました。おそらく間違いないかと思われます」


 ノーアさんが言うなら間違いないですね。スーちゃんが「怒らないよ」って言ったからかな?

 イニーシャ様も意外とかわいいところあるね。同じ妹分として仲良くなれそうかも♪


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