「うぅ……、フェンリルさん。恥ずかしいですよ……。」
「よいではないか。知らない仲ではなかろう?」
あの後、気絶から目覚めたアリスはフェンリルに膝枕をされていた。
本人は必死に逃げようとするが、フェンリルには離す気は全くないらしく、起きたアリスの頭を優しく撫でている。
「……随分リアドール君がお気に入りの様だな。」
「俺が起きた時には既にべったりだったよ。」
「何じゃ、2人とも。」
文句あるか、とフェンリルが睨んでくるが、何でもないと苦笑して適当に誤魔化す。
するとアリスは便乗したニーザにも撫でくりまわされて、今度は楽しそうに悲鳴を上げていた。
まあ、楽しそうで何よりだ。
◆◆◆
「そう言えば、伝承が嘘だって言うのは分かったんですけど……」
「んー?」
アリスは相変わらず頭をフェンリルの膝の上に乗せたまま、何か気になった様な顔をしている。
少し離れたところで遊びに来ていた女性魔導士達がやたら羨ましそうな顔でアリスを見ているが、きっとあそこがアリスやニーザ以外に譲られる事は無いだろう。
「教科書だと、破壊神は3体の魔族を引き連れて現れたってあるんですよ。」
「うん。どう見ても俺が邪悪な存在に描かれてるあの失礼な挿し絵な。」
遺跡から出る前に少しだけ見せてもらったが、本当に人類を7割も滅ぼしたような邪悪の化身として描かれていた。
英雄として描かれるより遥かにマシだが、それでもあんな風に描かれるのは心外極まりない。
「災い起こしなんて言われてるアンタが邪悪なんて、今に始まった話じゃないじゃない。」
「何割かお前のせいだろうが!!………それで?」
「はい……。その、失礼かもしれないんですけど、この中で一番強いのって、やっぱりアルシアさんなんですか?」
申し訳無さそうな顔をしてアリスが聞いてくるが、別に失礼でも何でもないので色々な角度から考える。
たしかに、あんな書かれ方してればそんな風にも思われるのかもしれない。しかし……、
「いや……、この中で一番弱いのは俺だろ。人間だし、こいつらと戦う気は無いし。」
「そうなのかい?」
フリードの問い掛けに、俺は素直に「うん。」と答えた。
軽い手合わせくらいならたまにやるが、本気でやり合ったら地力の差で負けるだろう。
冗談の範疇とはいえ、フェンリルとケンカしていつも負けてるし。
だが、それにはフェンリルが異論を唱えた。
「嘘をつくな、アルシア。汝はその気が無いだけで、仮に本気で殺し合えば殆ど互角じゃろうに。」
「アンタ、面倒くさがりなのもそうだけど、そういうとこで謙遜するわよね。」
「…………どっちなんだい?」
フリードが困ったような顔で聞いてくるので、それなら、ともう少し真面目に考える。
まあ、アーティファクトを使えば火力面はどうにかなるし、身内じゃ絶対に使わない手もあるから……、
「………まあ、互角なのか?ただ、私情抜きで一番戦いたくないのはニーザ。後は……まあ、その時次第で勝ち負け決まるとかじゃないかな。」
今度は正解らしい。
フェンリル達も満足そうに頷いた。
「妾もたしかに、この中で戦うなら一番戦いたくないのはニーザかの……。負けはせんが、決着はつかんじゃろうし。」
「アタシはフレスかな……。相性的な問題でたぶん勝てない。」
「私は誰が相手でも普通に戦えるな。敢えて苦手な相手となると、アルシアか。」
俺が考えるのと同時にフェンリル達も便乗して各々考えを口にする。
「アルシアとフェンリルは一緒で、ニーザ達はそれぞれ違うんだね……。と言うより、そんなにニーザと戦うのは嫌なのかい?」
その言葉に俺とフェンリルは同時に頷き、ニーザは誇らしげに微笑んだ。
年頃の少女らしいのが可愛くて、なんかムカつく。後でおやつのスコーンでも奪ってやろう。
「アリスと戦った時は全然本気じゃなかったからな。本気のニーザはこう見えて、力任せじゃなくて色々魔法を仕込んで徐々に逃げ道を塞ぎながらとか、厄介な戦い方をしてくるんだ。」
「うむ。妾とアルシアはそれを潰して、こちらからも似たようなアプローチを仕掛けてそれをニーザが潰して……となるから、嫌でもニーザのペースに巻き込まれる。此奴に魔法で戦いを挑めば、誰も勝てないからの。」
「あはは……。私はまだフレスさんに相手をしていただいてないので分からないのですが、たしかにニーザちゃんは凄かったです。手加減してくれたけど。」
ニーザはそれが嬉しかったらしい。
「でしょー?」と言いながらフェンリルの身体からアリスを起こして抱きしめていた。
「因みに、フレスは本当に俺達相手に常に同じペースで戦える。そういう意味じゃ、一番強いのはフレスかもな。」
「なるほどね………。」
「…………ふん。」
そう俺が答えると、フリードは納得した様に頷き、確かにそうだとフェンリル達も頷くと、いきなりそんな風に言われたフレスは何も言わず、照れ臭そうにそっぽを向いた。