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第30話「邪悪竜ニーズヘッグ・後編」


「村ごと消し飛ばすのもありかしら?」


ニーザは何かを構えるでもなく、村の上空に村丸ごと覆うほどの赤黒い雷の球を生み出した。

それを見てニーザは満足の出来だと言わんばかりにその口の端をつり上げる。

当然だが、あんな物が直撃すれば村など跡形もなく吹き飛ぶだろう。


「に、ニーズヘッグ様!お止めください!これでは村が!!」

「ふふ。ならそこの使えない怠け者達が命を賭けて止めないとね?」

「てめえ………、言わせておけば……ぐ!?」


ニーザの挑発を受けてやる気になったドワーフ達が戦闘態勢に入るが、彼らはその場を動く事が出来なかった。

彼らの身体を、彼ら自身の影から帯状の黒い手が無数に伸びて、その動きを止めたからだ。


「動くのが遅いわよ、ドワーフ。仮にその影の拘束を解いても、空を覆うはどうするのかしら?」


ニーザの言葉を聞いて空を見上げた俺以外の全員の顔が一瞬にして青褪めて、持っていた武器を落とした。

空には先程生み出された赤黒い雷の球は勿論、それ以外にも無数の魔法陣が生み出されていた。ざっと見、50はあるだろう。


ニーザは俺が知る限り、魔法戦に於いては最強だ。

さすがにこの姿の彼女に劣るとはいえ、普段のニーザであっても、これくらいは容易に出来る。

要するに、これでもかなり恐ろしい光景だがかなり手加減をしている。

つまり、本当に村を滅ぼす気など全く無い。ただ脅して遊んでいるだけだ。

……とはいえ、放っておくと本気でアレを落としかねないので、早めに止めた方がいいだろう。


俺はこちらに助けを求めるように見てくるゴドーに目を向け、

ゴドーはそれを見て、何かを察したのだろう。俺を止めようとするが、それを放っておいてオルフェンに近付いて、こっそりと耳打ちする。

オルフェンはそれを聞いて、躊躇いながらだが無言で頷いた。

準備はオッケーだ。


「ニーザ、止めてやれ。」

「………分かったわ。」


ニーザはそう答えて、展開していた影の腕と赤黒い雷をあっさりと引っ込めた。

魔法陣だけはそのままだったが。


「……すまねえな、人間の坊主……」

。」

「…………あ?」


助けてくれた物だと思っているドワーフ達に冷たく言い放つと、ドワーフの底冷えるような声が返ってきた。

先程よりも強い怒りだ。


「おい坊主、今何つった?」

「あ?ヘナチョコって言ったんだ。クソの役にも立たねえマヌケどもが。」


ドワーフ達の怒りなど何てことないと言うように更に挑発する。

アリスがこの場にいようものなら慌てそうな位、ドワーフ達が更に怒りを募らせた。

予めこうすると教えているとはいえ、オルフェンも少しばかり青褪める。


「てめえ、言わせておけば……!!」

「口だけなのか。まさか違うだろう?天下の……、超一流種族のドワーフに限って。」

「あたりめぇだ!てめえみたいなヒョロヒョロな人間の坊主なんかと俺らを一緒にすんじゃねえ!この場でぶっ殺すぞ!!」


それを聞いて、俺は顔を伏せてくつくつと笑ってから、邪悪な笑顔のまま、用意していた言葉を口にする。


「ならやる事なんざ決まってるだろうが。つべこべ言わねえでさっさと。」

「言われねえでもやってやらあ!行くぞテメェらぁ!!!」


「応っ!!!!」


俺の言葉を聞き、リーダー格の男が号令をかけると、取り巻きのドワーフ達はそれに続く様に四方へと凄まじい勢いで走って消えていった。

後に残ったのは俺とニーザ、オルフェンとゴドーである。


「まさか、本当にアレで上手くいくとは……」

「昔からだよ。正面からお願いすると絶対に聞いてくれない。が、命令するとどうしてかお願いを聞いてくれる。まあ、危ないから真似はしない方が……いてぇ!?」


驚くオルフェンに説明している最中に背後から頭を引っ叩かれた。ゴドーの仕業だ。


「余計な真似しやがって!後が大変なんだ後が!まぁたアイツらの嫁のご機嫌取りで丸一日費やす羽目になるだろうが!!」

「やかましいわ!村が跡形もなく消し飛ぶよりか遥かにマシだろうが!」


小さい事に文句を喚き散らすゴドーにこちらも文句を言ってると、ふとニーザが静かな事に気付いた。


「……ニーザ?」


ニーザを見ると、先程から展開しているままの無数の魔法陣をぼーっと眺めていた。

そして、何を思ったのか無邪気に微笑み………


「それっ。」


掛け声と共に魔法陣を起動させ、無数の光の矢が村の外へと向かっていった。

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