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第8話「器の正体」


「………アルシア、その鎧の魔族だが、何が目的だったんじゃ?」

「奴とは意思疎通が出来たわけじゃないから憶測でしかないが………、今までの事を考えると、たぶんだが器とかいうのを探してたんだと思う」


俺はそう答える。

何かを問うても攻撃という形で返す以外、あの鎧の魔族は答えなかった。

だが、もしマグジールと同じ陣営にいるのであれば、奴の狙いも器とやらなのだろう。


「では、やはり…………」

「…………フェンリル?」


フェンリルは暫し悩んだ後、おもむろに口を開く。


「器とは、ロキの遺体の事ではないか…………?」

「………ロキの、遺体?」

「アルシアよ、汝はロキが死んだのは見ておるのだろう?」

「ああ、間違いない」

「その後の遺体の処置について、スルトから何かを聞かされてはいないか?」

「……………………」


一度、自分の記憶を辿る。

あの時、グレイブヤードで結果的に最後の会話になってしまったスルトとの会話を思い起こす。

スルトは怒り狂う俺を宥め、何をしなきゃならないかを指示した後、こう言っていた。


『俺はやる事がある。合流出来るとしたら大分後だ。その前に死ぬんじゃねえぞ、アルシア』


記憶を思い返すも、それ以外の事は聞いていないと、俺は頭を振る。


「どうするかは聞いてない。ただ、やる事があるとだけ言ってた」

「なら、遺体の場所はスルトが………、」

「フェンリルは何か知ってるのか?」


頭の中で仮説を組み立てるフェンリルに俺がそう問うと、代わりにニーザが答える。


「スルトがアンタを止めに行ったあとにね。アイツがフェンリルに念話を寄越したの。『ロキの遺体の処理をする。』って」


大規模侵攻の発生が確定した事を考え、余計な影響が出ないように遺体の処理をしたということだろうか。

その処理方法が何かは知らないが、仮にスルトが自身の神核を抉ったとするなら喪われた残りの神核の行方はそれに使われた可能性が高い。


「ロキの遺体に、スルトの神核…………」


要塞で戦った鎧の魔族の事を思い出しながらある可能性に行き着き、フェンリル達を見る。

3人の表情を見るに、同じ考えに至ったようだ。

フレスが静かに、その答えを口にする。


「ロキの遺体にスルトの神核を埋め込み、手駒として使役するつもりか……」

「っ!?」


それを聞いてフリード達が驚くも、俺は根本的な疑問をフレス達に問いかける。


「出来るのか?」

「さあな。そもそも私達が知る限り、前例が無い。出来るのかもしれないし、出来ないのかもしれん」

「もし、出来たとすれば………」

「敵の本体に継ぎ接ぎの神体………、考えたくない展開だな」

「……………………」


室内が重たい沈黙に包まれる。

誰がどう見ても実現してしまえば最悪な展開に違いないからだ。

ただ一つ、ある違和感が俺の頭を支配する。

そこでふと視線を感じてそちらを見るとフェンリルだった。

僅かに怪訝な表情を浮かべている辺り、同じ疑問に辿り着いているのかもしれない。

しかし彼女はそれをすぐに引っ込めてから、ニーザ、フレスにも視線を向ける。


「3人とも、すまぬが念の為ロキの遺体を探してくれぬか?最悪、場所だけでも分かればいい」


フェンリルの指示を聞き、俺達は頷く。


「………分かった。それならニーザ達は大陸を目ぼしい所を調べてくれるか?俺は別方面から調べて、何か分かったら念話で知らせる」

「別方面って?」


ニーザの問い掛けに、俺は答えるか一瞬迷ったが、事態が事態なので素直に答える。


「………セシャト砂漠に向かう」

「………あー」

「…………………」


行き先を聞いて全てを悟ったフェンリルが納得しながらも微妙な顔をし、フレスも珍しく嫌そうな顔を、対照的にニーザだけは目を輝かせていた。


「アタシも行くわ」

「え、いや……、それはちょっと………」

「なーんーでーよー!?」


いきなり遠慮する俺に、ニーザが背中の翼でぱたぱた飛びながら俺の肩を掴んでぶんぶんと揺らす。

セシャト砂漠に向かうには距離の関係上、途中の村でどうしても一泊はする。

大人の方のニーザが出てくる可能性があるので、ニーザと2人はどうしても遠慮したいのだ。

主に、過去の経験のせいで。

部屋に結界を張って布団に包まって、ガタガタ震えながら朝を待つのはもうやりたくない。

だが、フェンリルはそんな俺の気持ちを知ってか知らずか、無慈悲な指示を飛ばす。


「それならアルシアはニーザと共にセシャト砂漠へ向かえ。ニーザと共に行けばその分早く着くだろう。それに、もし妾の予想通りならあまり時間は無いと見ていい、今回ばかりはワガママは許さんぞ。よいな?」

「………分かった。」


がっくりと項垂れる。

最早これでは決まったも同然だ。

ニーザはセシャト砂漠のに行ける事を喜んでいるし、これ以上ごねるとアリスにしばかれかねない。

しかも仕事で行くのだ。諦めるしかないだろう。

話は終わりとばかりに、フレスが動き始める。


「決まりだな。それなら私は最初に巨人族の廃村、ルグネット火山、アスレウム溟海を周る。君はどうする、フェンリル?」

「妾も探したいところだが……、汝らが留守中に王都が攻め込まれる可能性もある。時間はあまり無いが、丁度いい。アリスの力を鍛えながら待機するとしよう。」

「アリスはいいのか?」

「はい。フェンリルさんと話し合って決めてます。私の……、の力を完全に制御する為に。」

「神…、殺し……?」


俺達が会話する中、フリード達は耳慣れない単語に眉を顰めた。



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